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    ktou_sa

    @ktou_sa

    シンアスonly
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    ktou_sa

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    シンアス。嫉妬しあう二人。アス視点。アスの家に頻繁に訪れているシン

    花束「誰か来てたんすか?」
     ダイニングに足を踏み入れるなり、シンの溢した問い掛けはアスランをぎくりとさせた。
     当の本人は、すぐにハッとした様子で口元に手を当てていた。続く言葉は噤まれたものの、その目線は固定されたままだ。
    「花、好きなんだ……最近」
     その先にあるのは、ダイニングテーブルに置いたストレートグラス。半分ほど水が入ったそれには、花の束が刺さっていた。
     五センチほどの、鮮やかな赤が存在感を放っている。天を目指している花弁が幾重にも重なって、炎のような風貌を形作っているものだ。二、三本のそれらを囲むように、負けじと黄色の小花が咲き誇っていて、花瓶代わりにされた質素なグラスが、可哀想なほどに不釣り合いだった。シンが気にするのも無理はない。
    「へえ。じゃあ……アスランが自分で?」
    「これは——貰った。買い物の途中でさ……」
     言い淀んだアスランに、ふうん、と、聞いているのかいないのか、判然としない上の空が返ってくる。そのままシンは、勝手知ったる様子でふらりとバルコニーへ出て行った。
     宇宙から降りたばかりのシンとレストランで食事を済ませ、ここへ帰る車中。シンは月を見たそうにしていた。今夜は満月なのだそうだ。プラントで過ごすことが多い彼にとって、見上げる月は新鮮なのだろうか。

     暫く、といっても五分ほど。散らかったままにしていた書類を片付け、彼が使うためのタオル類を用意していたけれど。一向に戻ってくる気配のないシンの様子を見に、バルコニーへ出た。シンは、食い入るように天空を仰いだままだ。
     遠くから微かに聞こえてくる凪いだ波の音に重なった、ぎり、と歯が軋む音は頭蓋をいやに震わせた。
    「シン、お前の認証情報、もうすぐ使えなくなるから。手続きしてくれ」
     緩慢な動作で、シンは首をもたげる。月明かりに照らされた揺るぎない深い紅に、捉えられた。
    「おれ、大人気ないですよね」
    「そうか?俺も、空見ながらぼうっとすることあるけど」
    「そのことじゃないですよ」
     ふ、とシンは困ったように口元を緩めていた。
     じゃあ、一体何のことだろう。二年以上、重ねてきた時間はいつになっても、答えをくれることはなかった。
    「申請、今日中に済ませたいんだ。明日、忘れそうだから」
    「……分かりましたよ」
     柵に置いていた腕を引いて、アスランはシンを家の中へ促す。まだ見ていたかったんじゃないか、と過ったけれど、シンはされるがままだった。――言葉にするのは、億劫だ。触れ合った肌から、気遣いがすべて、伝われば良いのに。

    「やっぱり、浮いてますよ」
     ダイニングテーブルでアスランの端末を操作していたシンは、はあ、と大仰に溜息を吐いた。向かいに腰掛け、ぱらぱらと雑誌をめくっていたアスランは、何のことかと視線を上げた。
     飛び込んできたのは、一点に視線を固定し、ぐ、と深く刻まれた眉頭の渓谷。その先には、ここへ来るなり言及した花束があった。——また、か。
     目立つように置いてしまったのは、アスランの落ち度だけれど。なるべくなら、触れて欲しくなかった。
    「どんな人にもらったんですか、これ」
     シンは、端末を返しながら重ねる。
     形式的なパーソナル情報、認証用の生体情報。本人の手でしなければならないものだから、数ヶ月ごとにシンはこの家に入るためにこうして申請書を書いて、管理会社に提出している。もう慣れたものだろう。
    「どんな、って……気になるか?」
     シンは、グラスから慎重に一輪掬い上げた。花の束を牽引するように堂々と咲くビビットな花。名前は知らない。
     眼前に掲げ、その赤とアスランと見比べては、眉尻を釣り上げて首を傾げている。だが、その眼差しには応えることができなかった。
    「あなたが気にしてないっていうのが、意味わかんないですよ!それなのに、こんなの書かせるし!」
     威勢よく張り上げた声色とは裏腹に、トントンと端末のディスプレイを小突く。ぞんざいに扱うことはしないだろうが、何かの折に壊されては堪らない。そっとそれを引き戻した。
    「これと、関係ないだろ」
    「そーですね、俺が悪かったです」
     片手に持ったままの花に気遣うような視線を向けながら、唇を尖らせたシンは肩を落として項垂れた。その丸っこい頭の中で、一体どんな罵詈雑言がアスランに浴びせられているのやら。知るすべがあったとしたら、今分が悪いのはアスランの方だろう。
     さらに火種を撒くことになるかもしれないけれど、もう今更だ。すべてシンに委ねよう、と。アスランは、ゆっくりと口を開いた。
    「貰ったんじゃないんだ、それ。嘘ついて悪かった」
    「嘘……?なんで」
     シンがこの家のものに興味を示したり、意見を言うことはほとんど無かった。言い訳でしかないけれど、面食らってしまった。隠し通せるはずもないのに。
    「お前みたいだったんだ。店先で、目立ってて、それで……買った」
    「はあ……?」
     昨日のことだ。
     ショッピングモールで、日用品の買い物を済ませた帰り。普段は花屋なんて見向きもしないのに、導かれたかのように手を伸ばしていた。店の奥で作業をしていた初老の店員と目が合って、あれよあれよという間に花束を手にしていた。ダイニングテーブルの真ん中に置いてみると、部屋の雰囲気が一気に変わった。有機物に根ざす彩りに、しばらく目を奪われてしまったのだ。
     シンは、口をぽかんと開けっぱなしにして固まっている。すぐに激昂するだろうと思っていたのに、肩透かしを食らった気分だ。
    「嫌だろ、こういうの。勝手に俺が……」
    「あんたが、勝手じゃなかったことなんて無いでしょうが」
     そっとシンは立ち上がり、ぶつぶつと何か唱えながらアスランの目の前までやって来た。片手が振り上げられる予備動作に身構えたが、降りてきたのはそっと摘まれたままの一本の赤い花。じっとそのまま動けずにいると、シンはアスランの耳にそれを引っ掛けた。スパイスのような香りが鼻腔をくすぐってゆく。
    「よく、似合ってますよ」
    「それは、……どうなんだ?」
     かろうじて、視界の端に花弁の先がぼんやりと映っているだけで、どうなっているのか見えない。馬鹿にしてるのか、と口をついてしまいそうになったが、やめた。
    「誰かが、アスランに選んでたら、俺……嫌ですから」
     全然俺には似てないし、と続けながら、シンはふわりと口角を緩めている。さっきまで、一挙一動の隙もないほどに張り詰めていた空気は花の香りに絡め取られてしまったのだろうか。
    「それは、確かに大人気ないかもな」
     人のことは、言えないけれど。過ぎるのは、果てなく広がる夜空を見上げる後ろ姿だった。

