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    ktou_sa

    @ktou_sa

    シンアスonly
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    ktou_sa

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    シンアス。付き合っている。世界観はふわっとしています。

    暑いのに、熱い「嘘だろ……」
     その日、オーブ本島は異例の猛暑だったらしい。
     潜入調査やら、要人の護衛やらで各国へ赴いていたアスランは、実に数ヶ月ぶりに本島にある自宅へ戻っていた。
     向かう途中、端末から遠隔で空調の操作を行った時、応答の画面がいつもと違っていた。疲弊していたし、久しぶりのことだった。気のせいだろうと、特段気に留めずにいたのだった。
     陽は落ちていたが、兎角、立っているだけで汗が吹き出しそうな暑気は残っている。逃げ込むように、足早に家の中に入り、心地よい空気に出迎えられるのを期待した——のだが。身体中に纏わり付いた暑気よりも、建物の中の方がむしろ、熱に満ちている。ずっと室内にあった空気は、蒸されてしまったのかもしれない。
    「暑い……暑すぎる……」
     ネットワークの不調か何かで空調が反応しなかったのかと思い、直接電源を入れてみたものの、うんともすんとも言わない。明らかに、故障だった。家中の窓や、バルコニーへの扉を開け放ち、なんとかならないかと試みてはみたものの、流れ込んでくる風も生暖かく、さして解決にはならなかった。
     ホテルを取るか、とも考えたが、これから向かうのは面倒だ。もう、あとは寝るだけで。一晩を凌いで、明日修理を依頼しよう。なんとかなる。野戦の経験だってあったし、環境に適応するのは慣れている。一先ず、ここまで持ち歩いていた水を流し込んだ。買った時は冷えていたはずだが、とっくに人肌くらいの温さになっている。暑さのせいか、これ以上何の意欲も湧かない。
     ——ああ、そういえば。シンが、来てしまうかもしれない。アスランがオーブへ帰ることは伝えていて、合わせて休みを取るとか言っていたから。
    『今日、来ない方がいい。冷房が壊れてる』
     廊下に放ったままだったカバンから端末を取り出し、その一文だけを送った。それから、無意識のうちにだらだらとソファに仰向けになって、そのまま沈んでしまった。

    「げえっ……あっつ! いつも涼しいのに、この家……!」
     遠のきかけていた意識は、第三者の来訪に捉えられた。人の家だと言うのに、勝手知ったる様子で入り込んでくるのは、一人しか居ない。だからその一人——シンだけに、来るなと送ったのに。
    「アスラン? 居るんですか……? ——ぅわあ!」
     そろそろと近付いてくる気配を感じてはいたが、まるで力が入らない。そのうち気が付くだろう、とまた、緩やかに思考が攫われそうになった時、飛び上がるような物音がして、再び引き戻された。いつまでも、落ち着きのないやつだと思う。
    「居るなら、言ってくださいよ……」
     意表をつけたことに、普段だったら舞い上がりそうなところではあったのだけれど。今日に限っては「うん……」と力無く返すことしかできない。無機質な天井に、ひょこりと心配そうに覗き込む姿が重なる。細長い視界を、ゆっくりと開くと、紅い双眸がはっきりとしてくる。澄み切った瞳を眺めていると、その色にそぐわず不思議と涼やかさが通り過ぎてゆくような気がした。
     ぽたぽたと滴り落ちてくる汗が、冷たかったら良かったのに。そう都合のいいこともなかった。シンだってアスランと同じ、纏わりつくこの暑さを感じているのだから。
    「なんとか、できなかったんですか。あんた、機械とか……得意じゃないですか」
    「できない……暑すぎて、無理。だから、来るなって、言った」
     思考回路は、この気温で溶けて使い物にならなかった。何も考えられない。額にぴと、と手のひらを当てられて、その表面も熱くて。ただ、逃げるように首を逸らした。
    「水は? 飲みました? 塩とか、酸っぱいのとか……」
    「あんまり、くっつくな……暑い……」
    「え、はぁーー!? 俺だって、暑いんですけど!」
     じゃあ、来なければ良かったのに。と、口に出す気力は既になく、そっと噤んだ。シンは、そのままソファの近くにしゃがみ込んで様子を伺っていたけれど。しばらくして、わざとらしくため息を吐くと、その気配は遠のいて行った。
     一人になれば暑さが和らぐ、ということでもない。そんなことは、分かっていた。
     ——あれ。俺、今なんて言ったっけ。数刻前のことなのに、思い出せない。だって、本意じゃない。力無く呼んだ彼の名は、もう届かなかった。

