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    ayaka_0824_5

    @ayaka_0824_5

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    ayaka_0824_5

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    アスカガ
    運命11話でのカガリにでこちゅーしたユウナのことを知るアスランの話

    .



     今日は二人揃って帰宅が早かった。普段の激務からは想像できないような、ゆったりとした時間の経過だったと思う。
     先に仕事を終えたアスランがカガリを迎えに行き、車内で他愛のない話を繰り返しながら帰路に着いた。実はこの何気ない時間が、アスランは好きだったりする。カガリの笑顔をこうして独り占めできる時間は至福そのもので、たちまち頬も緩んでしまう。
     アスハ邸に到着した頃には「お腹空いちゃったな!」とハツラツに言うカガリが見れたことも嬉しかった。なにせそばにいた二年間の中で、空腹を訴えるカガリを見たのは少なかった気がする。
     精神的に参っていくカガリは食事も疎かになりがちで、食を楽しむのではなく体を維持するために食べていた。そのことを思えば今は自ら空腹を訴えりカガリに、アスランも心から安堵する。
     先に行っているよう伝えて駐車場に車を停めたアスランは、アスハ邸のメイドたちに出迎えられカガリのいる部屋に案内された。
    「アスラン! もうすぐ食事の準備もできるって!」
    「分かった」
     元気いっぱいにアスランを呼んだカガリは、既に部屋着に着替えていた。ゆるっとした胸元と腰周りはカガリも気に入ってるらしい。とは言え羽織ものを着用しているが、彼女のスタイルの良さは隠し切れていない。目のやり場に大変困る景色を見ながら、アスランはカガリにそっと近づいた。
    「?アス……」
     見上げてくる無垢な瞳を前に、体が動いていた。
     前髪を掻き分け額にキスをしようとして、違和感に気が付いたのはすぐだった。
    「……カガリ?」
    「……っ」
     アスランが触れる間際、分かりやすくカガリの体が硬直した。
     これまでくちびる同士で触れ合うこともあったが、いじらしくまぶたを閉じてくれる姿がかわいくて。
     だが今のは、明らかに強ばったという感じだった。
     まるでそこに何か嫌なことを思い出したような、そんな雰囲気。
    「な、何でもない! アスランも今日はお疲れ様!」
    「あ、ああ……」
    「おまえも着替えてきたらどうだ?」
    「カガ……」
    「ほら、早くしないと食事の用意ができちゃうだろ」
     背中を半ば押される形で部屋から追い出されてしまい、為す術なくアスランは着替えることにした。
     黙々と歩きながら、先程のカガリの様子を思い出す。
     アスランが額にキスをしようとして、カガリの様子がおかしくなった。
     一体どうしてーー……?
     思えば今まで口にキスは幾度もあったが、額にはなかった気がする。アスラン自身カガリに触れていることは好きなのだが、如何せんキスはくちびるというイメージが強い。
     それに自分が求める度に恥じらいながらもまぶたを閉じてくれるカガリが、かわいくてしょうがなかった。
     だからキス自体が嫌なわけではないと思う。嫌と言われた日にはアスラン自身、ショックで何も手につかなくなるだろうが。
     考えても分からない答えに、つい口からは重たいため息が出ていく。
     理由を聞こうにも、きっとあの調子じゃカガリは話してくれないだろう。
     胸の内に現れたモヤモヤとした気持ちはアスランの心にも影を落とす。が、慌てて頭を振る。沈んだ気持ちでこの後カガリと食事は駄目だろう。折角共に食卓を囲めるのだから、楽しい気持ちでいたい。
    「落ち着け……」
     もしかしたらどこか調子が悪いだけなのかもしれない。常日頃からアスランには口酸っぱく体調面を気を付けろと言ってくるが、カガリだってそうだ。
     顔色を見た限りでは大丈夫そうだったが、もう少し細かく見よう。
     それで些細な変化があれば、即休息を取らせる。
     何とか自分が納得できる理由を見付け、アスランは着替えを済ませカガリのいる部屋へと戻った。

