アルバートをしまえ カーテンを開け、外を眺めているハインラインがいる。外は大荒れ。横殴りの雨に、木が今にも倒れそうなくらい傾くほどの風。台風というやつだ。
今日は予め計画を立てずにぶらぶらと街を散策し、ゆっくりと2人で時間を過ごす予定だった。だが予報の台風は大幅に針路を変え、瞬く間にオーブに上陸してしまった。そうなってしまうともう家にいるしかないわけだ。
予定が潰れてしまった為、外を恨みがましく見ているのではと思っていたが、外の景色から離れることがないその瞳には好奇心の色が見える。案外楽しいのかもしれない。
「楽しいですか?」
「いえ、物珍しいだけです」
ノイマンに視線を移すことなく外を眺めたままだ。物珍しい、と。
「プラントに台風は?」
「ありません。そもそも雨が降る日時は決められています。降ったとしてもこのように大荒れにはならない」
なので貴重な体験をさせてもらってます、と続けた。
なんとなくだが、このハインラインを見ているとあのフレーズが思い出されてしまう。言うか、言わまいか…悩んでいると訝しげにハインラインがノイマンの方へ向く。
「なにか?」
「いや、外に飛び出さないか心配で」
「は?」
「好奇心に駆られて、全身で台風を浴びたいのかなって」
「あなたは私をなんだと、」
呆れたようなため息とともに、不機嫌な眼差しを向けられる。腰に片手を当てノイマンに体ごと向き直った。
「知ってます?外飼いの犬を台風の時だけはせめて家にいれろって注意が出るんです。犬をしまえ、って」
「はぁ」
「だからアルバートをしまえ!ってなるのかと思ったんですけど、杞憂でしたね」
ちょっと身構えたんですけどねぇ?とからからと笑うノイマンに、僕は犬では無い、とボソッと不満たらたらに述べた。
「ははっ。だから、」
ハインラインの袖を摘み、ソファまで誘導する。ソファに座るのかと思いきや、肩を押されてソファの足元に座らされた。そこにノイマンが隣に続くのかと待ったが来ない。ノイマンの意図を汲めないまま頭にはてなが浮かぶ。そうこうするうちに、よっこしょ、とおおよそ三十路手前の人間が言うには似つかわしくない掛け声が後ろから聞こえ、ハインラインの両脇にノイマンの足が現れた。足と足の間に鎮座するハインラインである。
「今日はあんたをここにしまいます」
きゅ、と足を狭められ、顎下にするりと手が回って来たと思えば顔を上に向けられてしまう。遠くない距離で緑の双眸とかち合う。
「外ばっかり見てないで、俺にもかまってくださいよ」
そう言って、ハインラインの目元をさすり、もう片方の指で唇を撫でる。もの欲しげな表情を隠しもしないノイマンは、ふにふにと撫でている唇に、自身の唇を寄せた。
「あなたって人は、なんと愛らしいことを」
ノイマンの起こす行動になんとも言えない愛おしさが沸き上がる。ノイマンの後頭部へと腕を伸ばし、ハインラインは愛おしい人からのキスを迎え入れた。