ずっと一緒にどこまでも行けるような、もしかしたら明日にはお別れのような、ゆらり波間できらめいていた光の束が、あんたの瞳だなんて知らないままでいたかった。僕はいつもの僕だよ、だなんて笑うから、いつものじゃないあんたのことを考えなきゃいけなかった。心の整理をしようと思っているのに、まだ、まだ、大丈夫だから。そう言い聞かせて先延ばしにして、目の前の幸せをひとつずつ拾い集めては小箱にしまって鍵をかけた。
「僕の花嫁は、可愛らしいコスモスのようなひとで、風にゆられるように歌う声がとてもうつくしかった。ささやかで、つまさき立ちで浜辺をそっと歩くような、それを柔らかいワンピースが包みこんで隠してしまうような、夢のようで」
あんたって花嫁さんのことを話すとき、たぶんいちばん優しい顔をしてる。その豊かな言葉に耳を傾けるたび、心の中がぎゅっとなって、つんと冷たく響いたそれが鈍い感じで染みてくる。それでも俺は、彼女を愛しているラスティカのことを、たまらなく愛していた。
「……キス、してもいい」
ラスティカは小さく笑ってから、ゆっくりと瞳をとじる。大切ななにかが壊れてしまわないようにそおっと、くちづけた。そうしたら俺があんまりひどい顔をしていたのか、ラスティカはいつかのときみたいに俺の頭を撫でてから、なだめるようなキスをくれた。足元をくすぐる波の音がやけに耳につく。俺は後悔した。これからひとりで生きなくてはいけないしばらくの時間を、これに縛られるのだと思った。