     結果的に言えば、食事の雰囲気はいつも通り楽しいものだった。
     カガリから感じる違和感はなくなっており、気を揉んでいたアスランも安堵したのは事実。だが頑なに先程の話にはならないような流れを作られているのに気が付いた時、違和感で胸中が埋め尽くされた。
    「おやすみ、アスラン」
    「ああ、おやすみ……」
     カガリに泊まっていけと言われ、客室を宛てがわれたアスランは歩きながら考える。
     ーーやはりカガリは何か隠している。別に恋仲だからと言ったって、相手に全てを話す必要はない。そんなこと理解はしているが、どうしても引っ掛かる。
     問い詰めたい気持ちと、カガリのことを思ってここは話してくれるのを我慢したい気持ちがせめぎ合う。
     明日、もう一度同じことをしてみようか。
     それでもし今日みたいに拒絶されることがあったら。
     その時は、一歩踏み込んだって、良いだろうか。
     もうボタンを掛け間違えたくない。擦れ違うのは真っ平御免だ。自分たちは確実に、言葉を交わせる距離にいるのだから。あの頃とは違う。
     言い聞かせるようにつぶやいて、ひとまず今日は無理矢理自分を納得させた。
     今日は中々寝付けないかもしれない。くしゃりと髪に指を埋めながら、アスランは深々とため息をついた。

     翌朝、案の定深い眠りを取れなかったアスランはゆっくりと体を起こした。
     シャッと重たいカーテンを引けば、外の世界は既に明るい。自分の沈みかけた気持ちとは裏腹に、世界はこんなにも輝いている。
     体は重だるいが、朝食を共に取ることも昨日約束していた。気持ちを切り替えるために顔を洗うことにして、備え付けられている洗面台へと向かう。冷たい水が頭をシャキッとさせてくれるが、鏡に映った自分の顔を見て情けなくなった。そこにいたのは、まるで捨てられることが決定しているような男の顔。
    「……こんな顔でカガリに会えるわけないだろ」
     人の感情に機敏な彼女のこと。要らぬ心配をかけてしまうだろうし、させたくない。
     もう一度冷水を顔にぶっかけて、気合いを入れた。
     着替えを済ませ部屋から出て、だだっ広い廊下を少し早足で歩いて行く。
     ダイニングルームへと続く道すがら、揺れる金色の髪を見付けた。
    「カガリ!」
    「!」
     名前を呼んで振り返ってくれたカガリに駆け寄り、思わず肩をつかんでいた。
    「おはよう、アスラン。どうしたんだいきなり」
    「カガリ……おはよう」
     必然的に上目遣いになる体勢。カガリに見上げられ、ドクンと高鳴る鼓動。
    「き、のう……どうして固まったんだ?」
     衝動のままに口にした言葉に対し、カガリの目が見開かれていく。
     ああ、やっぱりそうだったのか。改めて事実を肯定されたことが分かり、身勝手にも傷付く自分がいる。
    「その、何かあったのか……?」
     慎重に言葉を選びながらも、真実を確かめるべく問いかける。
     しかしフイと顔を背けられた挙句、「なんでもない」とまで言って突っぱねられてしまう。冷静になるべきだと分かってはいても、カガリに拒絶されることを拒む自分がいる。
    「なんでもなくないだろ……!」
     突き詰める言い方と、両腕でつかんだ華奢な肩。自分の顔を見るように引き寄せれば、そこにあったのは表情を歪めながら泣きそうになっているカガリの姿。
    「わた、し……だって……」
     途切れ途切れに発せられた言葉は痛々しく、無理矢理閉じた傷をこじ開けられまいと体を丸めるカガリ。あまりの姿に、一瞬にして過去の姿が蘇る。
     未熟だと日々泣きながら立ち続けていたカガリと、そんな彼女に対して何もできていなかったアスラン。
     今となってはほろ苦い日々でありながら、前へ進んできたという確かな証拠の毎日。
     そんな頃の姿と目の前にいるカガリの姿が重なって、まさかとアスランが嫌な汗を背中に垂らした瞬間。
    「先に行くっ……!」
     顔を見られたいとしてアスランの腕を振り払ったカガリが一人、アスハ邸からパタパタと走り去って行く。
     呆然と突っ立ったままのアスランは、己の拳をゆっくりと開いては閉じた。
     感情で動くのは良くないと分かっていたのに、カガリを前にしてブレーキが止まらなかった。
    「俺は……」
     まだカガリの中から、アイツはいなくなっていないのだ。
     彼女があんなふうになるのはきっと、過去に同様のことをされたに違いない。
     そしてアスランが知っていて、カガリに易々と触れられていた男も、一人しか知らない。
     ーーユウナ・ロマ・セイラン。
     アイツがカガリにした行為が、彼女を苦しめている。
     確証はないが、確信はあった。
     握り締めた拳に爪が食い込み、アスランの怒りと悲しみが綯い交ぜになっていく。
     どうしたらアイツを、あの男をカガリの中から完全に消せる。その手段があるのなら、アスランは何だってする覚悟がある。
     誰もいないはずの廊下。アスランの瞳に見据える先に、この世にいるはずのない男の影がチラついて見えた。