    「あのさ、シン。この申請書のことで、話がしたい」
    「なんか、間違ってました?」
     アスランの耳に乗っけた花にじろじろと向けられる視線から逃れるように、端末のディスプレイに視線を落とす。落ち着きなく、逸る心臓を留めるように大きく息を吸い込み、花が落ちないようにゆるりとかぶりを振った。
    「この家に……お前の名前を、置く気はないか。そうすれば、これいらないだろ」
     伝えようと、決めていたわけじゃなかった。けれど、自分でも不思議なほどにするりと、紡がれた言葉。心臓から取り出したままの、あまりに飾り気のないものだ。
     だから、少しの沈黙だって落ち着いてはいられなかった。仰ぎ見た彼の表情からは、反応が読み取れない。眉を顰めて、むすりと唇を引き結んでいる。
    「急だし、勝手ですよ。やっぱりあなたは」
    「ん……自覚は、してるけど」
     シンがこの家に、何かにつけ訪れるようになってもう一年ほどは経っただろうか。一ヶ月の間に数回訪ねて来たこともあれば、数ヶ月空いたこともあった。家に帰ったらシンがいた、その高揚とか、安堵をアスランはずっと覚えている。
    「俺、……今のままがいいです」
     あまりに長く感じられた沈黙は、絞り出すようなか細い声で破られた。努めて当たり障りのないように、「そうか」と返す。
     ここはアスランの住処である前に、彼の祖国だった。そう簡単でないと分かっていたし、シンの言う通り、アスランの勝手なのだ。だけど、今日みたいなことは不本意で。一体、どうすればよかったのだろう。
    「あなたは、書類とか……面倒かもしれないけど」
    「別に。シンを待ってるのも、嫌じゃないし」
    「……こんな花、買ってですか?」
     いつの間にか掬い上げていたもう一輪を、シンは同じようにアスランの耳に引っ掛ける。だが均衡が取れなかったのか、すでに乗っていたものと一緒に、ふたつの花はぽとりとカーペットに落ちていった。
     ――この花を、代わりにしてたのか。少しずつ、この家の一部になっていたシンのことを、俺は……。
    「……シン」
     地面を蹴り上げるように立ち上がって、シンの体を抱き締めた。隔てたシャツの上から、すべてを感じられるくらい、きつく。腕を回した刹那、びくりと震えた身体は、恐る恐るアスランの背中を掴んだ。
     ただ、顔を見たいとか、声を聞きたいとか。それだけならよかったのに。アスランの一部に、もうなってしまっていた。傍にいることは出来ないから。焦ったのかもしれない。
    「俺はここに居て良いんだって、思えるから。あれ書くの好きなんです」
     上擦った声色で紡がれた訴えは、シンらしいものだった。だからアスランは、シンを突き放すことができないのに。
    「俺は、お前にそう、伝えられてないか?」
    「いや……でも花束は。びっくりして、もうだめかと思って」
     そっと、シンの身体を離す。ふい、と身軽に翻し、シンは落ちていた花を拾っていた。シンだって、大事にしてるじゃないか。
    「じゃあお前が、花なんて買わなくて済むようにすれば良いだろ」
    「これ買ったの昨日とかでしょう。俺にはどうしようもないじゃないですか」
     ——昨日。もうすぐ会えるのだと、シンのことを考えていたから……目についたのかもしれない。
     なんだか今日は調子が悪い、シンに言い負けてばかりで。だけど、シンを受け止めていられるなら、たまには良いか。
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