Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    無味無臭

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 8

    無味無臭

    ☆quiet follow

    【創作ss】ネコかが、街から消えた

    ネコかが、街から消えた 久々に早起きをする。
     時計を見るとまだ8時。普段こんな時間に起きるのはネコかが遊びに来る時くらいだ。
     今日は珍しく来てないけど。物頼んでたこと忘れてるのか?
     さっさと着替えて1階に降りる。
    「あ、姉さん」
    「あら空。珍しく早起きじゃない」
     ゆったりと刺繍をしている姉さん。
    「あ〜、うん。ネコかに頼まれてるものがあって。今日はまだ来てないんすか?」
     不思議そうな顔をする姉さん。
    「……ネコか……?誰、その子」
    「ハァ……?」
     何言ってんだ。コイツついにボケたか。
    「ここ最近よく来てるアイドルのやつですよ。一昨日も来てたじゃないすか」
    「一昨日?一昨日は新規のお客様しか来てないけど」
    「ハァ…………?」
     ふと卓上カレンダーを見て、思いつく。
    「あ!なんだ、今日はエイプリルフールか!やめてくださいよ、そんなタチ悪る嘘」
    「はぁ……?んなわけないでしょ。もうボケた?」
     いやこっちの台詞だが。
    「ちょっと顧客リスト見ますよ」
     何度か服仕立ててるし、記録に残っているはずだ。
    「はいはい、見終わったら商品並べてね」
     顧客リストを手に取り、パラパラとページをめくる。

     が、どこにも載っていない。
     依頼用の帳簿を掴んで勢いよくめくる。
     先月も、先々月も確かに仕立てたはずなのに。
     一つも、載っていない。
    「…………姉さん、最近顧客リスト弄りました?」
    「最近は特にトラブルもないし弄ってないけど。どうしたの、空?今日本当におかしいけど」
     いやおかしいのはアンタだ……。
    「何か狐に化かされたみたいな顔してるね。まぁ空が狐に化かされるとは思えないからせいぜい悪魔かな?」
    「……悪魔」
     そういえば。
    「すんません姉さん!今日ちょっと用事できたんで休んでいいです」
    「ええ〜……まぁいいけど」
     怪訝そうな顔をするがポケットを漁って財布を取り出す。
    「何か急用っぽいし、はいコレ」
     …………ブラックカード。
    「お金必要になることもあるでしょ?好きに使っていいよ」
    「いやさらっとこんなモン手渡すなよ……」

    「変な予感するしね。ま、頑張って」
    「…………うす。行ってきます」
    「無事に終わったら今晩焼肉ね〜」
     ぱたぱたと呑気に手を振る姉さん。
     ……アンタ昨日、牛鬼の解体してたのによく牛肉食おうと思えるな。
     軽く手を振りかえして、とある人物の元に向かう。

              ***

     店の扉を開ける。からん、と鈴の音がする
     右手には本棚が、左手のカウンター奥には酒。
     カウンターの中に女が1人、朝っぱらからシャンパンを開けている。
    「久しぶり」
    「おやおや、君1人で来るのは珍しいねぇ〜?」
     リトル・ウェイステッドがこちらを振り向く。
    「実は面倒なことになってるみたいでな。なんの情報もないから文献が欲しい」
    「ふ〜ん、巻き込まれたのかぁ君。最近は猫又さんとしか来たがらないのに」
     嬉しそうにニヤニヤ笑う。情報通だが性根は相変わらずだ。
    「そうだよ」
    「とはいえ、昔からの顔馴染みとはいえルールは守ってもらわないとなぁ。」
     ウェイステッドは酒カスで、情報提供の報酬に酒代を要求してくる。金額によって出てくる情報量が変わってくるから面倒くさい。
    「いくらまでなら出せる?値段によるなぁ。実は今狙っているシャンパンが2つあるんだよ。一つは100万。もう一つは少〜し高いんだが……」
    「じゃあもう一本の方だ」
     ポケットからさっき渡されたカードを出す。
    「…………おい?これはなんだ?君無職でしょ」
    「姉さんから借りたんだよ。あと無職ではない」
    「……いいの?怒られないの?コレだぞ?」
     指を4本立てて突き立ててくる。
     7桁だか8桁だか知らんがそれくらいなら許されるだろ。
    「大丈夫大丈夫。あとで事情話せば納得する」
    「あら、そう……何の文献が欲しいの〜?」
    「『エイプリルフールの悪魔』についての文献だ」

