イサ兄ショタイサ「イサミ、お兄ちゃんから電話よ」
おやつの青いゼリーを食べていたら、お母さんが電話のところでおいでと僕を呼んだ。お母さんから貰った電話を両手で持って耳を当てる。
「もしもし、にいちゃん?」
『兄ちゃんだぞ!イサミィ!』
耳のところから大好きな兄ちゃんの声がする。声が大きくて、ちょっとだけ耳を離しちゃった。隣にいるお母さんも聞こえたみたいで笑っている。もう一回耳をくっつけたら、「うるさいぞ、あお」って誰かが言っているのが聞こえた。
「にいちゃん、あした帰ってくるんだよね。あのね、今日ね、幼稚園でたなばたのたんざく書いたんだよ。たんざくと、ちっちゃいささも貰ったから、にいちゃんも一緒に書こうよ」
『あー……それなんだがな、イサミ』
にいちゃんの声がしょんぼりしている。もしかして、
『にいちゃん、明日は帰れなくなったんだ……』
「……じえいたいのおしごと?」
『ああ、そうなんだ。ごめんな、イサミ』
兄ちゃんはお家に帰ってこれないときがある。じえいたいのおしごとは、とってもとっても大事なんだって兄ちゃんに教えてもらった。だから、僕はわがままを言っちゃいけないって思ってる。
前に兄ちゃんが帰ってきたのは5月だったから、やっと兄ちゃんに会えるって楽しみにしてたのに。兄ちゃんと一緒に遊んで、一緒にお風呂に入って、兄ちゃんの部屋の布団で一緒に寝たかったのに。鼻がツンとして、涙が勝手に出てくる。
「だぃ……、じょぶだから、おしごとがんばってね」
『イサ……』
泣いてるのがバレたら、兄ちゃんを困らせちゃう。兄ちゃんが僕を呼んだけど、電話をお母さんに渡して僕は兄ちゃんの部屋に引っ込んだ。お母さんが干していた兄ちゃんの布団にもぐる。お日様の匂いがするけど、兄ちゃんの匂いはしなかった。胸がずきずき痛くなって涙が止まらない。
「兄ちゃんに会いたいよぉ……」