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    友人からのワンライお題「やつがれと谷崎さん」

    ※保育園児はこんなにしゃべれないということは忘れてください

    文スト保育園では、今日も元気に園児達が遊んでいる。

    「かくれんぼする人この指とまれー!」
     中島が指を立て、室内にいるメンバーに聞こえるように言った。
     声がけの時に直ぐ横にいた鏡花が、既に中島の指を掴んでいる。次いで賢治や国木田、乱歩、中原、梶井。参加メンバーはどんどん増えていった。
     「にーさま、私たちもいきましょう。私兄さまと一緒に隠れたいですわ」
     一つの絵本を二人で読んでいる途中だったけれど、ナオミの誘いを谷崎が断るわけはない。
     「いいよ。いこっか」
     ナオミの手をとり、自分達も参加するために敦の元に向かった。

    「やつがれはお前に勝つ」
    「僕だって割とかくれんぼ得意なんだからな!」
     開始前から揉める中島と芥川。集まったメンバーは、またかと眺めていた。
    芥川と中島の会話は喧嘩から入ることが多い。そのため、衝突を好まない谷崎は芥川のことが少し怖いという印象を持っていた。
    妹を大切にしているもの同士、仲良くなれるかなと思ったこともある。
    しかしどうにも話しかけにくい。
    「なぁ、勝負なら一番初めに見つかった人は罰ゲームにしよーぜ!」
    「わー。普通にやるよりドキドキしますねぇ」 
     中原が提案し、賢治がそれにニコニコと頷く。
    「そんなこと言って素敵帽子君一番最初に見つかりそうだよね」
    「そんなことねーよ!今日こそ俺が一番最後だ」
     乱歩の辛辣な言葉に中原が反論する。中島と芥川の言い合いはまだ続いていた。
     始まる前から騒がしい。そんな場を収めたのは国木田だった。
    「早く開始しなくては昼寝に間に合わなくなる。じゃんけんをするぞ」


    「僕が鬼!みんな十数えるよー。異能力はだめだからねー」
     じゃんけんに弱い中島が鬼に決まり、その瞬間に皆がわーっと散り散りに駆けていく。
    谷崎は当たり前にナオミの手を掴んで一緒に駆け出した。隣の教室に入り隠れる場所に悩んでいるうちに「どーこかなー」と言いながら中島が皆を探している。谷崎は、焦ってカーテンの後ろに隠れようとした。
     ばっと布をめくると、そこには無表情の芥川が立っていて思わず声を出しそうになった。
    先客がいたか。しかし、今から新たな隠れ先は見つからない。どうしようと固まっている谷崎を、芥川が腕を掴んで引き寄せた。
     芥川の隣に谷崎、その隣にナオミ、三人で横並びになる。
    「ふふ、お兄様。ドキドキしますわね」 
    「ナオミ、しーっ!」
    「……せまい」
     ガラリと教室のドアが開く音がして「ここに誰かいるかなぁ」という中島の声が続く。
     足音がだんだんとカーテンに近づいてくる。
    カーテンといえばかくれんぼの時の鉄板だったと今更ながら谷崎は後悔した。
    今日は初めに見つかった人が罰ゲームだ。
    ナオミのことは守らなくちゃと、谷崎はぎゅっと繋いでいた手に力をいれた。
     近寄ってきた中島がナオミが隠れている側のカーテンをつかんだ。自分が飛び出せば先に見つかることができる。それならば、罰ゲームは自分だ。谷崎は決意した。
     その瞬間。
    「……けほっ」
     咳の音が谷崎の隣から聞こえた。芥川が口元に手を当てて頭を少し動かす。
    「……あくたがわか?」
     中島が掴んでいたカーテンの裾を手放し、音と振動をした方に移動する。
    「ふんっ。今回は運が味方したな」
     芥川が自分からカーテンを捲り中島の元に出て行った。出て行く瞬間、芥川の視線は確かに谷崎へと向かっていた。
    「僕の実力だ!カーテンの裏にいると思ってた!」
    「やつがれが咳き込まなければ、どうせ気づかずに去っていた」
    「とにかく、今回はお前の負けだ!」
    「それは他の者を、自分の力で見つけてから言え」
    「言ったな!直ぐ全員見つけてやる!」
     芥川が誘導したおかげで、それ以上中島がこちらに意識を向けることはなかった。
     どうやら見つからずに済んだらしい。