              ***

    「『エイプリルフールの悪魔』って、都市伝説みたいなモンだと思ってたよ〜」
    「オレもだよ。いきなりネコかについての情報の一切が消える、姉さんが忘れるほどの強い力、しかもちょうどエイプリルフールだ。こんな奇跡がなきゃただの噂話だと思ってたよ」
     それらしき文献を片っ端から読み漁る。
    「ず〜っと前から同じ噂はあったんだな……」
    「エイプリルフールがない時から存在してたみたいだねぇ。大昔は『4月1日の怪異』って呼ばれてたらしいね」
     巻物に書いてある文を読みあげる。
    「……4月1日、泉下街にいる妖怪から1人選ばれ、その者の周りの物か人が1つ消える。その代わりに何かが1つ増える。
    4月1日のうちに増えたものを見つけて壊さないとペナルティを受け、消えたものは消えたままに、増えたものは増えたままになる……か」
    「その巻物はかなり古いが、もう少し最近の書籍にも似たような記載があるからねぇ〜。多分正しいよ〜」
     ガシガシ、と頭を掻きむしる。
    「最ッ悪だ……。オレが選ばれてネコかが消えたってのでほぼほぼ合ってるだろうが、何が増えたんだ……?街中走り回って探せってのか?」
     ウェイステッドがぱらぱらと紙をめくる。
    「う〜ん、ついでに色々見てるけどネコかって子の戸籍はないねぇ。ホントに存在してるのかってくらい何の情報もないよ」
    「お前も会ったことあるんだけどなぁ」
    「ウッソだぁ〜……って、まぁ『エイプリルフールの悪魔』の仕業なら知らないのも当然かぁ」
     時計を見るともう9時を過ぎている。
     日付が変わるまであと15時間。
     泉下街だけで済むならギリギリ何とかなりそうだが、彼岸全部だったら?此岸もだったら?
    「……とりあえずオレは泉下街で変なものが増えてないか探してくるから、お前は何か怪しい情報がないか…………」
     プルルルル、と固定電話が鳴る。
     ガチャリ、と受話器を取るウェイステッド。
    「……もしもし?…………ああ、うん……うん、そうか。へぇ、君、よく私に連絡くれたねぇ。多分今欲しい情報だよ〜。うん、今度依頼してきたときは安くしておく。ありがとう〜」
     ガチャリ、と受話器を置く。
    「……誰からだ?」
    「警察からだよ〜。人間の少女が、迷子になってるんだって。高校生くらいって話だけど、当たり?」
    「……大当たりだ、最高だよお前」
    「感謝なら今晩御馳走奢って示してね」

