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    はもん

    @hamon_samon

    文字と🔞倉庫用。文字は暫くしたはpixivに加筆修正して載せます。

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    はもん

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    ・ルシアラ熱愛報道に狂うヴォックス
    ・今回ルシファーは不在

    #ルシアラ
    #ヴォクラア

    ラジオVSテレビ 3「──どういうことだッ」

     激昂するヴォックスを前に、ヴェルベットはいつもの調子でスマホを見つめ続けている。

    「どうもこうも、そのまんまでしょ」

     ヴェルベットはスマホの画面をヴォックスに見せ付ける。画面には、今地獄で最もホットなニュースが映し出されていた。
     ニュースの見出しは「地獄の王とラジオデーモン 白昼堂々の熱々デート」とある。ルシファーとアラスターの熱愛報道だ。

    「クソがっ」

     それを見たヴォックスがスパークする。これで今日何度目だろうか。ヴェルベットはFワードを吐き続ける仲間を呆れた目で眺めた。

     事件が起きたのは数時間前。
     例の駆除エクスターミネーション以降、初めてルシファーがペンタグラムシティに姿を現した。しかも、あの・・ラジオデーモンと共に。
     数ヶ月ぶりのルシファーの出現に罪人たちは熱狂した。無謀にも本人に突撃する罪人馬鹿も現れたが、ルシファーが綺麗さっぱり洗い流したのですぐ沈静化された。
     が、代わりに水面下インターネットでは異様な盛り上がりを見せていた。
     最初は、生のルシファーを見れたことへの興奮や、先の駆除で天使軍エクソシストを追い返したことへの感謝の投稿などで溢れ返っていたのだが、すぐさまアラスターとの関係を言及するものへと変わっていった。
     なにせ、二人の距離が近い。
     アラスターの腰を抱いてエスコートするルシファー。アラスターの手の甲にキスをするルシファー。カフェのテーブルの上で手を繋ぐアラスターとルシファー。
     どこからどう見てもカップルのデートである。
     SNSは別の意味で熱狂し、メディアは挙って二人がデートする姿を報道した。
     残念ながら二人へ突撃取材した記者は軒並み帰らぬ人(悪魔)となった為、本人たちからのコメントは一切ないのだが、二人の親密な様子は疑う余地もなく恋人のそれである。
     地獄の王とラジオデーモンの熱愛報道は、一瞬で地獄中の話題を掻っ攫っていった。

    「ファック、ファック、ファック、ファック……!」
    「ねぇ、こんな所で愚図ってないで、さっきの放送事故のフォローでもしたら?」
    「もうやってる! アイツらの馬鹿げた恋人ごっこの報道もな!」
    「“ごっこ”って……何を根拠に?」
    「簡単だ! アラスターが誰かを愛する訳がない! どうせ俺に対する嫌がらせか、ただ目立ちたいだけだろ!」

     ヴェルベットは溜め息と共に目を回した。ヴォックスは頼りになる男ではあるが、殊アラスターに関わると言動がおかしくなる。
     あの・・アラスターが、いくらヴォックスへの嫌がらせの為とはいえ、恋人ごっこなんてする訳がない。そんなの彼が一番よく分かっているだろうに。

    (あのニヤケ面の何がいいんだか……)

     ヴェルベットは白と赤に塗れたSNSを流し見る。この状況を楽しめるであろうヴァレンティノは撮影で不在だ。
     上向きになってきたとはいえ、未だに会社の業績が不安な時期にヴォックスが機能しなくなるのはよろしくない。なんとか立ち直ってもらわなくては。

    「まっ、情報の真偽は確かめた方がいいのは確かよね。あくまでデートの目撃情報だけで……」
    「デートじゃねぇ!」
    「ああ、ハイハイ。つまり、本当に二人が恋人かは、今のところ不確かでしょ? 前みたいに誰か送り込んで調べてみれば?」
    「それなら既に手配済みだ」
    「流石、仕事が早いわね。今度は誰を送り込んだ訳?」
    「いや。今回は送り込んだんじゃない。呼んだんだ」
    「呼んだ?」