     明確に避けられている。そう気が付いたのにさほど時間はかからなかった。カガリは良くも悪くも思っていることが表に出てきて分かりやすい。だが代表首長として立派に政務をこなすようになってからは、表情を取り繕うことが上手くなった。
     付けたモニター画面には、カガリが訪れた施設先の人たちと和気あいあいと交流する映像が流れていた。子供らに囲まれ無邪気な笑みを浮かべるカガリは愛らしく、しゃがんで子供の目線に合わせて会話をする姿も楽しそうだ。
     指で画面をなぞったところで、温もりに触れることはできない。無機質な感触が指先に当たるだけで、虚しさが増した。
     カガリに避けられ始めてから、およそ一週間は経過している。
     その間彼女からのコンタクトは一切なく、報告や書類等の受け渡しで顔を見ることさえままならない。
     挙句の果てにはカガリからの伝言を言い渡しに来てくれたキサカにまで、要らぬ心配をかけてしまった。
     このままではいけないと分かってはいるが、カガリが自分に会う気がないのにどうすれば良いんだろう。
     そもそもアスランがいない間に、アイツと何があったのか。そこを知りたいのだが、生憎と原因を作ったであろう張本人がいないのだ。何をされたかは、カガリ本人しか知らない。
    「……くそっ」
     苛立ちをぶつけるように呟いたところで、アイツに嘲笑われている気さえする。
     セイラン家諸共亡くなったのは、オーブにザフトが侵攻してきた際だったと後から話を聞いた。あの時はアスランも怪我を負ったまま無理矢理ジャスティスに乗り込み、シンを止めるために戦った覚えがある。カガリもカガリで国防本部にて指揮を取っていたと言っていたし、直接死に際を見たわけでもないらしい。ただ報告に上がってきた際に、亡くなったと耳にしたそうだ。
     なんとも言えない表情でそのことをアスランに教えてくれたカガリは、見方によっては泣いているんじゃないかとさえ思った。誠実な彼女のことだから、ろくに話もできず亡くなった人間に対して何か思うところはあったはず。
     そんな彼女のことがアスランも好きだし、なくさないでほしい純粋な心だとは思っている。ーーが。
     いつまでもカガリの心を蝕む存在になるのなら、話は別だ。大体死後もカガリの中に居座ろうなんて、図々しいにも程がある。
     やはりカガリと直接会って話をするしかない。これに尽きるだろう。
     腹が決まってしまえばアスラン自身、行動に移すのは早い。ガタンッと勢いよく立ち上がってみたものの、静かに着席する。
     もし、もしもの話。またカガリに拒絶され、逃げられたらーー。そう何度も好きな女に自分の存在を否定されたら、さすがのアスランも耐えられない。
     現状今でさえ、かなり精神的に参っている。姿形は確認できれど、如何せん圧倒的にカガリが足りていない。アスランだけが知る温もりや匂い、かけられる言葉の数々は至高の褒美である。すんと鼻を動かしただけで、体中に染み渡る優しい匂い。抱き締めれば体に食い込む自分の腕の感触が堪らなく、ずっと離したくないと思える。
     こんなにも焦がれているのに、直接会うことができていないなんて死活問題だ。
    「少し頭を冷やして、それからだな……カガリに会いにいくのは」