    「いきましたわね……」
     ナオミが罰ゲームにならずに済んだ安心感と、芥川への罪悪感がごちゃ混ぜになる。
    谷崎は気持ちが落ち着かなかった。
     ゆっくりとカーテンから出る。
    芥川は一度の咳き込みだけで、今は平気そうにしている。だから、先ほどの咳はわざとであることが谷崎にもわかった。
    「ごめん。僕らのせいであつし君に見つかっちゃって……」 
    「謝るだけは愚かなやつがすることだ」
     谷崎の謝罪に対して、顔色を変えずに芥川が告げてくる。その言葉の冷たさに、谷崎はびくりと肩を揺らした。
    「やつがれは、許しを請われたいわけではない」
     何も返せないでいる谷崎に、続けて言葉を放つと芥川は教室を出ていった。
     情けなくて泣きそうになるけれど、ナオミの手前我慢をして立ち尽くす。
    隣にいるナオミが心配そうに兄様……と言って、谷崎の手を握った。

    「きみはばかだなあ!今のは言葉の通りじゃないか」
     ひょいとどこからか乱歩の声がした。
    顔を上げるといつのまにか谷崎の前に乱歩が仁王立ちしている。
    「らんぽくん!?」
     かくれんぼは続行中だが、こんなに堂々と出てきて大丈夫なのだろうか。
    「あつしは今、お庭を探しているからここは大丈夫だよ。めーたんていだから、みんなを見つけられるし逆に鬼の動きもわかっちゃうんだよね」
     疑問を口に出す前に乱歩が回答した。
     今までも乱歩が鬼になると速攻でかくれんぼが終わっている。逆に乱歩が隠れる側になると、本人が飽きたりおやつを食べに出てくるまでは見つからない。先生達と探してもどうしても見つからないこともある。そんな時の最終手段は福沢に協力してもらうことだ。
    福沢がすたすたと目星の部屋に行き、両手を広げて「乱歩」と呼ぶ。すると、嬉しそうに駆け寄ってきて抱っこ!と強請るのだ。

    「ねぇ、言葉通りって?」
    「かれはさっき『謝まるだけは愚か、許しを請われたいわけではない』って言ってたでしょ。たにざきがナオミちゃんをかばおうとしたから、協力したんだよ。あつし君に見つかるのは嫌だろうけど、かれにも妹がいるから守ろうとする気持ちをそんちょーしたんだろうね。だから、君が言うべきなのはごめんなさいじゃなくてありがとうだよ。あんまり謝ってばかりだとじここーていかんが低くなって将来大変だよ」
     言われてみると、谷崎は日頃から衝突を避けるために自分が悪くないのに謝る癖がついていた。
    それに、芥川が怖いなという印象から谷崎が勝手にびくびくしてしまった節はある。
    困っていた自分をカーテン裏に招きいれてくれたのは芥川で、そのおかげで直ぐに見つからなくて済んだ。
    助けてもらったのに、お礼を言えてない。
    「……確かに僕もごめんよりありがとうの方が言われて嬉しいな」
    「お兄様、ナオミもそう思いますわ。皆さんに対してはありがとうが良いと思います。まぁ、お兄様の悩ましげに謝るお姿もたまらなく好きなので、ナオミに対してはそのままでいてほしいですけどね」
     少し気になるところはあったけれど、ナオミの後押しに谷崎は勇気づけられた。
    「よし、僕このかくれんぼが終わったら芥川くんのところにありがとうって言いにいく!」

     
     かくれんぼは結局、中原が一番先に見つかっていた。
     いつもは最後までかくれたままの乱歩がすんなり出てきたので、昼寝の時間にも間に合った。
     皆で布団を敷いて昼寝の準備に入る。
     
     「芥川くん………。あの………」
     自分の布団を準備している芥川に、谷崎は緊張した趣で話しかける。
     「……何のようだ」
     芥川は無表情で圧力があるが、こちらに対してしっかりと目を向けて次の言葉を待ってくれている。
     「えっとね、さっきはありがとう」
     「別にやつがれは貴様のためにしたわけではない」
     「うん。僕だけじゃなくてナオミのためでもあるもんね。あと、このありがとうは大事なことを教えてくれたことに対してもなんだ」
     芥川にはっきりと言われなかったら、"ごめんなさい"の癖とちゃんと向き合わなかっただろうと谷崎は思う。場合によっては相手に対して嫌な気持ちにさせてしまう。芥川は相手の耳が痛いことでもしっかりと伝える。だから今回気づくことができた。
     「これからは、ちゃんとありがとうっていうね」
     その言葉を聞いて、芥川は一度ゆっくりと瞬きをした。
     「好きにするといい」
     その時、谷崎には芥川の表情がいつもと違うように感じた。今まで表情はが乏しく怖いとすら思っていたのに、目元と口元が少し緩んで笑いかけてくれたように感じる。
     「うん!」
     芥川の新しい一面を見れて、谷崎は嬉しさに破顔した。

     
     「なんだか、妬けますわ」
     「あいつ。僕以外にはあんな顔するんだ……」
     少し離れたところでは、二人の会話を見て、つい独り言をもらすナオミと中島がいた。
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