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    はもん

    @hamon_samon

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    はもん

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    ・地獄じゃないし悪魔じゃないけどケモ耳生えてたりするしホストクラブがある不思議世界観
    ・アラスターがホストやってる
    ・ルシファーはよく分からんけどお金持ち
    ・作者はホストクラブを全く知らないので、作中の描写は全部適当です

    #ルシアラ

    ホストパロ ネオン煌めく街を、娘と二人で歩く。周囲は過剰なまでに電飾で彩られた店がひしめき、雑踏を作り上げる声は下品な言葉で満ちていた。
     ルシファーはそれらに辟易しながらも、娘の後をついて行く。普段は通りがかることすらしない場所に来ているのは、彼女に頼まれたからだった。

    「友達を紹介したいの」

     チャーリーにそう言われたのは、定例の食事会の時だった。
     離婚した妻に引き取られた娘との面会は、ルシファーの数少ない楽しみの一つだ。会う度に成長していく娘の姿に喜び、それを具に見守ることができないのが寂しかった。
     それでも、チャーリーが面会を断ったことは一度も(思春期でグレてた時も)ないし、恋人ができた時は必ず紹介してくれた。離婚後も良好な関係でいられたのは、偏に元妻の教育の賜物だろう。
     そんな人生の宝物チャーリーからの提案に、当然ルシファーは喜んで了承した。
     だが、その友人が働いている店に行くというからついて行ってみれば、まさかの歓楽街である。ルシファーは嫌な予感がした。

    「あー……チャーリー? そのお友達が働いている店というのは、どんな所なのかな?」
    「ホストクラブよ」

     ルシファーは頭を抱えた。なんてこった。可愛い娘がろくでもない男の毒牙にかかってしまっていただなんて。最近新しい恋人ができたからと油断していた。
     ……否、まだ分からない。ホストじゃなくてボーイや裏方業務かもしれない。それもどうかとは思うが、ホストよりはマシだ。早とちりはよくない。

    「……その友人は……」
    「そう。ホストをしてるの」
    「やめなさい。そんな男と付き合うのは」

     早計ではなかった。水商売の男なんて、金目当てに近付いたに決まっている。早急に娘との関係を断ち切らなくては。
     ルシファーは叱りつけるように言った。しかしチャーリーは呆れた顔で拒否する。

    「聞きなさい、チャーリー。そんな仕事を選ぶ奴なんて、絶対にろくでもない奴だ」
    「パパ、アラスター大事な友人よ。それに、職業差別はよくないわ」

     逆に娘に叱られてしまい、ルシファーは亀のように首を引っ込めた。
     チャーリーは頑固だ。こうと決めたら止まらない。昔から変わらない彼女の性格だ。
     こうなったら、どんな男か確かめてやる。そして娘に妙な気があるようなら、何がなんでも引き離すんだ。
     ルシファーは決意も新たに足を進めた。

     歩いていく内に街の雰囲気が少し変わった。相変わらず電飾で輝いてはいるが、高級感のある店構えが増えた気がする。

    「ここよ」

     チャーリーが案内したのは、シックな構えの店だった。電飾は他と比べても少なく、一番多いのは巨大な店名の看板だけだ。

    「“HAZBIN CLUB”……」

     確かに、ホストクラブに似合わない古風なデザインの店だ。喫茶店を改装したような雰囲気の外装に、ルシファーの警戒心が少し緩む。
     木製のドアをくぐると、受付には女性が立っていた。ホストクラブは男しかいないイメージだったので驚くルシファー。

    「いらっしゃいませ」

     女性はエレガントな笑みを浮かべて一礼した。そしてすぐに相好を崩す。

    「まぁまぁ、チャーリー。また来てくれて嬉しいわ」
    「こんばんは、ロージー」

     カウンターから出てきた女性──ロージーとハグするチャーリー。彼女とも友人らしい。娘の交友関係の広さには舌を巻く。
     一通り挨拶を済ませたところで、ロージーの顔がルシファーに向いた。真っ黒な目が真ん丸になる。

    「あら。そちらはもしかして……」
    「父です。友達を紹介したくて」
    「あらまぁ! それはそれは。はじめまして。ご来店ありがとうございます」
    「はじめまして。娘にこんな素敵な友人がいるとは。驚きました」
    「まぁ、素敵なお父様ね」

