仕返しは明日 暑い。重い。せっかく気分よく寝てたっつーのに。
上に覆いかぶさっていた何かを跳ね除けた。涼しくなる。なんだ? 思ったより軽い。イワカンを覚えて起き上がる。
朝だった。布団に座って、さっき跳ね除けたものを見下ろすと、毛布の塊がオレ様の横にくしゃくしゃになって落ちている。その下にらーめん屋が埋まっていて、さらにその向こうにチビがマヌケ面で寝ている。マヌケ面は、らーめん屋も同じか。隙だらけの気の抜けた寝顔だ。部屋ン中に響く二人分の寝息もマヌケだ。
さっき跳ね飛ばしたのはらーめん屋じゃなかったのか。重てぇ熱いの、らーめん屋の腕かと思った。夢だったのか? こっちは力任せに吹っ飛ばしたつもりだったのに。
らーめん屋の、何事もなかったかのような寝顔。
いや……タヌキネイリとかいうヤツかも知れねー。らーめん屋はそういうくだらねーことを、よくやる。
だとしたらオレ様の出方を伺っているはずだ。
らーめん屋の顔の左右に腕をついて、その顔を見下ろした。らーめん屋はアマいヤツだから、どーせすぐボロが出る。やけに規則正しい寝息もうさんくさい。らーめん屋、笑いながら寝てやがる。
そういや一番最初に起きたのは久々だ。チビもらーめん屋も静かなのは意外と気分がいい。朝っぱらから起きろっつってデカい声の歌を聞かされたり、喧嘩挑まれたりすんのはウゼェ。それに、らーめん屋がときどきしてくるアレも、ウザい。寝込みを襲ってまでやることかよ。
……まあ、こうして無防備なツラを見てると、仕返しでもしてやろうって気も起きなくもない。今なら。らーめん屋もいつもこんな気分なのか?
オレ様が狙ってることに気づいてるのか、気づいてねーのか。らーめん屋は息を吸うたびにそのブ厚い胸を上下させている。鼻もピクピク動いている。それがマヌケで面白い。吹き出しそうになるのをこらえる。
「おい、やるのかやらないのかはっきりしろ」
「ア!?」
急に横から聞こえてきたチビの声に、今度はマジで飛び起きた。布団から後ずさって離れる。チビとらーめん屋、二人から間合いを取っただけだ。
「起きてンのかよ!」
「さっきオマエが急に暴れたからな」
ノソノソとチビが寝ぼけた顔で起き上がる。らーめん屋は、寝てる。いや、起きている。寝っ転がったまま、目を開けてニヤニヤしてる。
「あっはっは、黙ってたら漣がキスしてくれるかもと思ったんだがな」
「しねぇ! ンでオレ様がんなこと」
「いつものお礼をくれてもいいじゃないか」
「お礼じゃなくて仕返しだ」
「するつもりだったのか? ……オマエ、案外純情だよな」
「アァ? どういう意味だよ?」
チビが変な顔のままため息をつく。どういう意味だかわかんねェが、ただムカついた。
「まあまあ。漣、朝方寒くなかったか? さっき毛布全部蹴り飛ばして寝てたぞ」
「三人も居たら寒くねェっての」
「そうか、それならいいんだ」
なにがいいんだか知らねぇが、らーめん屋は勝手に納得していつもどおりに布団を畳み始めた。
つーことは、やっぱ一番最初に起きたのはオレ様じゃなかったってことか。チビには負けてねぇみたいだが。明日はぜってー一番に起きてやる。