     ──誰を?
     ヴェルベットが口を開く前に、部屋のドアが勢いよく開かれた。ここはVタワーの最上階、ヴァレンティノの私室である。ノックもなしに部屋に来る無礼者なんている筈がない。

    「お待たせ♡」

     ピンクの煙を纏って現れたのは、予想通りヴァレンティノだった。
     撮影が終わったのだろう。ヴァレンティノの後ろには、ガウンを着て気まずそうな様子のエンジェルがいた。

    「連れて来たぜ」

     後ろ手でエンジェルを指さすヴァレンティノ。ヴォックスは一瞬で笑顔を貼り付け、エンジェルを歓迎した。ヴァレンティノが誘導し、ソファに座るエンジェル。

    「やぁ、エンジェル。疲れているところに呼び出してすまないね」
    「はぁ……別に、いいけど……」

     上級悪魔三人に囲まれる形となったエンジェルは居心地悪そうだ。残念ながら首輪付き・・・・に向ける優しさなど持ち合わせていないヴォックスは、ビジネススマイルのまま話を続ける。

    「実は君に頼みたいことがあってね。君は、今地獄を賑わせているビッグニュースについて知ってるかな?」

     自社の熱愛報道記事を表示させたタブレットをエンジェルに突き付けるヴォックス。彼の眉がピクピク引き攣っているのを確認したエンジェルは、記事の内容を読みつつ頷いた。

    「あー……もちろん。知ってる」
    「それは良かった! 我が社でもこのニュースは即座に報道したんだが、本人取材ができていない状態でね。取材しに行った者は全員、強制的に数ヶ月の休養を取らされている。つまり、嘆かわしいことに未だ真偽不明なんだ。これは我が社の信頼にも関わる。早急に事実確認が必要だ。分かるな? つまり私が聞きたいのは……これは真実なのか、だ」

     ヴォックスの顔は笑っているが、目は全く笑っていなかった。時折漏れる電気がバチバチと危険な音をたて、エンジェルの恐怖を煽る。

    (アラスターの奴、こういうことかよ……!)

     出かける前のホテルマネージャーとのやり取りを思い出し、エンジェルは内心で彼に何度も罵声を浴びせた。帰ったら実際に吐き捨ててやる。そう心に決めて、エンジェルは頷いた。

    「本当だよ。王様とアラスターは付き合ってる」

     バヂヂッ! ヴォックスの体から雷がまろび出る。タブレットに鋭い爪が突き立てられ、一瞬でただの板へと変わり果てた。
     ヴォックスは辛うじて笑顔を保っままでエンジェルを見下ろす。今にも噴火しそうな火山を連想させる目が恐ろしくて、エンジェルは上体を仰け反らせて距離を取った。

    「エンジェル、ハハッ。冗談はよせ。あのラジオデーモンが、ルシファーと? 根拠は?」
    「本人たちからホテルの全員に紹介があったし。なんならパーティーもやったよ。“恋人おめでとうパーティー”。二人が恋人になったのを記念したパーティー。チャーリー主催で」
    「つまり、プリンセス公認の仲ってこと?」

     ヴェルベットの確認に頷くエンジェル。ヴォックスはFワードを吐きながらスパークした。ただの板が消し炭に変わる。目の前でそれを見せられたエンジェルは、恐々とした心地でソファの端に逃げた。
     頭を抱えながらアラスターへFワードを吐き出し続けているヴォックスを後目に、ヴァレンティノは興味津々な様子で尋ねる。

