【イザアル】アルヴァが熱を出す話家のドアを開けた瞬間、身体に軽い衝撃を受けた。
一歩下げた片足の踵に力を入れながら、胸元に留まる存在をしっかりと受け止める。
「アルヴァ…?」
珍しい、と内心で思う。
"そういった関係"ではあるが、彼女がこうして自ら甘えるような行動をとるのは稀だ。
「イザベル…」
「なに?」
「イザベル〜…」
「……ああ」
アルヴァの表情は胸と、彼女の桃色の髪に隠れて見えないが、その声音だけでも分かる。
髪の隙間から覗く耳はほんのり赤く色付き、背に回された腕に少しずつ力が込められていくのを感じた。
ふ、と小さく息を吐く。
「力を抜いて。…ベッドまで運ぶわ」
「やっぱり、熱があるわね」
「う゛ぅ…」
額にイザベルの手が乗せられる。
身体の中心が燃えるように熱いのに、手足の先は凍えるように冷たいのに、彼女の手が触れたところは心地が良い。
縋る気持ちでその手に触れようとするが、タイミング悪く指先が触れる瞬間に離れてしまった。
「ジョンがお粥を作ってくれるみたい」
「やった〜…」
ジョンの手料理はいつ食べても美味しい。
きっとこの痛む喉も気に入るだろう。
「私は…あまり出来ることはないけど」
「ん…」
頬に添えられた手を、今度は逃さないように捕まえる。
側にいて欲しい。
その気持ちを汲んでか、イザベルの唇が額に触れた。
「安心して。どこにも行かない」
「うん」
「ずっとここにいるわ」
「…うん」
徐々に重くなる瞼の上に、柔らかな感触が乗る。
「ジョンが来てくれたら起こすから、それまでは眠っていて」
「ん…」
「おやすみなさい、アルヴァ」
遠のく意識の中、最後に感じたのは唇の仄かな熱だった。