     感情のまま動いたところで自分の場合、碌な結果にならないことも知っている。かと言って佐官に与えられた個室でこのまま一人考えていても、埒が明かない。それこそカガリによく突っ込まれた「ハツカネズミ」というやつだろう。未だにその例えはよく分からないが、カガリらしい言葉のチョイスだなと思う。少しだけ緩んだ口元に、やはり自分には彼女が必要なのだと再認識させられる。
     眉間に寄った皺をぎゅっと人差し指でつまみ、ふぅと一息つく。コーヒーでも買いに行こうと今度は静かに椅子から立ち上がり、部屋から出ようとした。間際、外に人の気配を感じ、咄嗟に身構える。しかし扉の向こう側にいる人物からは、敵意など微塵も感じられない。そもそもここは軍事施設だ。余程のことではない限り、敵襲という可能性はないだろう。それに演習の項目も今日は予定になかったはずだ。
    「……?」
     一向に動く気配のない相手に、恐る恐るといったふうにアスランは踏み出した。そして金色の髪を揺らし走り去って行く背中を視界に捉え、気付けば猛ダッシュで施設内を駆け抜けていた。
    「カガリっ!!」
    「っ!?」
     軍内部でのアスランを知る者からしたら、一体何事かと目を見張るだろう。だが運良く今の時間は人が出払っており、擦れ違う人間は誰もいない。アスランはグッと一気に距離を詰め、逃げるカガリを曲がり角に差し掛かる道でつかまえた。細い手首を片手でつかみ、力を入れすぎないよう配慮する。逃げられないことを悟ったのか、視線をさ迷わせたカガリはアスランからすっと顔を逸らした。その事実をまざまざと見せ付けられ、またしても激情が表に出てこようとする。カッとなりかけた感情にどうにか無理矢理蓋をして、アスランは切なる願いを込めて名前を呼んだ。
     こっちを、俺を見て、と。
    「カガリ……」
     自分の声が情けなく尻すぼんでいく。こんなふうに気持ちが離れていくのだけは、絶対に嫌なのに。
     アスランからはどうあっても気持ちが離れることはない。それだけは自信を持って言えること。なのに肝心のカガリが、アスランに巨大な壁を作ろうとしている。踏み越えさせまいと、ラインを引こうとする。
    「こっちを向いてくれないか……それに、どうしてきみがこんなところに……」
     もしかしたら、俺に会いに来てくれたのか?自分に都合のいいことだけを考えてしまう。実際そうでも思わないと、国のトップである彼女が護衛もなしに姿を現すはずがない。パッと見た限り、見える範囲に護衛はいなかった。
     ならばとアスランは距離を詰めようと、カガリの一歩内側に入ろうとする、
     俺はただ、顔が見たいだけなんだ。きみの瞳に、俺を映していてほしいだけ。
     思わず力の入ってしまった手に、カガリが気まずげに視線を動かした。
    「……ついでに寄っただけだ。……その、色々と悪かった。……アスランは、何一つ悪くない、から……」
     もごもごと口を動かしながらも、謝罪の言葉を述べるカガリはアスランを見やっていた。彼女なりの精一杯の気持ちが、じわりじわりと胸の内に広がっていく。変わらない意志の強さを感じる金色の瞳は、画面越しに見た時と何も変わらない。
     目の前にいるカガリは、アスランが愛してやまない女の子だ。
    「良か、った……」
    「えっ……ちょっ、アスっ……! アスラン!!」
     カガリの声が遥か彼方へと遠ざかっていく。
     どうしてだろうと気付く暇もなく、アスランの意識はブツリと途切れてしまった。


