寝言 寝てるときまで顰めっ面だ。こんなに可愛い大ガマ様が隣で添い寝してやってるってのに、一体何が不満なんだか。眉間のシワを指でつつくと、むう。と唸った。いびきか? こいつ、身も心もすっかりお爺ちゃんだからな。にしたってもっと安らいだ寝顔を晒したり出来ねえのかよ。
夜中にふと目覚めて、閉じた窓の外から差し込む月の僅かな灯りで土蜘蛛の顔を覗き込む。つついても顰めっ面に変わりはない。腹が立ってきたからもっとつつく。
「ぐ。お、おおがま」
「お」
いびきに混じって何んだか愉快な寝言が聞こえた。
「はいはい。あんたのかわいい大ガマ様はここにいるぜ」
寝言と会話したって仕方がないが。返事をしながら眉間をまたつつく。寝言の返事の返事の寝言は、またいびきだ。
「どんな夢見てんだ?」
いびきじゃこんな質問にも応えられないか。まあいい。おれの機嫌はもう直った。
「ゲコっ」
と思わず笑いが漏れた。
「ぬう。大ガマよ」
「なんだ? まだオレの夢を見てるのかい?」
「なんだと」
そこでようやく、ハッと金色の目を開いた。そうして顰めっ面がほどけてポカンとした顔になる。
「何度もオレの名前を呼んでたぜ。夢じゃどっちが夜這いに来たんだ?」
「夢だと?」
まだ寝ぼけた声で低く唸る。それからすぐに顰めっ面に戻ってしまう。
「夢など見ておらぬ」
「オレの名前を寝言で呼んでたのは?」
「寝言ではない。お主が夜半にも喧しいから、苦情の申し立てをしていたのだ」
「そうかい。すっかり寝入っているように見えたけどな」
「お主のような仇敵を懐に抱いて、深く寝入るような油断はせぬ」
こいつのような天の邪鬼がそう言うということは、さっきまでよほど深く眠っていたってことだろう。それならいいか。今夜はやっぱり、ひとまず許してやろうじゃねえか。