Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    krimstowrds

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 29

    krimstowrds

    ☆quiet follow

    スミイサ/花屋バース②
    ※スミ→(←※自覚無し)イサ

    最初①https://poipiku.com/9568623/10481928.html
    次回③https://poipiku.com/9568623/10521473.html

    Scintillation 何かやってみたいことはあるかと訊ねてみると、線香花火がしてみたいとの事で。手持ち花火は数あれど、どうして線香花火なのかと思えば、アメリカにいた頃にアニメで見たことがあって、とスミスは照れ臭そうに頬を掻いた。
    「派手に火花を散らす花火も綺麗だけど、線香花火は特別な感じがして……花火の締めくくりで登場することが多いせいかな? いつかやってみたいって憧れがあったんだ」
     子供っぽかったかな……と申し訳なさそうに垂れる眉を見て、そんなわけがあるかとイサミは首を振る。
    「そういう事なら任せろ」
     力強く答えればスミスは破顔して、その顔だけでイサミは有り余るほどの対価を得た気分になったのだ。
     幸いにもイサミの家はささやかながらも庭付きの一戸建てだ。念のためにご近所さんに庭先で花火をしても良いかと訊ねて回ったが、祖父母の代から付き合いのあるお宅ばかりだったのが功を奏して快く承諾してくれた。後は花火の調達であるが、今どき花火はコンビニでも売っている。スミスの要望は線香花火とのことだったが、彼が〝締めくくり〟と言ったように線香花火だけでは寂しかろうとセットを購入しておいた。
     スミスと、彼の娘であるルルがイサミの家を訪ねたのは午後六時。どうせだから夕飯もうちで食べればいいと誘っておいたので、三人で仲良くひやむぎを啜った。いつものイサミであれば素麺にするところ、ルルが喜ぶかなと思って色付き麺の混じったひやむぎにしたのだが、案の定ルルはピンクと緑の麺を喜んで食べてくれたのでイサミは嬉しかった。
     夕食を終え、日が落ち辺りが暗くなってきたところでようやく花火の時間となった。普段は花の水やりに使用しているバケツにたっぷり水を組み、細い蝋燭に火を灯す。茜色の光がぼんやりと広がると気分も高まってくる。
    「ルル、いいか? 火を点けるのは俺と一緒にだからな」
    「らじゃー!」
     ルルの背中を抱え込むようにして、花火を握る小さな手を大きな手が包む。そうっと、恐る恐るといった調子で花火の先を蝋燭の火に点け……パシュ、と軽やかな音と共に火花が散った。その瞬間に聞こえた「ワヒャッ」という奇妙な悲鳴がどちらのものであったか、耳のいいイサミにははっきり聞こえていたが、聞こえなかったふりをした。
     七色の光がチリチリと踊る。二人が楽しそうならそれで満足だとイサミは鑑賞に徹するつもりでいたのに、あっという間に一本目が燃え尽きルルが二本目を手に取ったところで「いしゃみも!」と誘われてしまった。
    「いや、俺は……」
    「おいおいイサミ。まさか主催者を放って俺たちだけで楽しめって? そりゃないぜ」
    「ないぜー!」
     こっちにおいで、と手が差し出される。イサミはその手と、スミスの顔を何度か見比べて、やがて諦めてその手を取った。
    「そう来ないとな!」
     縁側から引き上げる腕があまりにも力強くて、馬鹿力、とイサミは笑う。そうしたらスミスが得意げな表情で力こぶを見せつけてくるものだから、おかしくて仕方がない。
    「あんたなら10号サイズのパキラも片手で運べるな」
    「それが何かはわからないけど、イサミまでなら余裕だぜ」
     証拠を見せようか? と腕を広げてくるスミスを「冗談言ってんな」と笑い飛ばしてイサミも花火を手に取った。仲の良い友人同士の戯れの筈なのに、スミスの腕を躱したイサミにどうしてかスミスは心底不服そうな表情で、けれど目が合えば仕方なさそうに微笑まれる。それは何の顔だよ、とイサミは不思議に思ったけれど、あっという間にいつもの調子に戻ったスミスにイサミの疑問もすぐに溶けて消えていった。