     柔らかな温もりを手のひらに感じる。その感触を逃がさぬようきゅっと握り締めると、ぴくりと相手の動きがあった。誰がアスランの手を握り締めているかは、把握できている。その相手を確かめようと開いたまぶたの先に、ーーカガリがいた。目を細めたくなるような眩しい輝きを放つ髪と瞳。しかし今はその瞳に見える薄い膜に気付き、アスランの胸もチクチクと針で突き刺されるように痛む。
     カガリにそんな悲しそうな表情をしてほしくないのに。
    「アスラン……!」
     腰掛けていた椅子からカガリが勢いよく立ち上がると、ガタンッと派手な音がした。しかし気にもとめず片膝をベッドに乗り上げたカガリが、つないでいない方の手を伸ばす。労わるように頬をなでられ、その心地良さに浸る。
    「……おまえ、急に倒れたんだ。だからキサカに運んでもらった。ここ、私の部屋のベッドだから……」
     道理でカガリの匂いが充満しているはずだ。天蓋ベッドにはカーテンが敷かれてあり、今この瞬間、まるで世界に二人きりのように感じられた。
    「……昔、アスランがプラントに行ってた時、額にキスされたことがあるんだ。……ユウナに」
    「っ!?」
     突然の告白に思わずベッドから飛び出しそうになったが、蓄積されていた疲労や過度の心労のせいか、体が思うように動かなかった。せめてもと片腕を伸ばし、カガリを引き寄せるように抱き締める。素直に身を預けてくれたカガリにホッと安堵すると、彼女は「嫌だった」と続けて零した。
    「あの時は私自身も参っていたし、抵抗する気力もなかった。だけどアスラン以外に触れられた事実がじわじわ染みてきて、それが一種のトラウマみたいになってたんだ。だから、それで……」
     尚も苦しげに話そうとしてくれるカガリに向かって、「もういい」と震えそうになる声を抑えて告げた。
     彼女が抱えていた苦しみに、アスランは気付いてやれなかった。そしてあの時の選択が、やはりカガリのことをどこまでも傷付ける要因になっていたのだと知る。離れている間のことは、今まで怖くて聞けずにいた部分もあった。
     それはきっとアスラン自身も傷付くのが怖かったからで。
     もしもを考えるだけで、自分のことも許せそうになかった。
    「アスラン……そんなに泣いたら、男前が台無しだぞ」
     カガリが困ったように優しく笑いながら、顔だけを上げていた。アスランの瞳からぽろぽろと溢れて止まらない涙を見ながら、「泣くなってば」と自分の袖口でそっと拭ってくれる。
     こんな時まで自分より他の人間を優先する心の広さと強さに、アスランは腹に力を入れカガリを抱えたまま体を起こした。このまま横になったまま告げたのでは、立つ瀬がないと思った。
    「アスラン……?」
     心配そうにこちらを見つめるカガリに向かって、アスランも穏やかな気持ちでほほ笑み返す。
    「大丈夫だ……それに、俺もカガリに、言わなくちゃいけないことがあるから」
     つないだままだった手を一旦離し、指先を絡めるようにつなぎ直す。そして腰に添えていた手を頬に滑らせながら、固まっていた自分の気持ちを口にする。
    「……きみを置いてプラントに行ったこと、やっぱり悔やんでも悔やみきれない。だけどいつまでも過去に引き摺られるのも良くはないと、思うから……」
    「……うん」
    「だから、カガリが大丈夫なら、塗り替えさせてほしい……」
    「塗り替え……?」
     首をかしげたカガリに分かりやすく示すため、額に指を滑らせる。すると察したのか「あ……」と口を開き、迷うような視線を落とした後ゆっくりと首を縦に振った。
    「……私も、アスランに上書きしてほしい」
     胸元に顔を埋めてきたカガリを愛おしく思いながら、アスランは頬に鼻筋に目元にと順にキスを捧げていく。部屋の中に響く小鳥のさえずりのような音。
    「擽ったい」
     そう言いながらも律儀にアスランからのキスを受け止めてくれるカガリに、もう怯えの色は見受けられなかった。自分がアイツの影を消しされたことに、仄かな悦びを感じる。
     金輪際、誰にも渡さない。未来永劫カガリは、俺だけの……。
     最後に額にキスをすれば、カガリの目元がポッと朱色に染まっている。そして恥ずかしそうにアスランを見上げ、「ありがとう……」とつぶやく。
    「それを言うなら、俺の方だから」
     ーーもう絶対に、きみの元から離れないと約束する。
     改めて誓った強い思いを胸に、アスランはもう一度額にキスをした。
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