昔から しょんぼりと肩を落としてうなだれていても、キミの身体はとても大きい。
「ちょっとかがんでくれないか?」
「おう」
返ってきた一言も元気がない。背を屈めて、頭をうなだれ、赤いくせっ毛がそっと揺れる。それでもおれはちょっと背伸びをして、キミの頭へ手を伸ばした。
「お」
「よしよし。おれはキミが落ち込む必要はないと思うが……。ま、こんな日もある」
「……うむ!」
背は屈めたままだけど、キミの黒い目は元気に見開かれて少し上目遣いにおれを見た。
キミに見つめられながらキミの頭を撫でるのは、なんだかとてもくすぐったい気分だ。手のひらに感じるキミのくせっ毛もくすぐったい。
この場合、キミの方がくすぐったいのかもしれないが。
「いいな、これ!」
「あははっ。昔からよくキミがおれにしてくれたからさ」
「うんうん、そうか。うーん、いいものだなあ……」
キミは今度は目を閉じて、上機嫌に鼻歌を歌い始めた。実に気持ちよさそうに。そんな顔されると、おれまでうれしくて吹き出してしまう。愉快なわけじゃないんだが。
とはいえキミは背を屈めたまま窮屈そうだ。
「背中は痛くないか?」
「ムフフ。なんのこれしき! あっ、おまえの足が痛いかな!?」
パッと目を開けたキミが大きく腕を開いて、驚いてるうちにおれはキミの腕に抱きしめられていた。背伸びしていた足がバランスを崩して、おれはキミの胸に倒れ込む。
もちろんキミの頭を撫でていた手も、キミの背にしがみついたせいで外れてしまう。
「あっ……と。このくらいで音を上げたりなんかしないぜ? ははっ、続きは家に帰ってからにしようか」
「続き」
「ああ。キミがソファにでも座ってくれたら、やりやすいな」
「……なるほど! じゃあ急いで帰るか!」
キミはもう一度、腕にぎゅっと力を込めておれを抱きしめた。それから見つめ合ったときにはもうキミは少しも落ち込んではいないみたいだったけど、家に帰ってからもキミの頭を撫でてもいいらしい。
キミにとってはちょっと不幸な日だったけど、おれにとっては少し幸運な日だ。