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    敷宇治

    ジョイアイを書いています。

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    敷宇治

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    青空に星を浮かべるジョイスとアインのジョイアイ

    

※この話でヴェルトと書いてあるのはジョイスです。ビジュアルノベルネゲントロピーの表記に合わせてます。ヨウではないです。


    星の在り処星座。誰が決めたか、名付けたかわからないけれど、希望だったんだろう。俺という存在を見つけて、線を引いてくれた彼女のように。暗い夜の道標、グリニッジタイム10月20日22時57分。
     
    「今日はお散歩に行こう、ヴェルト。じゃあ、10分後準備ができたら下で集合だ。君は準備ができているようだが、何しろ僕ができてないのでね。」
     バタンという音は二回なった。いつものように俺の自室にノックもせずに入ったアインの声は提案し、遠くなっていく。一瞬のアインの声がまだ響いている気がした。姿を見せる間もなく空気が動いた。今日は散歩に行くらしい。あの日から俺がレクリエーション係のはずなのに息抜きを設定してくれるのはいつもアインかテスラだ。少しだけ俺の仕事ってなんだっけと思う。アインが君はそのままでいいって言うからいいんだろうけれど。だけど、俺だって何か返したいし、アインにも楽しんでもらいたい。そのためには、どうすれば……こうすれば……
      
    「……ルト、ヴェルト!僕は準備ができたよ。僕が入っても気づかないってことはまた何か考えていただろう。たしかに考えることは重要だ。人間は考える葦である。君自身の考えが君を作るさ。だけど、時には単純でもいいじゃないか。さあ、とにかく出発しよう。」
    いつの間にか経っていた10分をものともせず、手を繋いで、引っ張られながら外に出た。青と光の別世界。曇りばかりのロンドンには珍しい軽やかな街並みが見えた。
    「アイン、まぶしいね。」
    「そうだな、ヴェルト。今日を散歩にしたのは偶然なんだがいいものが見れた。」
    「気持ちいい昼下がりだね。でも、星が見えないのが残念かな。まあ、ここロンドンでは夜も綺麗に見えないけれど。」
    —そうか、星か。アインはきっと聞こえないと思ったんだろうか。薄氷を撫でる風のような声でそう言ったと思う。アインの顔はなんだか怖くて見ることはできなかった。氷の下を知ってはいけない気がした。意を決して彼女を見ると、いつもと変わらない君がいた。
    「ヴェルト。見えなくても、星はある。この明るい空の中に。青空の底に。」
     そう言って、手をあげ空を仰いだ彼女は青空よりも澄んでいた。今なら星に手が届いてしまう気がした。俺じゃなくて、アインが。それなら、俺は手を届かせる。アインの手を引っ張り、手を繋ぐ。握った手は冷たかった。間に合ったと思った。アインは驚いているようだ。
    「どこかにいってしまいそうで、それこそ青空の底まで。」
    「ヴェルト、どこにも行かないよ。僕を信じろ。」
    「わかったよ。アイン。」
     それからしばらく青い星空を眺めた。それでもやっぱり星は見えなくて、でもあって。不思議な気分だ。見えなくてもあるんだって思うと。
    「自分で言っておいてだが、あると言ってもやっぱり星は見えないな。」
    アインは少しだけ下を向きながら言った。
    「そうだね。やっぱり残念だ。青空にはたまに白いお月様が見えるけどそれすらも今日はないね。」
    「……そうか。そう気を落とすな。それなら星を作ろう。青空に。」
    「どうやって?」
     まあ、ついてくるといいと言って、俺の手を引いたアインは得意げだった。しばらくすると、宝石屋の前についた。間違いない、宝石屋だ!こんなとこ来ても大丈夫なのか?アインは手をパッと離すと店に吸い込まれていって、後を追う。店の中では透明な海の中で色とりどりの輝きが揺れていた。思わず手を伸ばすとコツンという音が鳴った。
    「すみません。」
     そう謝ると、店員は大丈夫ですよと返してくれた。もう一度ぺこりとお辞儀をするとアインを探す。輝きに飲まれないように目的はまっすぐに。さて、宝石屋の奥の方で白い光に照らされ彼女は佇んでいた。
    「これが青空の星になる予定のものだ。」
    そうして、アインは透明の海の底の白い雫を指差す。
    「……綺麗。これは真珠?」
    「正解。見るのは初めてかな?と言っても、前につけたことはあるんだけどね。」
    「あっ、あの時のドレスのネックレス。」
    「そうだ、あれはテスラのだったんだけどね。店員さん、これひとつください。」
     真珠のネックレス。取り出されたネックレスは光を強めた。なるほど、星だ。海の中の星だと思った。そんなことを考えているとサッと会計を済ませたアインが出口に向かっているところが見えた。急いでお礼を言い、外に出る。店に入る前と変わらない青空が広がっていた。まだ青空の都合はつくようだ。
    「ヴェルト、あそこに行こう。」
    「公園か、わかった。」
    ひっそりとある公園に入る。
    「流石にあの時のように寝転んだりはしないがさっそく天体観測といこう。」
    と言いながら、早速買った真珠を取り出す。その瞬間、真珠のことを知っていると思い出した。
    「アイン、真珠は人魚の涙なんだろう。何かの本で読んだことがあるんだ。」
    「そういうお話もあるな。人魚が恋人を想って流した涙が、波にはじけて宝石となったという話だな。そういうイメージから、故人への敬意を表す際につけるジュエリーになったっていう説もある。」
    「面白いな。いろいろなことを知れるのは幸運だ。君のおかげだよ。」
    「そうか、僕も君をからかうのは楽しいと思っている。……さて、本題に入ろう。」
    アインシュタイン博士でもあろう人が照れているのだろうか?下を向いて見えた耳が少し赤かった。それはさておき、そろそろ海の星の出番らしい。
    「こうやって青空に真珠を飾る。青空の中の星のようだろう。」
    そうやって、空にアインは手を伸ばす。海の星が空へと昇った瞬間だった。
    「ヴェルト、人魚の涙って言われる真珠だが他にも異名がある。月の雫っていうんだ。」
    「……月の雫。そっかあるべきところに帰れたんだね。海から空へ。」
    「君も時々詩人なんだね。僕と同じように。」
    そう言ってアインは少し目を瞑って、笑った。その顔をずっと忘れられないような気がした。そんな気がしたが、横で少し聞こえた、いっそのこと糸を切って空にまくかという恐ろしい提案に一気に引き戻された。
    「アイン!俺は真珠はネックレスになれてよかったーーーーって言ってると思うよ。ね、そのままにしておこう。」
    彼女はさらに笑った。
    「嘘だ。君のその焦り顔想像以上だ。随分と満足できたよ。」
    べーと舌を出した天才科学者はいつもと同じようだった。また、からかわれた。盛大にからかわれている。いつものアインに戻ったようでよかったけれど。
    「からかわれてるのは嬉しくないけれど、よかったよ。それに星座みたいだね、空のネックレス。真珠が繋がっていて。」
    「星座か。真珠を繋いだネックレス、星々を繋いだ星座か。なるほど。じゃあ、これは42実験室座と名付けよう。なにしろ、青空の星座の発見者は僕だから。」
    「じゃあ、あれはアイン星、右横はテスラ星、左横は俺、ヴェルト星。それに、フィンランド人もヨアヒムも。ってことだね。」
    「はは、そうかもな。みんなで42実験室だ。」
     海の星を繋いだ星座を空へ帰しながらずっと話す。そうしてしばらくした後に青空の天体観測は終了した。そしてネックレスだが、もう一つの青空へ返すことにした。
    「ねえ、アイン。ネックレスつけてよ。海の星座をもう一つの青空に帰そう。」
    「もう一つの青空?天才科学者の僕でもわからないな、詩人くん?」
    「本当はわかってるんだろう。アインのことだよ。その髪色は綺麗な水色だ。青空の色なんだ。だから、月の雫が帰る先にはちょうどいい。それにその髪色は海の色でもある。だから、人魚の涙が溶ける場所にぴったり。ということでね。どうかな?」
    「わかった。降参だ。君がこんなにおしゃべりになるとは。君が責任持ってつけてくれ。」
    そう言って、髪を持ち上げて首が見えるようにする。人は普段隠れたものに興奮するという意味が少しわかったかもしれない。その思いを消し去るようにネックレスをつけることだけに集中する。
    「よし、できた。」
    「どうだ、似合っているか?ご感想をどうぞ、ヴェルト。」
    「……とても似合っているよ。元からアインのものだったみたい。」
    「そうか。では、今日はこの青空が消えてしまうまでに帰ろう。」
     お互い並んで歩く。行きと変わらない速度、軽やかな街並み、青空。行きと帰りで違うのは、帰る場所があると気づいたことだけだった。



