【夏祭り】しん+おみ 少し不思議系小話 謎時空
【夏祭り】
怖い話ねぇ──怖くはないが、変な話ならあるぜ。
オレがガキの頃の話なんだが───
オレは小学校上がったばっかだったか。
その年の夏祭りに真──ダチと遊ぶ予定だったんだ。
うるせぇな。ガキなんだしいいだろ、ダチと祭り回っても。
まあ、予定”だった”が、当日にダチが熱出してよ。オレは一人で回った。
同じ小学校のヤツがいるだろうし、一人でも祭りは楽しめると思ってな。
一人で鳥居をくぐって賑やかになった境内へ。
そしたら、変な男に声を掛けられたんだ。
あー? 変質者、ではないと思う。オレは何もされなかったぜ。
ソイツは紺色の浴衣を着た大人の男、みたいに見えた。アヤフヤ過ぎねぇかって?
黒髪の短髪で背は高かったし、声も低かったんだが、肝心の顔はお面つけてて分からなかったんだよ。
ガキの頃に流行ってた戦隊モンのヤツ。滅茶苦茶浮いてたンだが、周りのヤツらは気に掛けてなかった気がする。
「オマエ、一人か?」
「…………」
あのなぁ、ガキがヤバそうなヤツに声掛けられてみろ。普通に怖くて動けねぇだろ。
オマエらは大人でも蹴り飛ばせるかもしれねぇがよ。
「オレと一緒に回ろうぜ!」
「……お兄さんと?」
何でだろうな、変な格好だったけど悪いヤツには思えなくて一緒に遊ンじまった。
チョロすぎる? だよな。オレはダチとは違って人見知りする繊細なガキだったんだが、ソイツは人懐っこくて気を許しちまったのさ。
「オレはしん……えーっと、レッドマスクだ!」
「それはお面の名前じゃん。オレは──」
「オマエはブルーマスクだ!」
「えぇー! オレ、ブルーよりブラックマスクの方がいい!」
「あれ? オマエ、ブルーのお面持って……今日だけ、な! 頼む!」
「…変なの。じゃあブルーでいいよ」
「サンキューな! ブルー!」
仮面渡されてあだ名を名乗って呼ばれて。思い返しても変だよな。
でも言動は普通というか、弟や妹がいるってンで兄貴っぽい感じだったよ。
オレの話を聞いて面白そうに笑ってたな。気が付いたら打ち解けていた。
ただ、変なヤツだったのは変わらなかった。
人混みではぐれないようにオレは手を繋ごうとしたんだが、ソイツはオレの歩幅に合わせても腕を組んでいて手は繋げなかった。浴衣の袖を掴んどけって言ってな。
あと、食べモンの屋台は全部ダメだって怖い声で言って絶対立ち止まらなかった。
屋台からはスゲェうまそうな匂いしてた。けど、ソイツは首を振るんだ。
気にはなったが屋台のメシって高いだろ? いつもならダチと金出し合って分けるから色んなモン食べれたけど、オレ一人の小遣いじゃな。男もそう言うし、我慢して遊ぶ方に金を使ったんだ。
クジ、射的、ボール当てに輪投げ、金魚すくい──色々やったが、とれたのは金魚だけだったな。
男はオレが遊びたいヤツに付き合ってくれていたけど、金魚すくいだけは男が言い出した。
「最後に金魚すくい行こうぜ」
「えぇー金魚すくい? オレ、とれたことないよ」
「コツがあるんだって。教えてやるよ」
教えてもらったコツで一匹すくえたよ。出目金? ははは、とれたのはメダカみてぇな細っこいヤツだ。
達成感で満たされて小さいビニールの中で泳ぐ金魚が立派に見えたぜ。オレも純真な頃があったのさ。
その金魚を祭りの日に熱出したダチへの土産にしようと思ってたンだがよ、男が欲しいって言うからくれちまった。
オレもダチも育てられるか、つったら微妙だしな。言い出すくらいだから金魚が欲しかったんだろうと。
鳥居をくぐって帰ろうとしたオレに、男は別れの言葉を言ったんだ。
「じゃあな。もう来るなよ」
言葉は冷たかったが、寂しそうな声だった。思わず振り返って男を見ようとしたが、消えてた。
オレは境内に戻って男を見つけようとしたけど、結局見つからなかったよ。背がデカくて戦隊モンのお面つけてるヤツなんて目立つはずなのに。
───話はこれで終わりだ。別に家に帰っても何ともなかったぜ。熱が出たり腹を壊したりなんてしなかった。
昔、ばあさんがよく言ってたんだが、祭りは人以外も遊びに来るから気をつけろ、知らないヤツにはついていくな。
───もしかすると、アイツは人間じゃなかったかも知れないな。