     代わる代わる花火に火を灯す。チリチリ、チラチラ、ゴウゴウ、光の粒が、流線が、煌めいては消えていく。一瞬の輝きの中にルルのはしゃぐ甲高い声が響いて、気づけばイサミも声をあげて笑っていた。花火が楽しいなんて感覚をもうずっと忘れていたのだと、今更ながらに気が付いた。
     あらかた遊んでとうとう目的であった線香花火に辿り着いた頃にはルルは随分と眠たそうに舟を漕いでいて、もうろくに目も開けられないでいるのにまだ遊びたいと駄々をこねるルルを「またすぐに遊びに来たらいい。ルルなら大歓迎だ」と約束をかわして寝かしつけた。蚊取り線香を焚き、腹にはタオルケットをかけてやる。呼吸に合わせて大きく膨らむ腹を見て、スミスと顔を見合わせて笑った。健やかで何よりだ。
    「ルルには悪いが、あとは大人二人で楽しむか」
    「……いいのか?」
    「いいだろ。元々あんたの希望なわけだし。ルルには次を約束したから問題ないだろ」
     そうか、とじわりと滲むようなスミスの声には高揚があった。そんなに楽しみだったのかとルルに向けたものと同じ微笑ましさを感じながら線香花火を手渡してやり、二人で火を灯す。
     パチッ……とこれまでになくささやかな破裂音。丸く、まろく、とろりとした火球から四方に咲く火花。橙の火がいっそう明るく見えて、すっかり日が落ちたのだと実感する。
     顔を上げれば柔らかな光にスミスが照らされていた。明るいところで見ると鮮烈なほど眩しい金色の髪は月明かりのように輪郭を崩し、青い瞳の中に星が散っている。
    「綺麗だな」
    「え?」
     ぱっとスミスが顔を上げる。線香花火のように光が散った。
    「綺麗だ」
     イサミは微笑む。
     綺麗だ。花火も、あんたも。声にはせずに心の中で言って、けれど満足で、嬉しい。
    「そ、……うだな」
     スミスは何度も瞬きを繰り返し、ごくりと喉を鳴らす。
    「綺麗だ……」
     イサミを見つめたまま、切なげに眉が寄せられる。あまりにも切羽詰まった表情にイサミはフっと喉から息を洩らした。
    「あんたってオーバーリアクションだよな。そんなに気に入ったのか? 線香花火」
    「え!? あ、ちが……ああ、いや、うん。そうだな……気に入ったよ、凄く」
    「なら良かった。用意した甲斐があったよ。……あ」
     クスクスと喉の奥で笑っていたら、ぽたんと火球が落ちて花が枯れた。線香花火の終わりはいつも呆気ない。一拍遅れてスミスの花火も火が消えて、静けさのなか、虫の鳴き声が耳に入る。唐突な終わりは残念で、けれどどこか清々しさもある。
    「……終わるか」
     丁度いい、後は片付けて、暫し休んで、それから帰宅の準備をするといい。ルルはよく寝ているし、スミスの家に着くまで起きないだろう。
     花火の残骸とバケツの処理をしようと立ち上がろうとしたイサミを、しかしスミスの手が引き留めた。
    「ごめん」
     辺りを照らしているのは今にも消えてしまいそうな細い蝋燭と月明かり。
    「もう少しだけ……」
     お願い、と手を握られた。汗で湿った手が、微かに震えている気がする。イサミを引き上げた時はあんなにも頼もしかったのに。
    「駄目かな」
     薄暗がりの中でも端整な眉が八の字を描いているのがわかる。それがさみしい子供のように見えて、イサミは放ってはおけなかった。
    「いいぜ。スミスの気が済むまで、いくらでも」
     大丈夫だと安心させてやりたくてその手を握り返せば、ビクンとスミスの体が跳ね上がったのが伝わってきて、けれどすぐさま、逃すまいとばかりに力が籠められた。逃げねぇよ、と言いたくて、同じだけの力で握り返してやればじわりと体温が融け合うようだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺🙏🎇💞🎇🎇🎇🌟🌟🎆🎆🎇🌠🎇👡🌌🌕🌌💙💚🎆🎇🎆👬
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works