    感謝祭の災害 11月24日 
    ある1人の英雄の手によって、街の死者数は0、建物が少し倒壊するだけで済んだ奇跡の災害らしい。
     この日の空はどんな色だったのだろうか。何一つわからないが一つだけわかる。もう彼がどこかへ行ってしまったこと。空のどこかへ、それこそ青空の底へと。

     4月に僕が目覚めた時、感謝祭の災害について教わった。事実だけを教わった。そして、彼がもういないことも知った。そして、僕たちが目覚めた後に行われた形だけの葬儀を行うことになった。ヴェルトのものは何一つ残ってないというのに碑を立てる。僕は、葬儀の準備にとりかかった。黒い喪服に身を包み、ジュエリーを手に取った。真珠のネックレス。故人への敬意を示す人魚の涙。
    「こんなものに僕の思いを託してなるものか。」
     ふとそう思った。人魚の涙は月の雫。一緒に空に帰ればよかった。彼のように僕も。ならば、空でなくても無に帰ってしまえ。そう思いながら僕は、真珠のネックレスにハンマーを振り下ろした。何度も何度も振り下ろしただけど、星は消えなかった。砕けなかった。どうしてだ。君はもういないのに。まだいるみたいじゃないか。すると、何かが悲鳴を上げた。悲鳴を上げたのは星ではなかった。星々が散らばった。ネックレスの糸が切れたのだ。散らばった星々はあの日見た夜の星空に似ていた。星座は瓦解した。決して晴れやかな気持ちにもならず、あらたな痛みを産む。それに気づかないようにこれからのことを考える。形を失った星で何を描けばいい?君はいないのに。彼女は痛みを伴う制限に気付くことなどなく、心に刺さったものが彼のような美しい結晶になるまで見えない涙を積み重ねる。
    「どこにも行けない。行かないよ、僕は。」

     星座。星を繋ぎ合わせて、物語を作るもの。物語は広く永く遠くまで届く。語り手と星そのものを置き去りにして広く永く遠くへと。星を意味あるものへと語り変えてしまう。それでも星を忘れないために物語を繋ぐ者もいる。形のない星の在処を、帰る場所を守るために。
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