今日の夜の出来事23時も過ぎた頃、寝る支度を済ませたところでスマホがテーブルの上でかたかたと震えた。表示された名前を見て通話に切り替える。
「ランランいま部屋?」
少し舌っ足らずな嶺二の声がスマホ越しに聞こえる。珍しく少し酔った様子だ。
「ああ」
「よかったあ。いまからそっち行ってもいい?」
「今から?」
「そー。いまから。飲み足りないんだよねぇ」
「一緒に飲んでたやつに言えよ」
「おとやん明日早いからって帰っちゃったんだもん」
音也と飲んでたのか。あいつは案外あっさりしてるから嶺二の誘いも受け流してとっとと帰ったのだろう。この様子じゃうざい絡み方をしてた可能性もある。
「おまえも帰ればいいじゃねえか」
「無理だよ。もう来ちゃったし」
「は?」
嶺二の言葉とほぼ同時にインターフォンの音。こんな時間に鳴らすやつがいるかよ。
「ったく」
玄関に向かって鍵をはずすと嶺二は勝手にドアを開けて入り込んできた。
「ただいま〜」
「おれんちだよ」
靴も脱がないまま上り口にいたおれに抱きついてくる。
「酒くせえから離れろ」
「どいひ〜」
しぶしぶ離れると靴を脱ぎ捨て部屋に上がりこむ。
「今日暑かったから冷たいビールが最高でさあ。ついつい飲みすぎちゃった」
リビングへ来るやいなやぺらぺらとしゃべりながらローテーブルに缶ビールを乗せていく。
「おい、おい待て。おれは飲むとは言ってねえからな」
「ええっ!?飲まないの?」
信じられないという顔をしてこちらを見上げる嶺二は酔いのせいか暑さのせいかほんのり紅潮していて、正直えろい。こいつを味わってやろうかと思ったがこの数日忙しかったのもあってかなり眠い。
「おれも今日はもう寝てえんだよ。寝るとこだったしな」
「ちぇー。じゃあぼくももう寝よう」
そういってソファに這い上がりそのまま横になろうとする嶺二に、風呂入ってから寝ろよと腕をつかんで起き上がらせる。
「着替えはいつもんとこにあるから。風呂出たら好きなとこで寝ろよ」
「は〜い。ランランはもう寝ちゃうの?」
「おー」
「そ。おやすみ」
「おやすみ」
ベッドに潜り込むと急激に眠気におそわれ、小さく聞こえるシャワーの音を子守歌におれは眠りに落ちていった。
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「ランランもう寝ちゃった…?ってほんとに寝ちゃってる」
ランランの眠るベッドに腰掛けてもうんともすんとも反応せずに静かな寝息だけが聞こえる。
お風呂に入ってすっかり酔いも目もさめてしまったし、ぼくが寝るにはちょっと早い時間なんだけど、どうしたものかな。
頬をつついても全然反応しないランランの片腕を持ち上げて胸の前に潜り込んでみる。
「ん……」
すると腕に力がこもりランランにくっつくように強く抱き込まれた。
「起きちゃった?」
「……さすがにな」
「ごめんね?」
「いい」
頭のてっぺんのあたりにランランの息がかかる。あつい。
「明日なら夜あいてるから」
背中をぽんぽんされながら、寝起きの少しかすれた声で囁かれるとキュンとしてしまう。
「うん」
ランランはすぐにまた眠ってしまったみたいで、徐々に腕の力が抜けていくけど、ぼくはそのまま腕の中で目を閉じた。