     ロージーは口元に手を添えてコロコロと笑った。
     上品な人だ。何でホストクラブの受付をしているのか分からなかった。

    「アラスターのことも紹介したいの。あと、ちょっとでも売上に貢献できたらなって」
    「いい子ねぇ。でも、無理はしないでね」
    「ええ」

     ロージーの案内で店内に入る。中は薄暗かったが、柔らかなダウンライトと間接照明のおかげで不便さは感じない。
     席は全てボックス席で、既にほとんどが埋まっていた。それでも品のない騒がしさはなく、みな楽しそうにお喋りに興じている。
     ルシファーたちは店の奥に案内された。そこは他と違って磨りガラスの仕切りがある席で、間接照明の色も他と違って赤色だ。半個室状態のそこはVIP席に当たるようだった。

    「すぐに呼んでくるわね」

     ロージーは優雅なお辞儀と共に去っていった。入れ替わりにボーイがやって来る。シャンパンの入ったグラスとメニュー表を置いて、ボックス外の入口で待機の構えを取った。いい教育がされているようだ。ルシファーの警戒心が更に薄れていく。
     件の男は本当にすぐにやって来た。その姿を見て、ルシファーの下がっていた警戒レベルが一気に跳ね上がる。
     現れたのは、全身真っ赤な男だった。赤い髪に赤い目。服装すら赤を基調としたコーディネートで固めているが、所々に使われた黒が派手さを抑えて全体のバランスを整えていた。
     恐らく鹿の獣人なのだろう。天を向く大きな耳も、慎ましやかな角も、黒いパンツに包まれたスラリと伸びた脚も、目立つ色合いも相俟ってやたらと視線を向けてしまう男だ。
     なによりルシファーが警戒するのは、彼がまとう妙に慇懃な空気だった。姿勢よく佇んでいるのに、こちらを見下しているような雰囲気がある。
     ルシファーの警戒を他所に、チャーリーは友人の姿に破顔した。アラスターは折り目正しく礼をする。

    『ようこそ、チャーリー。来てくれて嬉しいですよ』

     何故か声にはノイズエフェクトがかかっていた。実際に対面しているのに、声だけラジオ越しに聞いているような、不思議な声だ。

    「アルこそ。私があげた誕生日プレゼントを使ってくれていて嬉しいわ」
    『とっても素敵なプレゼントを頂きましたので。今日はコレを元にコーディネートしてみました。どうですか?』
    「とっても似合ってるわ!」

     アラスターはシャツの襟を摘んでみせた。黒地に赤のラインが入ったシャツは娘のプレゼントらしい。
     アラスターは興奮する友人をやんわり席に押し留め、ルシファーに目を向けた。ジャケットと同系色のシャドウが乗った目が細められる。

    『こちらのお方は?』
    「紹介するわ。私のパパよ」
    『これはこれは……はじめまして。お噂はかねがね。このような場所までついてくるとは、お話に伺っていた通り過保護な方ですねぇ』

     モノクルを弄りながらニヤニヤ笑う男。初手で嫌味コレか。ルシファーは頬を引き攣らせるが、なんとか笑顔を保つ。

    「はじめまして。ルシファー・モーニングスターだ。娘と仲良くしてくれてありがとう。チャーリーとの付き合いは長いのかな? 君の話は今日初めて聞いたから、どんな人物なのかとドキドキしていたんだ。予想だにしないタイプで驚いたよ」
    『大切な友人のお父様に驚きを与えられて光栄です。私のことを知らないのは仕方がありません。なにせ、たまにしか会えないのですから』

     二人の間に小さな火花が散る。チャーリーは戸惑ったが、焦りはしない。アラスターを相手にした人物はよく父のようになるからだ。彼の慇懃さに慣れていたチャーリーは、相性というものがすっかり抜け落ちていた。
     先に鉾を収めたのはアラスターだ。ニヤニヤ笑いを引っ込めて、人好きのする笑顔を浮かべて席についた。チャーリーの隣だが、一定の距離は空けている。ルシファーが噛み付かないギリギリの、絶妙な距離感だった。

    挨拶・・はこれくらいにして、どうぞ楽しんでいってください。ルシファーも、甘いものがお好きなんですよね?』
    「あ、ああ……」

     父娘にメニュー表を広げて見せる。突然様子の変わった男の調子に、ルシファーはついていけない。チャーリーは慣れた様子でフルーツの盛り合わせを頼んでいた。ルシファーもつられて視界に入ったミニパンケーキを頼んだ。

     そこからはアラスターの独壇場だった。
     彼はとにかく場を回すのが上手い。日常のなんでもない事柄を面白おかしく語ったり、チャーリーの話題に邪魔にならない程度に合いの手を入れたり。ルシファーの知らない話が出てくれば、さりげなく詳細を語ってくれたりと、三人で会話ができるよう話の流れを誘導していた。
     しかも声がいい。ノイズがかっていてもそう思うのだから、肉声を聞いてみたいと思わせる魅力がある。
     話の流れで彼がナンバーワンホストだと知ったルシファーは納得した。これだけ魅力に溢れていたら、そりゃあ人気も出るだろう。初手で嫌味合戦を繰り広げたルシファーですら、話している中でどんどん警戒心が薄れてくのを実感しているのだ。
     唯一の欠点は嫌味で皮肉屋なところか。たまに相手を苛つかせる言動をするので、ルシファーはなんとか最低限の警戒を保つことができている。それすら相手の思う壷なのではと思わなくもないが。

