俺の十四も歳の離れた弟は泣き虫な子だ。溺愛する馬鹿な兄の贔屓目ではなく、頭も良いし運動神経にも優れ、勘が良すぎるために怖いものが多い子なのだ。おまけに少しばかり優しすぎる。怖いものが多いのに、怖いものから目を逸らせない難儀な子だった。
「兄ちゃんがついてるぞ」
これは弟が生まれてから染みついた俺の口癖。
今日は一体何に怯えたのか、目にいっぱいの涙をためる弟を抱き締めて俺は精一杯優しく囁く。
怖いものを無くしてやることはできないが、退けてやる。怖い思いをしたって俺がついている。いつでもお前の味方なんだと抱き締める俺の腕を、一所懸命に握り締める小さな手。愛しくてたまらなかった。
十四も歳が離れているとなると、父親のような感覚だったのかもしれない。けれど残念ながら俺は父になる機会に恵まれなかったので、真偽は定かではない。もしも本当にこれが父性だったとすれば、俺はあの子に兄性と父性を味わわせてもらったことになる。ありがたいことだ。
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