待ちに待ったハロウィンの日だ。だというのにマサの姿が見えない。まだ寝てるのかな?マサの眠る棺に近寄ると蓋は閉まったままだ。蓋をそっと開けると、すやすやと眠るマサの姿があった。
「マサ、まーさ、起きて。今日はハロウィンだよ」
声をかけても全然反応がない。躊躇したが少し身を乗り出して覗く。いつ見てもきれいな顔にドキドキする。白い肌にまつげの影が落ちているのがすごく色っぽくて、つい見とれてしまう。
「マサ?」
覗き込んだままもう一度声をかけてみると、視界の外から長い腕が伸びて来て服をぐっと引き寄せられた。バランスを崩して棺の中に倒れ込む。狭い棺の中、マサを押し潰さないように咄嗟に体勢を変えてマサの隣に落っこちた。片手を掴まれたままだからうまく受け身がとれなくて、かぶっているかぼちゃに頭を打ち付けたから少し痛い。
「いてて。もう、危ないだろ」
「ふん。そんなものをかぶっているから俺が手を伸ばすのも見えなかったのだろう」
「それはそうだけど、っていつから起きてたの?」
「お前が蓋を開けた時からだ」
「最初からじゃん」
マサがクツクツと笑う。
穴越しに見える、目を細めて笑うマサの表情にどきりとする。
棺の中は狭いし、マサがすぐ近くにいるせいで心臓がバクバクして苦しい。
「ほら、もう起きようよ」
そう言って身体を起こそうとすると、マサにぐっと引き寄せられる。
「いや、まだだ」
「もう十分寝たでしょ?」
俺の腕を掴んでいた手が離れてそのまま腰に回りあやしく撫であげる。
「ちょ、ちょっと、マサ!?」
こんなに狭くて薄暗い場所で、かぶったかぼちゃのせいで余計に視界が悪くてマサの動きが見えなくて予測がつかない。腰からお腹や太ももに移動した指先が触れるたびどんどん全身が熱くなる。
「マサぁ……」
「俺を起こしてくれるんだろう?こんな物を被っていてはキスができないではないか」
「なんでキス? ていうかもう起きてるじゃん!」
「キスで起こすのは世のならいだろう?」
「そんなの決まってないって」
下手に暴れるとマサにかぼちゃが当たりそうでうまく身体を動かせない。それでもどうにか逃げようと身をよじるけどマサが腰に回した手に阻まれる。
そして、俺のかぶっているかぼちゃをどけようと頭に片手をかける。俺は慌てて頭をガードしてそれを防ぐと、ふてくされたようにマサが言った。
「おい、往生際が悪いぞ」
「だって……!」
「ふむ。ではこれならどうだ?」
俺のかぶっているかぼちゃを外そうとしていた手が前に回って、ズボンのファスナーのつまみを掴む。
「ま、待って!それはだめだって!」
「観念しろ」
「はずす!はずすから!」
慌ててかぼちゃを頭からはずして棺の外に転がす。ごろんごろんと転がる音が響く。これから必要なのに割れてなければいいけど。
視線を正面に戻せば視界いっぱいにマサの満足そうな顔が映る。ああ、もうこんなかわいい顔してずるい。
「では、改めて」
マサが目を閉じて少しだけ唇を突きだす。俺はその唇にそっと自分の唇を重ねた。
軽く合わせるだけのキス。それだけなのに、もう何度もしてるのに毎回心臓が破裂しそうなほどドキドキしてしまう。
「おはよう、マサ。目は覚めた?」
唇を離して問えば、まだだ、という返事と同時にマサに頬を両手でつかまれて再び唇が重なった。
「ん、ふっ……」
さっきとは違う情欲のこもった熱いキス。
息継ぎのために少し唇が離れた瞬間に舌が割り込んできた。熱いマサの舌が俺のものに絡まると、お互いの境目がわからなくなるほど溶けてしまうような感覚に陥った。気持ちよすぎて頭がぼうっとする。もっと欲しくて夢中で舌を吸い上げ唾液をすすると身体の奥がじんわりと熱くなっていく。
「マサ……」
俺が観念したのが分かると、これ以上ないってくらいあやしくマサが微笑んだ。
「お前と交わすキスはいつも甘い」
目元と頬をピンク色に染めて、キスでぷっくりとおいしそうに腫れた唇からそんな言葉を紡がれてはもう止められるわけがない。
「今日はいつもより甘いかもね」
今度はマサの妨害もなく身体を起こす。
横たわったままのマサの上に乗り上げてもう一度キスをしてから、服の上からマサの敏感な場所をそっと撫でた。
「んっ……」
それだけで眉を寄せて吐息をこぼす姿にますます身体が熱くなる。
「それとも、今日はたくさんいたずらさせてもらおっかな? Trick or Treat? ねえ、マサはどっちがいい?」
そう言って俺はマサが着ていた服の裾から手を入れ、なめらかな肌の上を滑るようにゆっくりと手を上に向かって這わせた。
「ふふ。困ったな。どちらにしようか。お前はどうしたい?」
「今日はとびきり甘い方がいいかも」
「それは楽しみだ」
マサが俺の首に腕を回してぎゅっと引き寄せた。
耳にマサの熱い吐息がかかる。
俺もマサの背に手を回して身体を引き寄せると、もう一度キスをした。