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    ごまどれ

    @gomad0reee

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    ごまどれ

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    少し前にページメーカーで投稿していたSSを格納しました。なんだかんだ出先で手を出すのってれいくんな気がしてる。(人目を盗むのがうまい)

     TV局の裏手から住宅街へ向かって少し歩くと、小川の土手に沿って桜並木が続いている。向かい合う桜の木がアーチのように空を覆い、降り注ぐ桜の花びらが小川の水面を白く染めていた。

    空には三日月。夜も更け、出歩いている住民はほとんどいない。家々から漏れる光の下、みな家族団欒を楽しんでいるのだろう。

     零は先ほどから何も言わず桜の木の下に佇んでいる。満開を迎え、はらはらと溢れる花びらがそっと舞い降りる音でも楽しんでいるのだろうか。それとなく整った横顔を盗み見ると、その口元は満足そうに微笑んでいた。


     びゅう、と突然強い風が吹き抜けた。春一番が花びらを攫うように空へと駆け上っていく。街灯に淡く照らされたそれらは暖かな春の吹雪だった。


    「綺麗だね」

    彼の感慨を邪魔しないよう、薫は静かに感想を言葉にした。

    夜桜で花見をしよう、と持ちかけたのは俺だ。学園時代、零はよく庭園を散歩していたし、花を愛でるのは好きなのだろう。薫の予想通り、零は二つ返事でついてきて、この小川の土手までたどり着くとひときわ立派な桜の木の下で動かなくなってしまった。

    静かに桜を眺める零は美しい。言葉は無くとも、彼がこの景色を楽しんでくれていることがわかって嬉しかった。それだけで、薫の心臓は満ち足りてしまう。

    だからこの景色に感じ入る零の心を大事にしたいのだ。自分も風景の一部になったつもりで、身じろぎせず零が満足するのを待った。

    「薫くん」

    ふいに子守唄みたいな優しい声で名前を呼ばれる。ん、と半歩だけ身を寄せて答えると、薫の頬を柔く滑らかな感触が掠めていった。
    それが桜の花びらではなく零の唇だと気がついたのは、すぐ横で嬉しそうに目を細める零と視線が合った時だ。

    「……なぁに、こんなところで」
    「桜が綺麗じゃったから」
    「全然答えになってないんだけど」

    責めるように零を見る、薫の声音に棘はない。まだ肌寒い夜に、身を寄せ合えば温かかった。今度は零の口元に、優しい花弁が掠めていった。
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