幾星霜の記憶 今夜の月は何時もより明るい気がした。
自室のベッドで横たわって眠ろうとしてから1時間。何時まで経っても眠気が訪れることはなく有馬はガチャリとドアを開け湿度の高い廊下を抜けてベランダへと向かった。
重い窓を開け、外に出ると共用のスリッパをつっかけて手すりへと寄り掛かる。どうやら今夜は満月らしい。朝見たニュースのコーナーで『7月の満月はバックムーンと言われていて月に向けて不安や願いを唱えると物事が良い方向に動くと言われているそうですよ!』と女子アナが言っていたことを片隅に思い出す。
湿度を持った風が身体をなぞりじんわりと汗が滲む。
暑さを誤魔化すようにポケットから煙草を取り出し慣れた動作で火をつける。ふわりと立ち上る煙をぼんやりと目で追っていた。
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