              ***

    「お〜い、例の子引き取りに来たよ〜ん」
    「あ、ウェイステッドさん。貴女が外に出たの久々に見ましたよ」
     交番に着くと、警官が苦笑いして待っていた。
    「ほら、この子です。どうやって彼岸にやってきたのか……」
     高校生くらいの人間の少女。
     ネコかと全く同じ顔で、不安げな表情を浮かべている。
    「なんか面倒なことになってるみたいでねぇ〜。借りてっていい〜?」
    「まぁ、ウェイステッドさんが言うならいいですけど……って、空くんじゃないですか」
    「おいアンタ、年上に向かってくん付けとかいい度胸だな……」
    「ははは、前はすぐブチ切れたのに今は怒らないんですね。恋でもしたんですか?」
    「……んまぁ、そんなとこかな」
     目をまんまるにして驚く警官。
    「貴方が恋ですか……泉下街で1番恋とか愛とかから縁遠い方だったのに」
    「あ〜あ〜、うるさいうるさい」
    「あっ!まさか恋人とこの子が何か関係があるんですか?恋のために頑張ってるとか?」
    「……そうだが」
     ぷくくく、と笑いながら警官とウェイステッドが迫ってくる。
    「うわ〜、いいですね〜。丸くなりましたね〜^ ^」
    「空、君顔真っ赤だよ〜^ ^」
    「うるさい!!!」
     ばしんと(加減して)警官を叩く。
    「……あ〜、名前は?」
     話しかけると、少し身構えながらも答える少女。
    「……アイリ、ですけど」
     アイリ。確かネコかの生前の名前だったはず。
    「やっぱり当たりだ。借りてくぞ」
    「どうぞどうぞ〜。迷い込んだ人間の保護は僕の業務にはないので、帰してあげれるならお願いします」
     ぺこりと頭を下げてくる警官。
     頷いてアイリに向き直る。
    「アイリ……ちゃん。オレなら家に帰してあげれるけど、それには準備が必要なんだ。ちょっと、このお姉さんの店までついてきてくれないか?」
    「……分かりました。よろしくお願いします」
     アイリ『ちゃん』だってぷくく、『お姉さん』だってくすくす、と笑う警官とウェイステッドに蹴りを入れ、ウェイステッドの店に向かう。

              ***

    「……あの、私、なんでこんな変なところにいるんですか……?」
     警戒しながら聞いてくるアイリ。
     初めてウェイステッドと会ったときもこんな感じに警戒してたなぁ……と思いながら答える。
    「なんで、っていうのには答えられない。こっちもまだよく理解できてないんだ。オレも君も、変な事件に巻き込まれたってことしか分かってない」
    「お家に帰れないんですか⁈」
    「いや、家に帰すことはできる。時間はかかるが『切符』を用意すれば問題なく帰れるから安心してくれ……ところで」
    「…………?」
    「オレたちのこと、どう思う?」
     ウェイステッドと自分を指しながら尋ねると、怪訝そうな顔をしながら、
    「……マセガキと痴女?」
     と答える。
     ブハ、と吹き出すオレ。
    「ち…………⁈⁈⁈」
     と悲鳴のような叫び声を上げるウェイステッド。
    「この子失礼すぎない⁈その、ネコか?って子もこんな子なの⁈⁈⁈」
    「お前と初対面の時も同じこと言ってたぞ。オレの時もな」
     ホントに丸くなったんだねぇ……とぼやくウェイステッドを放っておいて、続けて尋ねる。
    「君の事、色々教えてくれないか?あまりにも分からないことが多いんだ。少しでも情報が欲しい」
    「……分かりました」
     ポツポツと話し出すアイリ。
     高校に通っていること、アイドルグループに所属していること、実はいじめを受けていてそれから逃げたくて今日の練習をサボってしまったこと、気付いたら変なところにいたこと、警官に保護されたこと。
    「……本当に、見たことない場所で、変な人ばかりで、不安で…………」
     泣くまいと眉に力を入れるが、ぽろぽろと涙が溢れてしまうアイリ。
     ネコかにとても似ている。いや『同じ』だ。
    「空。此岸の方の戸籍に、彼女のものがあったよ〜」
     と紙の束をバサバサと振るウェイステッド。
     やっぱりか、と呟く。
     ネコかが死んだことがなかったことになっているんだろう。
     ネコかが、苦しんで死んだことが。
    「どう?確定〜?」
    「確定だな。多分事故がなかったif世界みたいになってるんだろ」
     ふ〜ん、とグラスを傾けるウェイステッド。
    「どっからどう見ても『人間』だしね〜」
    「けど、確かな違和感がある。姉さんに幻覚かけられたときみたいな、違和感が」
    「……そうだね」
    「『エイプリルフールの悪魔』とは会ったことがないから断言できないが、魂をうっすらと引き延ばして巻き付けたような、煙に巻くような、あの感覚」
     アイリにふんわりと人間にはあるはずのない気配が漂っている。
    「でも、どうするの〜?今日中に『壊さないと』いけないんでしょ?」
     カラン、とグラスに氷を追加してシャンパンを注ぐウェイステッド。
    「このまま帰すの?それとも、『壊す』の?」
    「……そうだな」
     氷に手を伸ばし、

