魅惑のエメラルド次々と口の中に消えていくホットドッグ。見ていて気持ちがいいくらいによく食べる。大口を開け、がぶりと齧るとケチャップとマスタードが溢れ出た。口の端に付くケチャップも厭わず、次の一口へと進むのだ。
「…よく食べますね」
「そうか?あんたはそれで足りるのかよ」
「えぇ、僕はこれで十分です」
ハインラインはコーヒーを一口すすり、少し足りないくらいがちょうどいいんですと伝えた。ふーん、とさほど興味がないようで、ノイマンは黙々とホットドッグを食べ進める。
「付いてますよ」
「ん?」
「ケチャップ」
「どこ」
「そこです」
指で示すが見当違いの場所を拭いとっている。そこではないと誘導するが上手くいかなかった。まぁいいや、と諦めるのが早いノイマンは口の端のケチャップを気にもとめずにかぶりつく。
自分で拭った方が早いと判断したハインラインはことりとカップを置いて席を立ち、手を伸ばした。黙々と食べ続けるノイマンの口元へと指先が届く間際、ふと顔を上げた彼のエメラルドとぶつかった。そのエメラルドを見た瞬間に体が動いていた。口元へ伸ばした手は唇を通り過ぎ、ノイマンの後頭部から項へと。するりと指を添え、え?と小さく呟くノイマンの声を無視しハインラインは手に力を込めた。なんの抵抗もなく案外素直に引き寄せられたことに少々驚いたが、引き寄せたノイマンの唇にコーヒーで湿った己の唇を躊躇なく押し付けた。面前に広がる、驚きに見開かれたエメラルド。瞬きも忘れ、小刻みに揺れる眼球が印象的だった。離れ際、唇の端に付いているケチャップを親指でぬぐい取り、ぺろりと舌で舐め取り味わった。
「…酸っぱいな」
「え、…は?な、なに、なにした…?」
「……………………は?」
我に返り、ハインラインは素っ頓狂な声を漏らした。
(待て。今自分は何をした…!?)
そういえばこの店のケチャップは少し酸味があるな、などと口の中のトマト味をもごもごと口を動かし反芻する。その時の唇の感触もまざまざと一気に蘇り、顔がぶわりと赤く染まった
きょとんと見上げるエメラルド。それを見た瞬間に掻き立てられた欲をハインラインは抑えることができなかった。
彼との、初めてのキスはケチャップの味がした。