    「アラスターさん」

     話の流れが一つ落ち着いたところで、ボーイが静かに入室して跪く。そしてアラスターの耳元で何事かを囁いた。
     アラスターは一瞬、顔を顰めた。だがすぐに笑顔に戻り、わざとらしく残念がって溜め息を吐いた。

    『楽しい時間というのは何故こうも早く過ぎるのでしょうね。すみません、すぐに戻りますので……』
    「待って。アラスター」

     立ち上がったアラスターの手をチャーリーが掴む。アラスターとルシファーは共に目を丸くした。

    「今、指名が入ったのよね? それって……例の人?」

     何の話だろうか。ルシファーはシードルを飲みながら、知らない話題に首を傾げる。先までの流れならアラスターが内容を説明してくれるのだが、彼は苦笑しながらチャーリーを宥めていた。

    『チャーリー? 他のお客様のことを詮索するのはいただけませんねぇ』
    「否定しないってことは、そうなのね」
    『チャーリー』
    「だってアラスター、あなた困ってるって言ってたじゃない」
    『……あなたに話した私が迂闊でした』
    「アル、私、あなたを助けたいの。助けさせて。お金があればいいのよね? 高いボトルを入れるとか、それとも……」

     流石にルシファーが口を出そうとしたところで、アラスターが彼女の口元に人差し指を立てる。

    『駄目です、チャーリー。最初に言いましたよね? 無理してお金を使ってはいけない、と。ここは楽しくお喋りして、お酒を楽しむ場所ですよ。そんなことをされても、私は全く嬉しくありません』
    「でも……」
    『私なら大丈夫です。あの程度の客もあしらえなくて何がスターですか。君が心配することは何もありません。ほら、今日はお父様も来ているんですから。たまにしか会えないんですよ? たくさん楽しんでもらわないと、私がロージーに叱られてしまいます』

     アラスターはお茶目にウインクしてみせた。だが、チャーリーの表情は晴れない。
     どうもアラスターには厄介な客がついているらしい。ルシファーは徐々に状況を把握していった。

    (まぁ、酒の席だし、変な客もいるか)

     店の性質上、避けては通れない道だ。娘は少々大袈裟なところがあるから、友人の愚痴を大きく捉えてしまったのだろう。優しく育ってくれてなによりだ。
     なら、ここは父親として一肌脱ぐとしよう。アラスターの言う通り、たまにしか会えないのだ。娘に暗い顔なんてしてほしくない。
     それに、ルシファーも彼とのお喋りは好きだった。嫌味は強烈だし皮肉も強いが、知的な会話を楽しめる相手というのは意外と貴重なのだ。

    「ボトルを入れればいいのか?」
    『はい?』
    「君を独占するには、どうすればいい?」

     アラスターが目を見開く。数秒固まっていたが、ゆっくりと口を開いた。

    『……独占はできません。指名があれば、全てのお客様の席に出向かなければいけませんから』
    「ふむ……なら、今日の支払いは全て私が持とう」
    『はい?』
    「今の客全員の請求を、私に付けてくれ」

     しばし見つめ合う二人。チャーリーは固唾を飲んで成り行きを見守っている。
     数秒の沈黙後、アラスターは突然、ルシファーとの距離を詰めた。一瞬で間合いに入り、お互いの呼気が感じるほどまで顔を近付ける。キスでもしそうな距離に今度はルシファーが固まった。

    『……素敵です。ルシファー』

     アルコールで潤んだ目でルシファーを見つめて、アラスターはうっとりと囁いた。艶やかな声音にルシファーの呼吸が止まる。

    『では、オープン席に行きましょう。そこで、どうぞ見せつけてください。今日の私が、誰のものなのかを』

     流れるようにルシファーの手を取るアラスター。肩を抱かれたものだから、返すようにルシファーは彼の細腰に手を回した。
     アラスターの言う通り、見せつけてやろうじゃないか。娘の気を揉ませる、顔も知らない厄介者に。素敵なお喋りさんを困らせる不埒者に。
     ルシファーは自分の顔が赤くなっていることに自覚のないまま、スターと共にフロアに躍り出た。

     ──後にルシファーは、例の客がアラスターのストーカーであると知り、この時の己の行動を褒め讃えたのだった。





    END
    例の客はヴォックスで想定してたけど、出せませんでした。
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