ごほうび「よーしよし。今日はお疲れさまだ!」
夕暮れの平原の一角に時間通り集まった弟子たちに、キミは予め用意しておいたアップルジュースのビンを一人一本ずつ手渡していた。昼にマーケットで買っておいたものだから冷えてはいないけど、涼しくなってきたこの季節にはその方がいいだろう。今日の採掘は試験も兼ねていた分、頑張った弟子たちへのキミからのご褒美というわけだ。
マーケットからの帰り道では何本ものビンを抱えてカチャカチャ鳴らしながら運んでいて、うっかり割っちゃったりしないだろうかと心配だったけど、渡し終わってみればちゃんと全員分無事だった。むしろ予備で買った分が一本残っている。
キミはうっかりも多いけど、いつもこんなふうに弟子たちへの気遣いもとても優しくて、おれはただただ羨ましい。
「デグダス、余った分はどうする?」
「む? 余りなんかあったっけ? うっかりたくさん買ってしまったかな」
「予備を買っておいたんだろ? ほら、これ」
「あ! それはおまえの」
振り返ったデグダスが何かを言おうとした。が、それよりも先にその余りのアップルジュースを物欲しそうにキラキラした目で見ている小さな弟子が目に入る。
もちろんキミも、その子に気が付いた。自分の弟子のことだから当然だ。
「しょうがないな。他のヤツらにはヒミツだぜ」
キミがそうするだろうと思ったから、おれが先にそう言ってその子に手渡した。確かその子はキミの弟子の中でも一際大食いのヤツだ。ジュースもビン一つなんかじゃ足りなかったんだろう。
「これでちょうど全部なくなったな」
「ウンウン」
キミが腕を組んで満足そうに頷く。もらったご褒美を大事に抱えて、あるいはそのままコルクを抜いて飲みながら帰っていく弟子たちの背中を眺めながら、キミは非常に満足そうだった。
「そういや、さっき何を言いかけたんだ?」
「さっき? ああ、さっきか。あれはおまえの分のご褒美だ、と言おうとした。みんなにはナイショだぞ」
「おれの?」
「ああそうだ。マーケットへの買い出しを手伝ってくれたからな」
「あはは、そういうことか! 別におれなんかに気を使ってくれなくても構わないのに。でも、どうして内緒なんだ?」
「採掘師マスターの分のアップルジュースを飲んでしまったと知ったら、あいつは気にしてしまいそうだからだ」
「気にするような子なのか?」
「うむ」
なるほど、とおれは頷く。やっぱりキミは弟子たちのことはよく見ているらしい。実に羨ましい。
「しかし困ったぞ。グランツのご褒美がない!」
「キミがくれるならなんでもいいぜ」
「いつもおまえはそう言うけれども、なんでもというのが一番困るのだ」
「じゃあ、帰りにマーケットでジュースを二本買って帰ろうか。アップルジュースより麦ジュースの方がいいな」
「それはいい考えだ! ん? 二本?」
「一本はキミの分のご褒美だ。今日はキミも頑張ったんだから、必要だろ? おれからキミへのご褒美」
「グランツからおれへのご褒美!」
夕日の中でキミが黒い目を輝かせた。さっきジュースを余分にもらった食いしん坊の子にも劣らないくらいの喜びようだ。
なんてかわいい男なんだろう、キミは。
「さ、行こうぜ。今の時間ならマーケットにはキンキンに冷えたのが出始めてるはずだ」
「うーん、店先で飲めるところにするのはどうだ?」
「あはは、いいな! そうしよう! ついでに飯も食って帰るか」
「ぜひともそうしよう! 実はもう喉も乾いてお腹も空いてたまらんのだ!」
「ふふ、やっぱりキミにもご褒美が必要だったな」
「おまえはなんでもお見通しだな」
「おれはキミばっかり見ているからな」
「……むふ」
自分の言葉を証明するように、キミの顔をじっと見つめる。するとキミは無精髭の頬を気恥ずかしそうに人差し指で少し掻いた。そのかわいい口元は、さっきからニコニコと笑ったままだ。