    「ヒュ〜! ルシファーを落とすとは、ラジオデーモンもやるねぇ。いや、ラジオデーモンを落としたルシファーが流石なのか? で? 馴れ初めは? ドキュメンタリーAVにする」
    「それアラスター怒るんじゃ……あー、いや、なんでもない、ボス。えー、馴れ初め? 知らない。ホテルが建て直された後、気付いたら王様がアラスターと仲良くなってて、んで盛大に喧嘩したと思ったら王様がアラスターに惚れて……で、何があったか知らないけど、恋人になってた」
    「何だそれ。何も分かんねぇ。もっと詳しく聞いとけよ!」
    「無茶言うなよ! アラスターが教えてくれると思うか? 王様はアラスターとチャーリー以外、眼中にないし……あ、でも、よくデートはしてたよ」
    「ああ、娘のホテルでセックスデート。いいな、参考になる」
    「いや、そうじゃなくて。何度か二人で外に出かけてた」
    「外に?」

     ヴァレンティノとヴェルベットは疑問符を浮かべた。何故か元気になったヴォックスが、ニヤニヤしながらエンジェルを伺う。

    「ルシファーが街に姿を現したのなら、馬鹿共……失礼。市民が黙っている訳がない。今日のようにな。だが、ここ数ヶ月、そんな気配はなかった。報道も。当然、私がそんなビッグニュースを見逃す筈もない。よって、君の発言には信憑性が薄い」

     生き生きとまくしたてるヴォックス。内心「何だコイツ」と思いながら、エンジェルは肩を竦める。

    「そりゃそうだよ。王様は騒ぎになるのが嫌で、動物に変身して姿を隠してたから」

     お陰で一時期のアラスターは、どこぞのアニメのプリンセスのような状態だった。変身姿が小動物ばかりだったルシファーの所為だが。
     再び顔が険しくなるヴォックス。もはや口元の笑顔すらなくなった。
     ヴェルベットがスマホから顔を上げる。

    「あぁ、じゃあ、あのニュースは合ってた訳だ」
    「ァッ」
    「アンタが前に嫌がらせで流したラジオデーモンと蛇のニュース。つまりアレ、ルシファーだったってことでしょ」

     ヴォックスは目が点になる。
     忘れもしない。以前に遭遇した(会いに行った)アラスターが白蛇と戯れる姿。よりにもよってアラスターがデートと嘯いたものだから、あの時のヴォックスは深く傷付いた。
     その後、嫌がらせとして捏造写真と共にニュースを流したところ、アラスターから盛大に報復を受けた為、ただでさえ大変だった会社は益々忙しくなってしまったのだが。

    (あの時の蛇が……ルシファーだと……?)

     ヴォックスは自身の記憶を辿る。あの時の蛇はどんな姿をしていた?
     全身が真っ白で、頬が赤くて、そして白い帽子を被っていて──ルシファーの特徴そのままである。
     ヴォックスの視界がぐにゃりと歪んだ。

    「つまり、ルシファーとラジオデーモンのデート報道はウチが一番最初だったって訳ね。それを流せばバズるわよ! さっきの放送事故のマイナスも取り戻せる」
    「で、ルシファーとラジオデーモンはもうヤッたのか? ヤッたよな? 蛇プレイかぁ。今度ヤるか」
    「いや、まだヤッてないと思う。王様もアラスターも、どっちもそういうタイプじゃないし」
    「なんだよ。つまんねぇな。二人がヤッたらすぐ教えろよ。プレイ内容も聞いて来い」
    「いやプレイ内容は無理だって!」

     一人呆けるヴォックスを放置して盛り上がるヴァレンティノとエンジェル。勝手に報道チームに指示を飛ばすヴェルベット。
     徐々に現実を受け入れ始めたヴォックスは、情けない声をあげて床に倒れ込んだ。



    「ただいまぁー……」

     誰に言うでもなくそう口にしながら、エンジェルはホテルの玄関ドアを開いた。いつもならチャーリーなりニフティなりがいて返事をくれるのだが、既に寝てしまったようだ。ほんの少しだけ寂しさを感じる。
     残業・・を終え、ようやく帰宅したエンジェルの心身は疲れ果てていた。これは強いのをキメなければやってられない。フラフラの体でバーに向かうと、珍しくアラスターが一人で呑んでいた。カウンターの中では、ハスクがうんざりした顔でグラスを磨いている。

