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    amyad_ri

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    ティカクロ ※フォ学軸 春の屋上とラブレター

    ##ティカクロ

     被り物をしたうさぎのキャラクターがついた可愛らしい便箋を、ラスティカが俺にも見えるようにふたりのちょうど真ん中で開く。あ、一緒に見てもいいんだと、なにか許されたような気になって、少し遅れてドドド、いけないことをしてるんじゃないの、と罪悪感が追いかけてきた。思わず息をのむと、ズゴ、と咥えていたストローが鳴る。

    「どれどれ。『あなたを目玉焼きにして食べちゃいたいな』……ふふ! 面白いね。とても素敵だ」

     気に入ったようで、ラスティカは続くフレーズに合わせてメロディを乗せた。『そしたらあたしはベーコンちゃん』♪

     ラスティカは作曲家だ。そして運命の作詞家を探している。それに引っ掛けてか、ラスティカに恋心を寄せる者は皆、詞を綴ったラブレターをラスティカに贈った。誇り高い正統派文芸部の生徒もいれば、面白半分の新鋭コピーライティング部の生徒もいたし、果たし状みたいな趣でラブを表現するヤンキー書道部の生徒もいた。
     震える手で「ラスティカ先輩にお願いできませんか?」なんて渡されるラブレターはいつだって純度百パーセントのみずみずしい好意でしかなくて、それをないがしろにできるほど俺は不誠実ではないけれど。
     ラスティカがラブレターを褒めていると、お腹がむず痒くなるような違和感があり、そんな日は食欲がどこかへ行ってしまったり、寝つきが悪くなったりしてしまう。ラスティカの無垢な賞賛は泉みたいにいくらでも豊かに湧いてきて、減るもんじゃないし、でも誰かに向けられるそれが全部自分のものであったなら、なんて浅ましくも思ってしまうのだ。
     
     そんな気持ちと裏腹に、定番の待ち合わせ場所である屋上にはほのあたたかい風が吹いているし、紙パックのいちごミルクはとろんと甘く、心地よい。自販機のボタンを押し間違えてしまったからと言ってラスティカが俺にくれたものだ。なんで間違えたの、と尋ねても「どうしてだろう?」と春みたいに笑っただけだった。
     預かったラブレターを今までに何通もラスティカへ渡してきたけれど、今日のように気に入った詞もいくつもあったはずだけれど、結局ラスティカはどの作詞家とも恋人同士になることはなかった。

    「誰かと付き合ったりしないの?」
    「うん? 何の話?」

     こういう返答をされたときにすぐぴん! とくるのは、幼馴染ならではの直感かもしれない。

    「あのさ、ラスティカ? これ、ラブレターなのわかってるよね?」
    「そうなのかい?」
    「ええー!? どう見たってそうだろ!? 『そんな黄身が好き』とか、書いてあるじゃん!」
    「黄身が好きなんじゃない?」
    「あーっ! もう!」

     思春期真っ最中の男子高校生にあるまじき、おそろしき鈍感である。つまり、ラスティカは過去に受け取ったすべてのラブレターを、ラブレターだと思っていなかったらしい。皆ラスティカを振り向かせようと、競い合うように詞を書いているのに。きっと今も、どこかで誰かが。
     たまに素敵な手紙をもらうなと思っていたけれど、との言葉を聞いて、俺は全身の力がふにゃふにゃと抜けてしまった。ライバルに思わず同情。そんな俺の肩に寄りかかってきたラスティカからは、ミルクティーの香りがした。

    「たしかに僕は運命の作詞家を探しているけれど……その人と、好きになる人は別だと思うよ」
    「それはまあ……そうなの?」

     前に一度、ラスティカに尋ねたことがある。もし運命の作詞家が見つかったらどうするの? と。そうしたらラスティカは、一緒に旅をして、素晴らしいものにたくさんふれて、素敵な曲を作りたい。って答えた。
     じゃあ俺と一緒に旅をしようよ。俺は作詞はできないけど、きっと素敵な衣装を作るよ。……それじゃあダメか。
     もやもやしている俺をよそに、春めいてきた日差しにあたためられてやっぱり眠くなってしまったラスティカは、寄りかかっていた体勢からそのまま崩れ落ちて俺の太ももを枕にごろんと寝転がった。

    「ちょっとラスティカ、あんたこれから卒業式だろ? 寝ちゃダメだって!」
    「う~ん、クロエが一人、クロエが二人、クロエが……三人も?」
    「こらーっ!」
    「あ。わかった」

     なにが、と聞く前に、俺の髪を陽に透かして、ラスティカは眩しそうに目を細めた。

    「クロエっていちごミルクみたいだ。だから僕は、きっと間違えてしまったんだね」

     寝言みたいにそう言って、ラスティカは本当に眠ってしまった。ひとの気も知らないで、なんてことを言うんだろう。あざやかなベリー色の紙パックはもう空っぽで、それなのに俺はこんなに簡単に一瞬で満たされてしまって、あんたなんかもういやだ、あんたなんかもう大好き、が、頭の中をぐるぐる、ぐるぐる、揺れている。
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