サマー仮面とりかねえさんサマーとNOTサマー
海上理華は夏が嫌いだ。
どうしようにもないぐらい嫌いだ。
夏は暑い。海に行けば視線が気になる。なにより食欲が湧かないのがとても嫌い。そういう夏が冬よりもタチが悪いと評し、
「夏と冬どっちが好き?」
という質問に、間髪入れずに冬と答えるタイプの人であった。
そんな理華は色々あって6つ子の世話をする家政婦になっていた。
季節は夏である。
6人と理華で海に行くという提案があった。
夏がとても嫌いな理華はそんなのいいよ、みんなで行かなくて......と頑なに断った
それもこれも全て6つ子__童貞共のクソみたいな思想から来たものだったので、何とかして理華を海に連れ出そうと決起するようになった。
その中でも特に松野カラ松は理華のことをどうにかして連れ出そうと色々考えていた。
というのも、カラ松は自分が持っている野望(意味深)の前に理華が好きという思いをどうにか伝えられないかと試行錯誤していた最中だったからだ。
そしてふと思い出す。
そうだ!俺には取っておきのナイスキャラがいるじゃないか!!
そう、それは「サマー仮面」のことだった。
「サマー仮面」はとにかく夏を味わってもらう格好は変態だが中身は熱い男というギャップが味わえる、顔芸が得意なカラ松の夏専用キャラだった。
そうとなれば善は急げ......だなっ!と躍起になったカラ松はすぐさま自前のTバックと仮面をつけ、スキューバダイビングで使うヒレを履き、乳首に自分で月と太陽のマークを描いたなら準備は万端。
あとはハニー......あいや、理華に「サマー仮面」と会ってもらい、どうにかして海に連れ出せないだろうという淡い期待の元、1回へ降りた。
居間でスマホを見てる理華にバレないようにこっそり近づいて、
「ナイスサマー......してるかい?」
と、声をかけた。
「ど、どなたですか!??」
理華が驚いてこちらを見てきた。
「俺か?俺の名前はサマー仮面ッ!君があまりにもノントサマーな生活をしていると聞いたんで俺が駆けつけてきたってわけさー〜っ!」
少しの静寂と共に理華が声を出した。
「……サマー仮面??」
どうやら理解が出来ていないようだった。
「あぁそうだとも。サマー仮面。それが俺の名前だ。よろしく頼むぞ。りk......マイハニー! 」
「って「サマー仮面」ってなんですか?」
「ここのBrother達には聞いたことないのか?」
「いや......特には......」
「「サマー仮面」っていうのは、夏なのに引きこもってダラダラダラダラした生活のBADなBrother達を俺がナイスサマーにしてやる、すごい活動をしている人のことだ。」
「へぇ......」
「ふふん、少しは褒めてもいいんだぞ?」
「はぁ......?」
「さては褒める気ないな?でもまぁいいんだ。ここに夏を上手く満喫できていないBADGIRLがいると聞いたんだが......まさか君のことかな?」
「そう......なのかもしれないですね」
「ふむふむ。君かぁ......」
「ジロジロ見ないでくれませんかね?なんか......恥ずかしくなってくるので......」
「ナイスバディなのに夏を謳歌していないなんてノントサマー!!もっとこう……揺らせ!!」
「…………うるさい。」
間に変態発言がありながらも、理華は一通り理解できた。
「えーーっと......今までの事を改めると、あなたは『サマー仮面』で、夏を満喫できてないこの私にわざわざ会いに来たってことですか?」
「うん!まさしくその通り!!マイハニーは理解が早くて助かるな」
「ってさっきから気になってましたけど、なんで私のことをマイハニーって呼んでるんです?」
「んー??マイハニーはマイハニーだろ?他に何があるんだ?」
「いやありますよ。深い意味がありますよ」
「......深い意味は......ないからな。大丈夫だマイハニー」
「.........なんで今躊躇った」
「..................シークレットで頼む」
「と、に、か、く!!
