残暑の楽しみ方9月になり本来なら秋到来なのだが、残暑と呼ぶのも躊躇うほど、まだまだ夏の気配。
今日は駅二つ分の距離に住む御幸に、昼飯に誘われた。
「スーパーで脂の乗った秋刀魚が売ってたんで。クリス先輩、魚食べたいって言ってたじゃないですか」
大根おろしをおろす俺の横で、味噌汁をよそいながら御幸が言った。
そういえば、いわし雲を見てつい言葉を漏らしたことがあったな。
秋はそこまで来ているということか。
些細な呟きを覚えていてもらえたことが嬉しい。
「美味そうだな」
テーブルの上に並ぶのは、立派な秋刀魚。
きのこたっぷりの味噌汁と薬味がたっぷり乗った冷奴、きゅうりのパリパリ漬け。
空腹に気付く。
土産に持ってきて冷やしておいたビールも開ける。
「かんぱーい!」
「乾杯!」
昼から飲むビールの美味さは言葉にし難い。
「はー……うっま」
御幸の顔もふにゃりと緩んだ。
「きゅうり、すげえ美味い!」
パリパリ漬けは前に来たときに俺が作っておいたやつだ。
「簡単だから無くなったらまた作っておく」
これだけで飯がおかわり出来るが、なんと言っても。
「秋刀魚美味いな……」
もちろん秋刀魚自体も美味いが、焼き加減が素晴らしい。
ふっくらとしていて脂もしっかり乗っていて。
俺が焼いたらこうはいかない。
「あ、飯おかわりしますか?」
俺もするんでついでに、と俺のぶんもよそってくれた。
「栗ご飯の時期もすぐですね」
「ああ」
つい最近まで猛暑でお互い食欲がなかったが、これはもう『秋』を認めるしかない。
ご飯が進んで止まらない。
「この前飲んださつまいものやつも美味かったですよね」
「おさつバターフラペチーノだな……美味かった」
「先輩おすすめのカボチャのも飲んでみたいです」
「近いうちにまた行こう」
「はい」
普段はブラックコーヒーを好む御幸も、シーズナルドリンクが出るとたまに俺に付き合ってくれる。
本当はコーヒーが飲みたいだろうが、それに気付かないふりをしてまた次の約束をする。
「先輩、自分だけ無脂肪にするし」
「交換してやっただろう」
共通の話題に笑い合う。
もし。
もし、一人だったらこんなに秋が待ち遠しかっただろうか。
(答えは決まっているな)
こうやって、季節の移り変わりを御幸と感じていきたい。