がとうる 伊月誕 「……あった」
十一月四日。漆原伊月は自身の誕生日であるこの日に東京二十三区内にある、ディスカウントストアのドン・キホーテのとある一店舗に来ていた。
所狭しと商品が積み上げられた煩雑な店内の、缶詰や乾物が多く置かれた一角。とある大きめの缶詰を両手で大切そうに手に持って漆原伊月はつぶやいた。
「大粒みかん(みかんジュース入り)二号缶。『ジュースと果肉が二度美味しい 砂糖不使用みかんジュースで満たされたみかん缶 大粒LLサイズのみかん約五個分を贅沢に詰め込みました』。やっと見つけた……」
漆原は安堵した表情で缶詰を抱き留める。子供が最愛のぬいぐるみを抱き締めるかの様だ。
「缶詰あったか?伊月」
後ろからショッピングカートを押しながら金髪の派手な伊達男ーー牙頭猛晴が漆原に声を掛ける。カートの中には酒のつまみやナッツの大缶が入っていた。
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