ショーに夢中なキミだからこそ深呼吸をして眼の前のボタンを押す。
ピンポーンと軽快な音を鳴らして暫くするとドアが開いた。
「いらっしゃい、◯◯くん。
どうぞ。」
ドアを開けて中へと促される。
「…お、お邪魔します…!」
緊張するのも無理はない、と思う。
付き合い始めてから初めてのお家デートなのだから。
部屋へと案内されて好きなところに座ってていいよと言われた。
…と言っても、類くんが作ったロボットやら工具やらで座れるところは限られていそうだが。
とりあえずものに当たらないよう、踏まないようにこれまでにないくらいに集中してなんとかソファの縁までたどり着く。
ソファに背中を預けるように座り、近くにあったロボットを眺める。
「おまたせ。
オレンジジュースがあったからそれにしたけど良かったかい?」
「あ、うん!ありがとう!」
類くんが持ってきてくれたジュースを受け取って一口口にする。
緊張でカラカラだった口の中が甘酸っぱいオレンジで潤される。
「悪かったね。
片付けようと思っていたのだけれど、昨日作業が捗ってしまってね。」
「ううん!全然大丈…。」
言いかけてふと隣に座った類くんを見る。
昨日、作業が捗ったということはとコップを置いて類くんの顔に手を伸ばす。
頬撫でると擽ったそうにする。
じいっと見るとそこには確かにうっすらと隈が出来ている。
「…◯◯くん…っ!?」
ぐいっと腕を引っ張って膝に類くんの頭を乗せる、
そのまま目元に片手を置く。
「な、何だい…?」
「類くん、また徹夜したでしょ。」
「うっ…!
ご、ごめんよ。気をつけていたのだけど昨日どうしても作りたくなってしまって…。」
目元に置かれた手を剥がそうと類くんの手が伸びてきたが、もう片方の手で伸びてきた手に指を絡める。
私は子供体温だから手もそれなりに温かい。
「…◯◯くん、今日はデートの日で…!」
「うん。」
「…寝る、わけには…。」
手の力が徐々に抜けて来たのでするりと解き、類くんのお腹らへんで一定のリズムを刻む。
5分も経たないうちに寝息が聞こえてきた。
そっと目元に当てていた手を外し、頭を撫でる。
「ふふ、可愛いなぁ…。」
類くんはいつもワンダーステージでのショーで忙しくて、今日も久々のデートだったんだけど。
「私はショーに夢中なときのキラキラした類くんが好きだよ。」
だから私のために妥協してほしくないし、私も邪魔はしたくない。
勿論、妬くこともある。
ショーユニットのメンバーには女の子がいるし、何ならその内の一人は幼なじみだと聞く。
私が知らないこともたくさん知ってるだろうなとか、私と関わる時間より長い時間を過ごしてるんだなとか。
知り合いも可愛い子が多いみたいだし、これほどのイケメンだから街を歩いてても女性の視線を集めている。
「…いつか、類くんが夢を追うために遠くに行くことになったり、類くんに他に好きな人ができたりするまでは…。」
側に居させてね、と類くんの頭をサラリと撫でる。
気持ちよさげに手にすり寄る姿にまた笑みを溢して、つられてやってきた睡魔に身を任せるよう目を瞑った。
後日、どうやらどこかに仕掛けていた録音機でこの日の独り言を録音していたらしい類くんが暇さえあればべったりくっつくようになった話はまた別の機会に。