唇よく喋る口だとは常々思っていた。
表情と共にくるくるハキハキよく動く。リアクションも大事な文化圏だからだろうか。欧米人と長く関わる事もそうなかったため、その変化を密かに楽しんでいた。
だからか、ふいに気になったのだ。
それだけ動くのなら柔らかいのだろうか、と。
日本上陸を果たし一息ついたタイミングでの酒の席。気も緩んでいたのかもしれない。
だから特段理由もなく、話の流れにも関係なく。思いついたままに隣でニコニコ喋っているスミスの唇に手を伸ばし、つまんでみた。
おぉ、やっぱり柔らかい。
2、3度ふにふにとつまみ、感触を確かめる。表面は滑らかとはいえないが、厚みがしっかりとある。
縁をなぞりながら、やはり俺より幅が広いことも確認する。てか唇ってこんなんなんだな。自分のでも意識して触ったことなかったな。
気の向くまま触り脳内で感想をこぼしていたが、そういえばなんの動きも反応もない事にようやく気付く。
唇しか見ていなかった視線を上にあげると、見開かれた青い瞳と目が合う。しばし時間が流れるが、向こうは瞬きもしない。なんだか一時停止を押したテレビみたいだ。
だが映像ではない事は、自分の指先に伝わる感触とぬくもりが証明している。あまりに動かないので、そのまま引っ張ってみた。どこまで伸びるだろうか。
「おい、スミス。目ぇ乾くぞ」
伸ばしながら声をかけたらようやく再生ボタンが押されたようで、止まっていた分の瞬きと合わせて唇もふにゃふにゃと動き出す。
「い、いひゃみ?なにをひてるんひゃ?」
聞いたことのないふぬけた言葉に思わず笑いがこぼれる。
「ふはっ、こどもみたいな喋り方だな」
「ひょ、ひょれはいひゃみがつかんでるかりや」
「あーそういえばそうだったな」
と答えながら、柔らかいぬくもりから指を離した。
「……いったい急に、なんなんだ!!いきなり、こんな…!!」
顔を真っ赤にしたスミスが声を上げる。思いの外怒らせてしまったらしい。
「いや、よく動くから柔らかいのかなって気になっただけだ。悪かったよ、一杯奢るから」
素直に動機を伝え、詫びがわりに酒を注文するためマスターに声をかけようとしたら、思わぬ返答が返ってきた。
「…いや、奢りはいらない。かわりに、俺も、触らせて、くれ」
え、と再び目を向けると、先ほどとは打って変わって鋭い視線とぶつかる。そこまで怒らせたか…?
「ダメか?」
心なしか低い口調で再度問われる。
「いや、別にいいけど…」
これは思いっきり引っ張られるか?はたまたつねられるか…多少の痛みは覚悟したほうがよさそうだ。
姿勢を正し、改めてスミスに向き直る。触りやすいように少し顔を突き出したらまた目を見開いたが、今度はすぐに戻った。そして手がゆっくりと伸ばされる。
さぁどんな目に合うか…と身構えたが、それは真逆の感触だった。
とてもゆっくりと、少しずつ、親指でなぞるように。
まるで羽が触れているような距離感だったが、高い体温は伝わってきて、なんだこれ、ぞわぞわ、する。
今度はこっちが戸惑っている最中、不意に指がグッと押される。2度、3度。鮮明になった熱と感触に思わず肩が揺れる。
「イサミも、柔らかいな…」
伝わる体温と同じぐらい熱さをはらんだ声。
思わず泳いでいた目をまた合わせると、視線までも熱を感じる。なんだこれ。まるで熱が伝染したように自分も熱くなってくる。
ゆっくりとスミスの指が動き、歯に触れる。
そのままわずかに開いていた隙間にーーー
「あんたたちなーにイチャついてんの!!部屋でやんなさいよ!」
突然響いた声に、ハッと現実に戻る。途端に耳に入る喧騒。いつの間にか後ろにいたヒビキとミユ。
あれ、俺、いまどうなってた?
「…いやなんだ!?いちゃついてたって!」
数拍置いて理解した言葉に思わず反論するが、間髪入れず返される。
「どう見てもイチャつきでしょ!これからキスシーンでも始まるのかって空気だったよ恥ずかしい…!」
「いやこれはただ仕返しで…!」
「なんで止めちゃうんですかー!いいところだったのにー!!」
「ほらこんな野次馬も覗いてるんだから、続きは帰ってからやんな!シッシッ!」
「続きもなにもねぇ!もう終わりだ!!」
あっという間にいつもの空気になり、さっきの熱は霧散する。スミスも気付けばいつもの調子だ。
そのまま4人でしばらく飲んで、当たり前に解散する。当然続きなんてない。
でも、
「また触りてえな…」
部屋で指先の感触を思い出しながら口から溢れる。
そう、なかなかに良い感触だったのだ。
離すのが少し惜しいぐらいには。
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このあとR18にいくなら自慰の時ふと思い出してしまって云々ですかね!
スミスは当日さっそくやってるよ!