ファフトナ「行けッ!」
その声と同時に、影達が一斉にファフトナに飛びかかる。奇声を上げて、周りの影達を一気に尾で薙ぎ払う。
地上で出現するゲートはほとんど処理出来ず、ダンジョンブレイクを起こしてしまう。その中で最近魔力数値が高かったゲートがダンジョンブレイクし、このファフトナが現れた。
<ガァアアアアアア!>
鼓膜が潰れそうなほどの吠えと同時に、分散して待機していた最上の所へと走っていく。
「煩い犬ですね」
膨大なマナを使用して二の腕まで炎に包まれる。その炎は槍のような形に変わり、最上が手を振りおろすと同時に放たれる。ファフトナの目に一本が突き刺さり、紫色の血を流した。
「さっさと次の攻撃を仕掛けてくださいよ、ノロマ」
「アンタに言われたくないね」
最上の後ろからファフトナに向かって短剣を更に負傷した目に突き刺した後、周りの皮膚にも素早く攻撃をするが、途中でファフトナの腕が道門に当たり、吹き飛ばされる。
少し離れた所で見守っていた美濃部の方まで吹き飛び、避けるのには間に合わず目を瞑る美濃部だが、ファフトナの戦闘に一時離脱してきたイグリットが道門を片手で止め、そのまま美濃部の膝に落ちる。
「………大丈夫、ですか?」
「………これが大丈夫に見える?」
ははは…と美濃部は苦笑いしながら本を手に持ち、治癒を掛ければ道門は起き上がり、目の間で消える。イグリットも同じくそのままファフトナの方へと戻った。
旬の短剣もあって、ファフトナの頑丈な鱗は剥がれ落ち、そこに白川が拳で攻撃を与える。
「ッラァ!!」
何度が殴れば皮膚がへこみ、次第にそこから穴が空いて大量の血を吐き出していく。
ファフトナは更に暴れ出し、遠くに見つけた美濃部を睨んだ。
周りのハンター達を無視し、美濃部の方へと一直線に向かう。なんとか旬は影で止めようとするが、暴走したファフトナの力は通常の影達には及ばなかった。
「穴を開けるからですよ、このクズがッ」
「あぁ!?うるせぇ!」
美濃部の方へと走りながらも口論し、いつの間にか白川と最上が殴り合いを始めていた。旬はそれに振り返ることなく走り、美濃部に付けている影を呼び出す。
「―――!!!」
ファフトナは美濃部に口を大きく開けて飛び掛かる。その瞬間上からの衝撃に、ファフトナの口は地面にめり込んだ。
「ひッ………」
美濃部は青ざめ、その影を見上げる。それは美濃部にとって忘れる事は出来ない存在のモンスターだった。
物凄いオーラを放ったベルに美濃部はびくびくと震え車椅子を後ろへと下げる。それに気づいた白川は最上を振り払い、真っ先に旬の方へと向かい胸倉を掴む。
「剛に何しやがる」
「助けただけですけど」
「アイツを出すなと、俺は言ったはずだ!」
白川は声を張り上げる。旬は表情一つ変えずにじっと白川の目を見た。
「俺には助けないという選択肢があるという事を、忘れないでください。白川さん」
「………っ」
旬は白川に対して首に短剣を向ける。あと少しで皮膚に貫通するぐらいまで近づけた後、すぐにその短剣は目の前から消えた。
白川はそのまま言葉に詰まり、目を逸らしながら美濃部の方を見る。
過呼吸で上手く息が出来ないのか、変な音を出していた。白川は美濃部の側に寄り背中を摩る。
まだ生きていたファフトナが起き上がると、隠密で消えていた道門が丸見えになっている皮膚に短剣を刺す。弱っていたのか、そのまま力尽きて倒れた。
「……戻れ」
その声と同時に影は地面へと溶け、旬の影に集まる。ファフトナを地下へと持って行かなければならないので、ある程度影を残して運び出す。
途中白川と喧嘩して意識が朦朧としている最上を、道門が見つけ首根っこを引っ張り運び出した。
end