呼吸の音 ふう、と一息をついた。洞窟は静かで、おれのため息ばかりがホワンと響く。少し離れたところでピッケルを振るっていたグランツが振り向いて、声を上げて笑った。
「あっははは。休憩にしようか」
「む。おれのため息は、そんなにうるさかったか?」
「静かだからさ。キミの呼吸の音ばかり聞こえるんだ」
と、ケラケラ笑いながら駆け寄ってくる。
そんなにハアハア言っていたかな? ピッケルを振るっているときはそりゃあもちろん呼吸も荒くなるものだが、そのヒイヒイハアハア言っているのをグランツにしっかり聞かれていたかと思うとちょっとばかり恥ずかしい。
思わず片手で口元を塞いだ。
いつだって一緒に採掘をしているのだから今更なことではあるけれども。
「キミの呼吸が聞こえると、安心する」
「もが。ほうなのあ!?」
「ああ、そうなんだ。あはは」
グランツの笑い声も洞窟の中にホワワン、ホワワンと反響した。これはいいものだ。しかしおれの息の音となると、どうだろうかなぁ。
「でも、こうして近くで聞こえるのは、もっといい」
笑いながらお喋りをするグランツが、ぐっと背伸びをしておれの鼻先に顔を近づけた。
鼻先というよりも、しかし今は手の甲の近くだ。グランツが笑うたびに、革の手袋の上に吐息がそよそよする。その伝わってくるような気のせいかもしれないような、かすかなそよそよ具合が非常にもどかしい。
「やっぱり聞こえてしまうかな?」
「おれはすごく耳を澄ましているからな」
「ンムム。じゃあこれは意味がないか」
「あはは」
そうっと手をどけるとやっぱりグランツの笑い声とともに息が顔に吹き掛かる。そして、楽しそうな笑い声の合間の呼吸の音も、しっかり聞こえた。おれもしっかり耳を澄ませてしまったのだ。
これは余計にもどかしいぞ。