ハニーには少し夏を満喫してもらうために、これからアイス買いに行くぞ!!」
「えーーーアイスーーーー?買いに行かなくてもいいじゃないですか......」
「アイスは夏を満喫するためのファーストトライ!!!行くぞ」
「いやです」
「ダメだ、拒否権はない」
「............服がないです」
「服着てるだろ?何言い出すんだハニー」
「よそ行きの服がないです」
「めんどくさいなハニー......ハニーはよそ行きの服でなくても十分可愛いぞ?なのになんでそう意地を張るんだ?」
「......だって暑いし、かと言って薄着になったら視線が気になるし......嫌なものは嫌ですよ」
「そうか?俺はそんなことないぞ?むしろ今のハニーが1番とても可愛く見える。とても好きだ」
「.........好き?」
「うん。こんな奴に本心をさらけだしてくれるだなんて好きになるだろ?」
「.........好き......」
「可愛い」
「____?」
理華はこんな奴にキュンときてしまっていた。なぜキュンとしてしまったのかは分からない。理華はこれを夏のせいにした。
「顔赤いな、どうした?」
「なんでもないです、気にしないでください」
「そうか......アイス買いに行くか?」
「.........うん」
何日ぶりの太陽だろうか。
夏の太陽にジリジリ照らされていたコンクリートの道はとても暑く、上からも下からも熱を感じるような日だった。
理華達は近くのコンビニでアイスを買うことにした。
「なんでコンビニなんですか?」
「ん、いいだろ?コンビニ。何か嫌なことでもあるのか?」
「いやないですけど......」
「ふ~ん?そうかそうか......さてはハニー、俺と逃避行がしたかったのか?」
「いやそれは無いです」
「えぇ.....」
「ほら、コンビニ着きましたよ」
コンビニの中に入ると涼しい風が体を冷やす。さっきとの暑さとは比べ物にならないぐらい快適だった。
「コンビニでアイスって......夏ですか?」
「アイスを食べるという行為がサマーなんだぞ?何を言い出すんだ......」
「はぁ......」
「イートインもあるからな。一緒に半分こして食べるものでもナイスサマーを感じれるんじゃないか?」
「あんたも食べるんかいっ!」
「食べちゃダメなのか?」
「いや、別にいいですけど......」
理華は渋々2人で半分にできるアイスを買い、イートインでシェアした。
ちゅぅーー〜〜ーっ.........
「..................」
ちゅぅーー〜~〜っ.........
「..............................」
理華がアイスを吸っている所をまじまじと見続けていたサマー仮面__カラ松はあらぬ想像をして
いた。
______ねぇ............このアイスみたく......ちゅぅーー〜~ってされたい?
されたい!!
わかった。カラ松くんのためならいくらでもしてあげる......♡
ちゅぅーー〜~ー♡
うへ、うへへへ……♡♡
___仮面の下はただの童貞だった。
「............溶けますよ、サマー仮面さん」
「..................」
「聞いてます??」
「...........................そんなとこ......ダメだって......」
「あのーーーー!!?聞いてます!?」
「はっ!?ど、どうしたハニー!イきたくなっちゃったか!?」
「何考えてるんです.........?サマー仮面さん、アイス溶けちゃいますよ」
「はっ!?ほんとだな、教えてくれてありがとう理華」
そこに訪れたのは一瞬の静寂だった。
やけに変な汗が出てきた気もしたが、きっと気のせいだと思う。
「.........りか?」
「あっ」
「なんで私の事理華だって知ってるんです?」
「あーーーー!そ、それはだなーーーーーっ!」
「それは?」
「それは...............」
「なんですか?」
「............アイス食べてから言う」
「えっ」
「ちょっとだけ待っててくれアイスちゅーちゅーするから」
ちゅぅーー〜~ーちゅぅーー〜~ー
「いっぱい吸ってる......」
「ごちそうさん!!よぉ~し外出るぞ!マイハニーー!!」
「へ?嫌だから私のこと知ってる理由を......」
「ん、なんの事だ??聞こえないな!!」
「............こいつ...」
「............あいらびゅーマイサマー!!」
「変なこと言って誤魔化さないでください!!」
「うっ.........だって言うと説明が......難しいし......」
「ダメですしっかり教えてください、拙くても構わないので」
「......なら言うようだが......本当のことを言うとハニーのことは......カラ松から聞いているんだ」
「えっ!?そうなんですか!!?」
案外単純だった。理華はそういうものを信じるタイプだった。
「そ、そうだぞハニー......俺はカラ松と仲が良くてな?そ、それであいつは理華の話ばっかりしてて興味が湧いたからハニーに近づいたという訳だ」
「そうだったんだ......カラ松くんが......」
「騙しているようですまなかったな理華......」
「あ、いやそれは大丈夫です。しっかり教えてくれたから返って安心してます」
「そ、そうかそうか......よかった」
「ま、そういう話ばっかりしててもどうしようもないからな!!ハニー!!まだまだナイスサマーな日は続いているからなっ!!!行くぞ!」