     どたどたと足音を立て、何かを漁るような物音と、相変わらず騒がしく一人でぶつぶつと呟いていたシンは、慌ただしくアスランの元へ戻ってきた。性懲りも無く、けれど……そうでなければ、わざわざここへ来ていないだろう。
    「こんなことになってるなら、氷とかたくさん買ってくれば良かった。来るなって言ったって、もうすぐそこだったし。何が欲しいかって聞いても、返事くれないし」
     きっと唇を尖らせて、不機嫌そうに語っているのだろう。胸の内で、ごめんと謝る。そして不意に頬に触れたのは、アスランが最も求めていた——ひんやりとした感触だった。はた、と瞼をこじ開けると、グラスに入った水が、まるで宝石のごとくダウンライトに反射して煌めいていた。
    「飲んだ方がいいっすよ、水」
    「ん……ありがとう」
     ゆっくりとソファから起き上がると、ぐらりと頭が揺れた。視界がパチパチと弾けて、ふらりと重心が前へ倒れ込んでしまいそうになった……その刹那。
     身を包んだ温かさと裏腹に、頭上からぱしゃりと液体が降ってきた。頭皮や、シャツの肩口を濡らしたそれは冷たくて、心地よかった。
    「やべ! アスラン、水……」
     前髪をしとしとと垂れる雫が、シンの服を濡らしてしまっていると、分かっていたけれど。動くことができなかった。初めこそ、ひんやりとしていた水はすでにその冷気を体温に奪われてしまっている。
     シンと触れ合っているところから、じわりと汗が滲んだ。とくとくと、血を巡らす音がすぐ近くで鳴っている。背中を、するりと汗が滑り落ちていく。全身が熱い。だけど……それだけじゃなかった。
    「くっついてると、暑いんじゃないんですか」
    「いや……。うん、ごめん」
     そうか、そんなことを言ったっけ。咎めるような口調だった。きっと、シンだって暑いだろう。
     ぐるぐると回っていた視界は、ほとんど元に戻っていて、そっとシンから離れ、身を起こす。解放されたシンはグラスを渡そうとしたけれど、その中身がほとんど空になっていることに気付き、再びアスランの前から姿を消した。
     すぐに戻ってきたシンは、満杯になった水をアスランに手渡す。それに口を付けた途端、止め時が分からなくなって、結局全部を飲み干してしまった。ひとりで居た時だって生温い水を摂取してはいたけれど。シンに手渡されたそれは、なんだか特別なもののような気がした。
    「空調壊れたくらいで、ぶっ倒れるなんて。あなたらしくない」
    「お前は、元気そうだな……」
    「慣れてますから、俺は」
     この国で暮らした年数で言えば、まだ自分の方が多いのだと。シンは誇らしげに笑っていた。さすがに、空調が壊れた経験は無いだろうけれど。普段、体温はシンの方が高かったし……暑さに強いようには思えなかった。この場には、二人しかいないから分からない。けれど、少なくともアスランよりは、そうなのだろう。認めたくはなかったけれど。
    「シン……?」
    「なんですか。何か、買ってきましょうか」
     さっき感じた熱は、何だったのだろう。何もかも包まれるような。すべてが満ち足りるような。だけど紛れもなくそれは、ただシンの体温で。だから、きっと——。
    「お前がいて、よかった」
    「え、は? 熱でも、出ましたか……? 大袈裟ですよ」
     額に手のひらが当てられた。身に覚えはなかったし、熱に浮かされていたとはいえ、酷いことを言った。シンは、わざとしているのかもしれない。けれど、今度はそれを、受け止めた。
     きっと全身に絡みつく熱気のせいじゃなく……彼の白い肌が、頬が、鮮やかさで色付いていたから。触れていないのに、伝播してくるその熱さに、身体の芯からすべてを持って行かれてしまいそうだ。
     どうせ、何をしたって暑いのは変わらない。だったら、沸き立つ衝動に身を任せたって良いだろう。熱を知らしめ合うように、アスランは再びシンに身を寄せた。

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