     アイスピックを掴んで振り上げる。

              ***

    「あらぁ、あら、あら、あら。まさかそんな決断をするなんて、思っていなかったわ」
     ふわり、と顔の横でフリルが舞う。
     目の前には驚いた顔で全く動かないアイリがいる。
     まるで、時が止まったように。
     フリルの方を振り向くと、白いドレスを着た女が漂っている。
     ……ウェイステッドも動けないのか。
    「アンタが『エイプリルフールの悪魔』か」
    「正解。でもそんなことはどうでもいいの。ねぇ、なんで『壊す』ことにしたの?可哀想じゃないの?せっかく、生きていられるかもしれないのに。大好きな、彼女が」
     ちらりとアイリを見る。アイリは生きている。
     まるで幻覚のような違和感はあれど、確かに生きている。
    「……そうだな」
     生きているのだ。

    「そうだが、コイツは偽物だろ」

     じろりと『エイプリルフールの悪魔』を睨みつける。
    「確かにこいつはネコかの生前だ。生きている『アイリ』だ。全く同じで、変わらなくって、それでも偽物なんだ。もし、コイツの記憶がネコかに引き継がれて苦しもうが、オレが恨まれようが関係ない。オレにとっちゃ本物がいなきゃ意味がない。」
     すぅ、と息を整えてから、宣言する。
    「本物が戻ってくるなら、惚れた奴に嫌われたって構わない」
     もう一度アイスピックを振り上げ、勢いよく振り下ろす。

              ***

    「……あれ?」
     はっ、と目を開くと、目の前にはアイリ……ではなく、ネコかが座っている。
     『違和感』はもうない。
    「……ネコか…………?」
    「空どうしたの⁈めちゃくちゃ顔色悪いよ⁉︎」
    「あ、いや……何でもない。変なところはないか?頭が痛いとか体調が悪いとか」
    「いや、ないけど……ここってウェイステッドさんのお店、だよね?」
     キョロキョロと辺りを見渡すネコか。
    「………ッハ!あれ?何かあった?」
     マヌケ面を晒しながら驚くウェイステッドを見て、戻ったのだと安心できた。コイツを見て安心するとか不本意すぎるが。
    「全部終わったよ。何とかなったみたいだ」
     へなへなと椅子に座り込む。アイスピックを握る手が少し震える。
     アイスピックに血はついていない。
     どうなったのかは分からないが、記憶は引き継がれず、ネコかが消えたことがなかったことになっているのだろう。
    「あ、もうこんな時間!」
     時計を見るともう17時。一気に時間が過ぎたな。
    「ネコか、約束覚えてるか?」
    「あ、覚えてるよ」
     にこ、と微笑むネコか。
    「今日一緒に編み物しようって約束でしょ?でもこんな時間だよね……」
    「仕方ないだろ、変な事件に巻き込まれてたんだから」
     ネコかは眉をひそめ、尋ねてくる。
    「変な事件?何それ。何隠してるの?」
    「お前は知らなくていい。……あ、そういえば、姉さんが夕飯に焼肉奢ってくれるってよ。早く帰ろうぜ」
    「え!ホント?」
    「ホントホント」
     ふとウェイステッドの方を見るとニタニタと笑っている。
     その笑顔を振り切るために話を振る。
    「世話になったな。支払いは……」
    「いやいいよ、いいもの見れたしねぇ〜」
     さらにニタニタと笑いだし、軽く眩暈を覚える。
    「その代わり、今晩はラフルちゃんに奢ってもらお〜っと。お酒あるとこでお願いね〜?」
     一応言っておく、と答えてネコかの方を見る。
     無邪気にこてん、と頭を傾げるネコかを見て、本当に戻ってこれたのだと確信できた。オレがやったことは間違いではなかったんだ。
     間違いではなかったんだ。
     たとえ嫌われたとしても、正しかったんだ。

     それでもやっぱり、
     嫌われずにすんで良かったと、思ってしまった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works