お風呂の後 デグダスは世話を焼くのがとても好きだ。そしておれは身の回りのことは少しだらしない。だから一緒にいると、際限なく甘えてしまう。
風呂から上がるとキミはおれの髪まで拭いて乾かしてくれる。その間、キミは自分のことは最低限しかせずに髪もほとんど塗れたままだ。いつも自分のことより他人のお世話を優先してしまう。
「悪いな、デグダス。あとでキミの髪を乾かすのを手伝うから」
「おれの髪なんかすぐに乾いてしまうから大丈夫だ! 特にこんな暑い夜はな」
「でもそのままだとキミはなんだか塗れた子犬みたいだからさ」
「わ、ワンワン? そうかな?」
言われてその気になってしまったのか、キミは首を左右に何回か振った。しゅぱぱぱ……と本当にシャワーの後の子犬みたいに水を跳ねさせる。しかし子犬、と言っても大型犬のでっかい子犬だ。
「よし。さあグランツ、あっちを向いて座ってくれ」
「ああ」
キミの手にはブラシ。子犬用……じゃなくて、人間用だ。でもキミが自分で自分の髪に使うことはない。それはキミがおれの髪をとかすとき専用のブラシだ。おれが自分の髪をとかすときには使わない。なぜならおれの手にはデカすぎるサイズだから。
「なあ、今日は本当にあとでおれがキミの髪を乾かすからな」
「うんうん」
キミは大きな手で大きなブラシを持って、風呂上がりでボサボサのおれの頭を撫でるようにとかしていく。弟や妹の髪をとかしているときと同じ手付きだ。不器用で大雑把で繊細ではないけど、優しい。
「塗れたままにしてるとキミが風邪を引いてしまうかもしれないだろ?」
「うーん、でも本当にもう乾いてきたぞ。それよりほらほら、こっちを向いたらいけません」
「わかってる」
キミの指が髪をすくい上げると、耳元をくすぐられるような気分。くすぐったくて心地いい。だんだん眠たくなって、くる。
「かゆいところはございませんか?」
「ない、かな……」
「むふふ。気持ちよさそうだな」
「ん」
目がしぱしぱしてくる。何度もまばたきをする。とろけるような心地よさで、目を開いたままでいられない。
「よしよし、サラサラになってきたぞ」
だめだ、意識が一瞬飛んでしまった。このままこっくりこっくりと眠りに落ちてしまいそうだが……だめだ、キミの髪を乾かさないと。
だけどキミの声も眠たそうで、柔らかだ。