眠れない夜 チビとらーめん屋がずっと喋っててうるせぇ。電気も点けっぱなしで眩しい。……ときどきオレ様の名前が、聞こえる。何の話してんだか。聞くに堪えねーしょーもない話。眠いっつーのに腹が立つ。
一度布団の中に潜ってうるさいのも眩しいのも無視しようと思ったが、どうしても気になる。隣で寝てるらーめん屋の方にこっそり近づいて、布団から少しだけ顔を出した。
らーめん屋はあっち、チビの方向いてる……はず。
「漣?」
だと思ったのに、すぐ気付かれた。油断ならねぇ。
「眠ったんじゃなかったのか」
「チビとらーめん屋がうるせーから」
「あーそうか、ごめんな」
「俺も円城寺さんもデケえ声出してねーけど」
「……オレ様の話をしてただろ。うるせーんだよ」
「あはは、聞こえてたか。でも悪い噂じゃないぞ? 今日タケルがな、インタビュー記事で……」
「円城寺さん!」
「今更照れることないだろ? 漣にもだいたい聞こえてたみたいだし」
「うるっせぇな……いちいちらーめん屋が繰り返すんじゃねェ。オレ様はなんにも聞いてねーし、眠いんだよ」
「ならおやすみのキスでもしようか」
「はぁ? なんでだよ」
「眠れないみたいだから」
なんで眠れないからってンなことされなきゃなんねーんだ。らーめん屋、ヒトの話聞いてねー。確かに寝る前にいつものされなかったけど。らーめん屋とチビが話し込んでて、それがうるせーから布団の中にすぐ避難したせいか。
やれなんて言ってねーのにらーめん屋は寝返り打ってこっち向いて、オレ様の頭を片手に捕まえた。そんでもう片方の手でオレ様の前髪をどかして、額に口を押し当ててきた。生暖かいし、ちょっと濡れてる。オレ様がやめろと言わなかったからなのかチョーシに乗って、二回、三回、いちいち吸って離れてってのを繰り返した。
「満足したか?」
別にオレ様がやれって言ったわけじゃねー。なんでそうなるんだよ!
ムカついてそう言ってやろうと思ったが、額のされたとこがムズムズくすぐったくてそれどころじゃなかった。
だってのに、らーめん屋はもうチビの方に向き直ってオレ様に背中を見せてやがる。
「もう遅いし、タケルもそろそろ寝るか。話の続きは明日、漣も起きてるときにしないか」
「いや、別に俺はコイツに聞かせたいわけじゃなくて……コイツがどう思うかも知らねぇし……」
あーうるせェ! 最初から聞こえてるっつーの。寝るっつったのにらーめん屋とチビはまたごちゃごちゃ喋ってる。オレ様の話をしている。あちこちムズムズする。とりああえずらーめん屋にさっきされたとこ。三回もされたからな。三回も。
「……何やってんだ、ソイツ」
「今日はなんだか甘えん坊だな」
違え。らーめん屋にされたムズムズするのを拭くのにちょうどいいのがらーめん屋の背中しかなかったからだ。
背中に頭を押し当ててグリグリしてるとなぜからーめん屋が笑ってるのが振動で伝わってくる。
「甘えん坊っつーかガキみてぇ」
「照れてるんだよ。タケルがあんなこと言うからさ」
それも全ッ然ハズレだ! ムズムズしてムカつく。さっさと寝てーのに、チビとらーめん屋のせいだ。