「はい、行きましょう!」
2人は空調の効いた涼しい所から再び暑い道へと戻って行った。
「いや......まさか誤爆するとはなぁ......」
「サマー仮面さんもそういうのあるんですねぇ」
「.........ハニー、俺がなんでカラ松と仲良くしてるかは......聞かないのか?」
「あ。聞きたいです」
「ふふ~ん、いいぞ、あいつがなんて言ってるかハニーにだけ大放出だ」
「あいつはなぁ......理華のことが好きだってずーーっと言ってるんだ」
「............好き?」
「うん。大好き.........ってカラ松がな?」
「そうなんだ......」
「俺はカラ松がそんなことを言ってくるわけだから気になるだろ?でもあいつはそういうことを一切させないやつでな......だから俺がやってきたというわけさ」
「へぇ......」
「理華が大好き......ってずーっと思ってるらしいからな!あいつはな!!」
「どこが好きとか聞いてるんです?」
「.........そりゃ......まあ?」
「えっ!どこなんですか!?」
「............顔?」
「かお.........?」
「とか.....雰囲気......とか?」
「とか??」
「..................身体が好き」
「やっぱり......?」
「とか言ってたような気もしなくもないなぁ...」
「なんですかその曖昧表現」
「言っておくが嘘なんてついてないぞハニー、ハニーの全部が好きって四六時中考えてないと生きてけないとか言ってたぞ?」
「.........四六時中?」
「ハニーのこと好きだから、好きすぎてたまんなくなって......身体が疼いて......まぁうん、そういうことだ」
「どういうことなの......?」
理華の頭の中にははてなマークが20個ぐらい浮いていた。でも話を聞いている限りカラ松は理華が好きすぎてたまらないというのは伝わってきた。
「ってかこれどこ向かってるんです?」
「あー......今日はおうちに帰ろうか。色々話して疲れてしまった......」
「......疲れるって......ナイスサマーはどこいっちゃったんですか......」
「ナイスサマーなんかいくらでも作れるからな......また会えるといいな?ハニー」
「はい。こちらこそ面白かったです」
「.........それじゃ、ここらで」
「.........うん」
本当だったら2人で仲良く帰れるはずだが、あくまでも「サマー仮面」であるカラ松は裏道を使ってすぐさま家に帰り、靴を脱いで、元の半袖パーカーに袖を通し、仮面を隠し、何事も無かったかのように家のテーブルでいつものバイブルを読んでいた。
「ただいまー......ってカラ松くん......!?」
「あぁ......おかえり」
「.........うん、ただいま......」
「.........?」
理華がやけによそよそしく目線はこちらに向けず台所に向かってしまった。
やはりさっきの「好き」が効いてしまったか?と内心嬉しくもあり、少し寂しくもあるがあまり気にすることではないか......と思いまた雑誌の方に目を向けた。
しばらくして理華がこちらに来た。
ずっともじもじしている。そりゃ好きって思われてるぞとか言われたら意識するよなぁとか思うがこう簡単にも発展していいものか......と逆に考えてしまった。
.........孤独を感じるような静寂。
2人いるはずなのに他の音が聞こえない。
だいぶ気まずくなって理華に声をかけようとした瞬間
「「あのさ!」」
.........ダブってしまった。
「理華から......でいいぞ?」
「あっ、うんありがとう。あのねカラ松くん......さっき『サマー仮面』って人に会ったの」
「あぁ......あいつか......」
「えっ?知ってるの?!」
「まぁ......うん、色々ある仲だがな?」
「そうだったんだ......」
「その『サマー仮面』がどうかしたのか?理華」
「......デリカシーないとか......言わないでね?」
「あぁ......」
「.........カラ松くんって私の事好きなの?」
「...............」
「あっ、いやそういう不純な動機なんてないんだよ!?た、たまたまそのサマー仮面って人に会って言われただけで!!どうなのかな~?って思って!!」
「そうか」
やはり理華は耐えられなかったようだ。
.........ようやくこの思いの丈を話せる......
「俺は......俺は理華のことが大すk」
「「「「「ただいま~」」」」」
「あっ……おかえりー!もう夜ご飯できてるからみんな手伝ってね」
「はいはーい了解っと......」
「............そうだった、マイブラザー達!手洗わないと!な?なっ??」
「別にしなくてもいいじゃねぇか」
「あ、僕理華ちゃんのこと手伝ってくる~♡」
「あははは~!僕もやるぅ~!!」
まるで図ったようなタイミング。
理華に対して好きとは言わせないという強い意志を感じた。
6つ子達全員ご帰宅で、夕ご飯の時間になったので食事を食べ、理華は帰り、いつものように銭湯で風呂に入って、いつものように6人1部屋で狭いところで寝た。
カラ松は今日の出来事を思い出した。
カラ松が理華を好きという事実は伝えられたが、それはあくまでもサマー仮面からの言葉であって、もしかしたら理華は明日になったらころっと忘れているのかもしれないと少し悲しくなった。
また明日、理華にはしっかり伝えないと......そう思いながらまぶたを閉じた。