    『おかえりなさい』

     いつも通りの気味の悪い笑顔で出迎えられる。エンジェルは湧き上がる怒りのまま、アラスターにタブレットを突き付けた。眉間に皺を寄せて受け取るアラスター。

    「言われた通り持ってきたぜ」
    『どうもありがとうございます。できれば紙で頂きたいのですが』
    「冗談! そこまでやってられっかよ!」
    『……まぁ、媒体の指定はしていませんでしたからね。いいでしょう。それで、報酬は何にしましょうか?』
    「酒! それもとびっきりいいヤツ!」

     エンジェルは乱暴な動きでスツールに腰掛ける。アラスターは笑いながらハスクに顎で指示を出した。訝しげな顔でカウンターの下からウィスキーの瓶を取り出すハスク。

    『よほど大変だったようですねぇ』
    「あぁ、大変だったよ! 何が“簡単なお仕事”だよ! お陰で残業なんかしちまった! しかも、チームV全員に囲まれてさ、王様とアラスターは本当に付き合ってるのかって詰め寄られて……社長は情緒不安定でビリビリしてるし……うっかり消し炭にされるんじゃないかってヒヤヒヤしたんだからな」
    『それはそれは。お疲れ様です』

     エンジェルの剣幕にも笑顔で返すアラスター。自身の怒りが全く響いていない様子に、エンジェルの怒りが更に募る。これだから上級悪魔は。
     ハスクが出してくれたグラスの中身を一気に煽る。喉が焼けるような強いアルコールの感覚。それを飲み込んだ後に、エンジェルは目を丸くした。

    「えっ、うまっ」
    『そうでしょうね。ルーシィのですから』
    「え 王様の」

     驚いてハスクの持つ酒瓶を凝視する。見たことのない名前だった。

    『地獄で作っている酒だそうですよ。それも貴族が好んで飲んでいるとか。流通した時に献上されたそうですが、ルーシィは果実酒くらいしか飲みませんからね。私が貰いました』
    「ヒュー! 最高! 頑張った甲斐あった! ね、もう一杯!」
    『どうぞ。今度はちゃんと味わってくださいね』
    「やったー!」

     ハスクに再度酒を注いでもらい、エンジェルはご機嫌でグラスの中身を舐める。適当なつまみをエンジェルの前に置いたハスクは、嫌そうにタブレットを操作しているアラスターに話しかけた。

    「で? コイツに何させたんだ?」
    『ちょっとした情報収集ですよ。できれば触れたくない場所の』

     グラスを磨きながらタブレットを覗き見るハスク。画面ではSNSの投稿やネットニュース等が次々と現れては消えていった。
     タブレットの背面にはVEESのマークがある。社用機器なのだろう。
     アラスターの口振りとVEES。なんだか嫌な予感がする。

    「……オイ。余計なことしようとしてないだろうな?」
    『失礼な。私とルーシィの関係を地獄中に知らしめようとしているだけです。誰にも文句を言えないようにね。ついでにホテルの宣伝でもしようかと』
    「まぁ、二人がデートするだけでこの騒ぎだしね」

     ハスクの脳裏にどこぞのテレビ頭が過ぎる。恐らくこの熱愛報道に一番発狂しているだろう男。アラスターのやろうとしていることが、ただの嫌がらせならいいのだが。

    (コイツ昔から、少し目を離すとろくでもないことしでかすからな……)

     生前の苦い思い出が次々と蘇る。ハスクの猫顔がどんどん皺くちゃになった。作業を終えたアラスターがタブレットをエンジェルに渡し、席を立つ。

    『ありがとうございます。お陰で助かりました』
    「どーも。何するか知らないけどさ。もう一杯飲んでいい?」
    『残り全て飲んで結構ですよ。まだ新しいのがありますから』
    「ヒュー! ウチのホテルマネージャー最高!」

     気前のいいアラスターにグラスを掲げ、エンジェルはご機嫌でグラスを傾ける。
     ハスクはエレベーターに消える赤い背中を睨み続けたが、結局追いかけることはしなかった。
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