嫌いな話夜が更ける。
僕の意識が覚醒する。
どこかで、誰かの隣に、僕はいる。
どうやら、愛し合っている男女が、心中しようとしているらしい。
美しい愛。
僕には手の届かぬ、神秘。
彼らは熱く抱擁し、そっと、海の中に入る。
なんとなく手を伸ばして、彼らを止めようと試みるも、触れることすら叶わない。
彼らは、ゆっくりと沈んでいった。
こぽこぽ、とこれから死ぬとは到底思えぬような音を静かな海に漂わせながら。
本当に静かに、しかし、とても熱く、2つの命がこの世から消えた。
どこかで、誰かの隣に、僕はいる。
どうやら、先日未亡人となった女性が、後を追おうとしているらしい。
一途な想い。
想うことだけならば出来るが、それ以上はできないには、あまりにも羨ましい。
睡眠薬を口に含み、ごくり、ごくり、と飲み込んでいく。
写真にそっと口付けをし、優しく胸に抱える。
ゆっくりとベッドに寝そべり、女性は目を閉じる。
すぅ、すぅ、と穏やかな吐息が聞こえる部屋で、時計だけが変わらず時を刻む。
すぅ、と彼女の時は、止まる。
だから僕は、嫌いなんだ。
美しい愛の話は。
だって、もう救われたとこれから救われるんだと思ってしまうから。
僕に、救わせてくれないんだ。