初めまして!先輩!!「あれって……」
昼休み、食堂へ行こうとした時に見掛けた浮遊物。
一見タブレットに見えるソレはまるで人の様に道なりにそって移動している。
「ん?監督生じゃないか」
「っ!?と……トレイ先輩!!びっくりしたぁ……」
集中し過ぎたあまり、肩を叩かれ少し飛んだ。
「早くしないと欲しい無くなるだろうと思ってな。……で、何、見てたんだ?」
その言葉に不貞腐れる親分を思い浮かんで笑ってしまう。確かにここいにいる場合じゃない。
「えっとですね?あのタブレットってなんだろうと……っていない!?」
少しトレイ先輩と話しただけで忽然と消えるタブレット。やっぱり魔法で作られた幻想だったのだろうか……昔家族とみた魔法学校の映画を思い出す。
「タブレット?」
「あ、あったんです!!そこに!!」
信じてもらえるか一気に不安となり言葉を強くさっきまであった浮遊物を伝える。
「分かった分かった。大丈夫だ、監督生。別に疑っている訳じゃない、そのタブレットは俺も知ってる」
そして教えられたのは3年イデア寮長でした。
「初めまして……おーい?タブレットさーん!……あっ、初めまして!イデア?先輩ですか?」
自動で動かしていると掛けられた声。最初、自分とは思わず……だって声を掛けてくるとかありませんし。仕方なく無い?
タブレット。の言葉で止まると目の前にドアップの1年生が。喉から変な音が出たけど相手には聞こえなかったのか画面へ態々頭を下げている。
「そうだけど……」
一体何のようなのか、それを聞いたら待ってましたとばかりに厄介事が投げられる。だから無難に流しつつ腹の探り合い……あーだから人との会話って糞なんですわ。こんなんボドゲ位でしかしたないわ。
「良かった!もしかすると知ってるかもしれませんが、1年A組のユウって言います」
まぁ、知ってますねぇ3回もオーバーブロットを経験してる運に見放された問題児の一角。
他ハーツラビュル1年生も巻き込まれているが、こいつが怪しすぎる。此処に居る以前の情報を僕が知れない訳が無いのに。生まれも、育ちも、分からない男。
「あーはいはい。ユウ氏ね。ワカッタ。じゃ、拙者はこれで」
「はい!ではまた」
彼の横を過ぎようとする。絡まれるかと思ったけど、そんなことは無く。外カメラで確認するとまた頭を下げていた。
「はぁ〜変なのに絡まれたでござる」
これで終わったかと思ったら始まりだった。
翌日
「おはようございます」
「お、おは……ござ……ッス」
またまた翌日
「おはようございます!」
「アッ……ス……」
1週間後
「おはようございます!!」
「……あのさぁ……」
「はい!」
初めて会った時と変わらぬ笑顔にため息をつく。
「一体何?毎日まいにち挨拶しちゃってさぁ。分かんないみたいだから言うけど迷惑なんだよね」
「えっ……あ……」
「だからさっさと要件言ってくれない?これでも忙しいんだよ。拙者。……だからさぁ毎日お伺いしなくても用を言ってくれればやるし、アズール氏に取り次いで欲しいんだったら言うし……だからさぁ……ユウ氏?」
喜ぶ声が聞こえるかと思ったがそんな声は無く。画面越しに顔色を伺うと困っているような、悲しんでいるような。そんな顔。
「え、喜ぶ所じゃないの?ここ」
「す」
「す?」
「すみませんでした!!」
それはそれは大きな声での謝罪と勢いよく下げられる頭。
「挨拶が苦手だとは思わず……ご迷惑を……」
「べ、別にそこまでせんでも」
「なんと謝罪したらいいか……ほんとすいませんっしたァ!」
なんだなんだと集まるギャラリーに、よく頭を下げるからフロイド氏にエビって呼ばれてるのかぁ。等と現実逃避をし始める。
「そ、それ以上の謝罪は良いから!ホント君はなんで僕に構うの!」
半ばヤケクソで彼に負けじと声を出すと
「?先輩がそこに居たら挨拶しません?」
さも当たり前といった様子で返事が来た。
「えっ」
「おや、監督生さん。おはようございます」
時が一瞬止まり、知ってる声にタブレットごと向くとアズールとその幼なじみ2名が来ていた。
「アズール先輩!おはようございます!フロイド先輩おはようございます!ジェイド先輩!おはようございます!」
一人一人にされる丁寧なお辞儀。
「おはよぉ小エビちゃん」
「おはようございます、小エビさん」
「……おはようございます。監督生さん」
フロイド氏の真似をするジェイド氏をたしなめる目を向けつつ、アズール氏が監督生氏の前に立つ。
「じゃあ、先輩……すみませんでした……」
悲しそうな顔で去っていく彼にかける言葉も分からず、そのまま遠ざかる姿を見送る。
その間もおはようございます。という快活な声が聞こえ、嗚呼、本当に先輩だったら挨拶。って理由だったのか……と思い知らされる。
「あの人は毎日会う度に挨拶をしてダッシュで去っていきますよ」
「トレイン先生によく怒られていますね」
話しかけているのか、身内で語り合っているのか分からない距離。
「今日は珍しく頭下げる余裕があったみたいだね〜なんでだろう?ねーホタルイカ先輩?」
「……何が言いたいの」
自分の発した声が思ったよりも低く、まるで拗ねてる様で……無様だ。
「貴方に態々頭を下げていたのは何処が目なのかが分からない。反応が分からない。ただそれだけの事です。なので自分にばかり声を掛けられて迷惑だ〜だなんて……イデアさんが思う訳……ないですよね?」
「そうですよアズール。僕達と揉めたから話しかけずらい……だなんて、あの人は思わないんですから。勿論情報通なイデアさんもその事はご承知でしょう?ねぇイデアさん……おや?」
浮かぶタブレットは無反応、そのまま自動操縦で去っていく。
それでも外の声は当人には聞こえていて、意地の悪い人魚の笑い声がヘッドホン越しに聞こえた。
「ぐぅ……これぞ正に妄想!乙!!!」
頭を抱え喉の奥から絞り出した様な声を出しイデアは机に額をぶつけた。