7月7日天気によって気が滅入ることなど、ほとんどない。でも今日は別だ。
空をみあげて、気が滅入っている……
「セベククン、どうしたの?」
「いや……天気が悪いなと思って…」
「天気??ああ、今日は夕方から雨が降るみたいだから…」
「……そうか」
今日は7月7日。
幼い頃に、若様から異国の文化である「七夕」の話をしてもらった。
織姫と彦星の話だ。恋をしたふたりが「天の川」で離ればなれになってしまい、1年に1度だけかけられる橋によって会うことができるという話だ。
そして、織姫の織っていた織物から、縦長の紙にお願い事を書くという風習があるらしい。
織姫と彦星が離ればなれになった原因が「仕事をサボったから」ということや、自分の願いを星に託すなど浅はかな風習には全く共感はできない。
ただ、若様が星の話をしてくださるときは、とても穏やかな顔をしていて、たとえ若様から七夕の話をまた聞かなくとも、その星を見上げると穏やかな若様を思い出して嬉しくなる。
「はあ……雨まで降ってきた………」
寮に戻ってからも一向に天候は回復せず、夕飯を食べたあとには雨まで降ってきた。
今日晴れますようにと、星に願っておいたらよかったのだろうか……
「なにをしている」
「あっ…若様っ…!」
僕がぼーっとベランダに立っていたことを心配してくれて声をかけていただいたようだ。不毛で自己中心的な発想をしていただけなのに…申し訳なさしかない…
若様はそのまま僕の隣に立っていた。
「若様。昔、僕に七夕の話をしていただいたのを覚えていますか?…」
「ああ…そういえば……お前が本で読んだと言って………」
昔の時をなぞらえるように、七夕の話、天の川の話、織姫と彦星の話をしてくれた。あのとき話には出なかった織姫と彦星がどの星なのかという話も付け加えられた。どうやら幼い僕が七夕の話をしたあとに本で調べてくれたらしい。
やはり、若様が星の話をしているときはとても穏やかな顔をしていた。それだけで僕は幸せなのに、どうして口にしたのか……
「若様と一緒に天の川見てみたかったです…」
「…?」
「はっ…いえ、そのっ……茨の谷はどうしても曇りの日が多いので…NRCであれば、もっとキレイに見れるのかなと思って………それを若様に見ていただきたかったというか……」
欲望を口にしてしまったのが恥ずかしすぎてしどろもどろになってしまった……ほら、若様も困った顔をしていらっしゃる……
「ふむ………織姫と彦星は仕事を疎かにして離ればなれになったんだったな…?それなら、」
若様が話しはじめてしばらくしてからだった。僕の足元がキラキラと光りだした。
スッと、若様が光にむかって指を走らすと、光は更に広がり、それはまるで、
「あ……天の川みたいだ……」
僕と若様の間にできた地面の天の川。作り物ではあるが、こんな美しい光を見たのは初めてだ…ずっと目を奪われてしまう。
「セベク」
声をかけられ、はい!!!と顔をあげると、若様が川の真ん中に立っていた。しかし足元は星の光はなく、一本の道のようなものができていた。
「おまえは毎日献身的に僕に尽くしてくれている。仕事を疎かにしたふたりとは違う。星のかわりに僕が願いを叶えてみたが、どうだ?」
きれい、すばらしい、うれしい、どこの言葉から伝えれば言いのだろう。言葉を選べず口をパクパクとしていると若様が小さく笑った。そして川に走った一本の道をコツコツと歩き、僕のいる側の岸へ近づく。
これはまるで。
「さて、せっかく星の川に橋をかけたんだ。会いに来てくれないか?働き者の織姫よ」
若様に一歩近づき、二人で輝く天の川に照らされた。
「晴れた茨の谷の星空はここよりもっときれいだぞ。一緒に空を見上げるのはそのときにしよう」
空の天の川は見られなくても、今年の七夕は人生最高の七夕だ。