後ろをついていくだとか、遠くから見てろだとか、そんなことばかり言われそれに従って生きてきた。自分から前に出てスタスタ歩いていくなんて許されないことだったし、周りにもそんな出しゃばった真似はするな、の重圧ばかりかけられてきた。そんな人生だったから、ついに箍が外れてしまったのかもしれない。
みし、と思い切り体重をかける。下で潰されている彼はうぐ、と虫の音のような短い悲鳴を吐いた。なるほど、確かに気分が良い。これが勝者の位置なのか。病みつきになる酩酊感に襲われる。
「愚かにも僕に踏まれる気持ちはどうだ」
そんな悪役めいた言葉がぽろりと口から出てしまうくらいは酔っていた。ちっぽけな自尊心はこんなことだけで満たされてしまった。
「ッなんにも、嬉しくもないね!」
藤丸はありったけの殺意を湛えながら吐き捨てた。それがひどくカドックを沸き立たせた。
「アンタは間抜けだ!こんな僕に怒りをぶつけたってなんにもならないのに!…こっちを見ろ」
首を掴み取って無理やり視線を合わせると、もっと厭々とした蒼い目があった。
「何も召喚できない今のアンタじゃ僕以下だ。身体強化すらまばらなのに、よくここまで五体満足なことだ」
「それは、」
「どうせサーヴァントのおかげだろ?自分だけじゃ何もできないくせに、一丁前にマスターをしてるのに腹が立つ」
首を持つ手に怒りを込めていけば比例して藤丸の表情が歪になる。このまま首を刎ねることができたらどこまで幸福だろうか。
そんな楽しい夢はすぐに醒めてしまった。