お名前「デグダス、デグダス」
とんとん、つんつん、ほっぺをつつかれている。ちょっと冷えた指先がくすぐったい。「むふふ」
なんていい夢だろう。グランツが耳元でおれの名前を呼んでいる。とても楽しそうな声だ。今にも笑い出しそうなのを我慢している、そんなときのウキウキはねる声だ。
どうしておれの名前を呼んでいるだけで、そんなにうれしそうなのだろう? とっても不思議だが、おれもそんな気持ちのときもある。同じ気持ちを思い出して、おれもムフムフ夢の中で笑ってしまう。
「今朝はキミの好きなものを作ったぜ」
「うーん」
そうか朝なのか。言われてみれば、眩しいような夢だ。じゃあ起きないと。
ううん、でも、しかしそれにしても、その『キミ』という響きも、たいへんむず痒く幸せなものだなぁ。
だがしかしだぞ、もう一回ぐらい、お名前を読んで欲しい……かもしれない。
ゆさゆさ、とグランツの手が肩を掴んでゆっくり揺らし始めた。ゆーらゆーらとゆりかごのようで、これはまた……ねむたく……。
「ほら、デ」
このままではいかん! 名前を呼んでもらいたい!
「グランツ! 起きたぞ!」
「わ」
がばり、素早く目を覚まし、ベッドから起き上がった。勢いがよすぎてグランツのお顔にコツンとぶつかりそうになる。
朝の爽やかな空気のなか、目の前のすぐ近くに、目を丸くしたグランツの顔。
「……ふっ、あはははっ! キミは朝から元気だな!」
噴き出したグランツの息がしっかり吹き掛かる。ということは、おれの方も、そうなっているな。ドキドキだ。
「おはよう、グランツ。ひとつお願いが……」
「おはよう、デグダス。何だ?」
「あっ。いや……」
「キミの願いならなんでも聞くぜ。遠慮なく言ってくれ」
「いやぁ、それがもう叶ってしまったんだ」
「うん?」
グランツが不思議そうにおれの顔を覗き込んだ。照れる。とても照れる。グランツのキラキラの目に見つめられながら、夢見心地で考えたお願いのことを改めて思い出してみると……とてもとても照れる!
「おまえはすごい男だ」
おれはまだお願いを言っていなかったのに、もう叶えてくれるなんて。しみじみと関心する。
「なんだかわからないが……。おれはキミのためならなんだってするぜ。おれにして欲しいことがあったらいつでも言ってくれよ、デグダス」
あっまた!