😈👹アクアマリンアクアマリン
――ブラックとアカネが付き合って約1年が過ぎた。2人の空気は、付き合う前とそんなに変わらない。恋人らしいことをできるようになった、それくらい。
互いに愛し合っているのは疑う余地もない、だが、アカネは最近心のどこかがムズムズするような、良くない感覚になる事があった。
ある日ブラックとコラボ撮影がてらデートしているとき、2人の横をオシャレな男女が通り過ぎて行って、ふと自分たちは特にオシャレなんかせずにデートしてばかりだな、と思い、ブラックへそのことを不満に思わないのか聞いた。
「べつに思いません。アカネさんはそのままで良いんですよ。」
と返された。その時は「そっか。」と安心した気持ちで終わったが、ずーーっとそんな調子だと、むしろ不安になってくる。
贅沢な悩み、と友人の小学生には言われた。アカネ自身そう思っているが、ブラックは常に刺激を求めている根っからの動画クリエイターなのだから、不変を彼女に求めているのは違和感がある。
それについては、友人も「たしかに…」と同意した。
――――
本日のコラボ撮影兼デートは海遊びの動画。
アカネは、ある検証を企てた。
ブラックが本当に「そのままで良い」と思っているのかを確かめるため、普段の自分には無い色気を出してみよう、というものだ。
「日焼け止めオイル、良し!セクシーな水着、良し!完璧だっ!」
セクシーな水着で日焼け止めオイルを塗らせる……ベタな誘惑だが、いままでのアカネには無い色気が確実に出せる、昨日1人で鏡に向かって練習している時、ちょっとエロいかも、と思えた。
だから大丈夫だと自分に言い聞かせ、ブラックが着替え終わるのを待つ。
――――
「ブラック!やって欲しいことがあるんだ!」
「なんですか?」
アカネは日焼け止めオイルを手渡して、背中を向ける。
「ぬ、塗ってくれ…。」
「いいですよ。」
「よっしゃ!
っ……なんでもない。」
ついガッツポーズしてしまったが、塗るのを承諾されただけで何も目的を果たしていない。
ブラックがアカネのセクシーさにドキドキするのかしないのかを見極めるのが今日の目的。ドキドキさせるのが目的ではない。
ビーチパラソルのつくる日陰のシートの上でうつ伏せになったアカネの健康的な白い肌に、ブラックの手が滑る。
(ブラックの手がアタシの背中を撫で回してるーーッ!!!!
あばばばば…♡
ありがとう、日焼け止めオイル…♡)
多幸感に包まれるアカネには、ブラックの様子を伺う余裕がなかった。
実際のところ、ブラックは興奮するどころか、アカネと動画のことを心配していた。
カメラちゃんにヒソヒソと「鬼さんって発情期があるんでしょうか?」「彼女がこのままなら今日は動画に出来ないかもですね…」とか言っていた。
うっかり有頂天になっていたアカネは、日焼け止めオイルをしっかり塗られた後で、自分の耐性の無さにショックを受けていた。
(そりゃブラックにこんなに背中を触られるなんて経験は無かったが、付き合って1年だぞ?ブラックのことちゃんと見る余裕も無いとか、さすがにヤバいだろ…。)
「アカネさん。」
「な、なに?」
「体調が優れないようでしたら、無理して撮影することはありませんよ。まだ夏は長いですし、日を改めましょう。」
「は?アタシはぜんぜん元気だぞ!」
「そうですか?……それならいいですが。」
(ヤバい!全然上手くいかないせいで撮影すら終わりそうだぞ!?
こ、こうなりゃ直で聞くしかないか!?)
「………アカネさん。」
「今度はなんだ!?」
「オレちゃんの勘違いならいいのですが……誘ってますか?」
「え…??」
「いえ、やっぱりいいです。」
「ちょちょちょちょっっと待て!!!」
「はい?」
「い、い、いまなんて言った!?」
「「やっぱりいいです」って」
「その前だよ!!!」
「「誘ってますか?」と言いましたね。」
「わかってたのかよ!!??」
「!…ふとそう思っただけですが……
そうですか、誘ってたんですか…。
アカネさん、いま撮影中ってわかってます?」
「え?う、うん…。」
「………まぁ、アカネさんは魔界の無法地帯YouTubeへの投稿が多いですから、仕方ないですね。
いいですか、アカネさん。契約書にも書きましたがオレちゃんはこの動画を人間界のYouTubeにも投稿したいんです。」
ブラックは人間界のYouTubeの規約について話した。アカネはそれを黙って頷いて聞いた。
まさか海に来て、セクシーな誘惑をしようとして、普通の説教されるとは思わなかった。
「もうむやみにセクシーなことしません…。」
「わかってくれたならいいんですよ。」
「…………あのさ。」
「はい。」
「アタシにずっとそのままでいいって言ってたのは、その方が動画にしやすいからか?」
「…それもあります。」
「そっか……じゃあ、動画以外ならどうなんだ?
プライベートなら、セクシーなのがいいのか?」
「いえ、プライベートこそ自然体でいて欲しいですね。」
「本当に!?お、おまえ、どんだけアタシのこと好きなんだよ…。」
「魔界で出会ったどんな女性より、いえどんな方よりも」
「説明しろって意味じゃない!恥ずかしいからやめてくれ!?」
「そうですか。」
ブラックは平然としていても常に莫大な愛を持って接している、アカネは自分がどれだけバカな空回りをしていたのか思い知った。
「ごめんなブラック、動画撮り直させてくれるか。いつもの水着に変えてさ。」
「もちろんです!」