虎の仔さいさい!「あれ?」
吉祥は呟いた。あきらかな違和が、目の前にはあったからだ。
「……どうした」
前を歩いていた敬愛すべきひとが、首だけ振り向かせていつもどおりの眠たげな目を向けてくる。歩みを止めた吉祥に対して、彼の阿大──十二少はあくびをしながら立ち止まることをしなかったので、慌てて腕を掴んで引き留める。彼がゆるく羽織っていたスカジャンは、その拍子に右の肩から滑り落ちた。首元で光を反射するネックレスに後ろ髪が一筋絡まっているのを見て、さっきと同じだな、と思った。
「小吉、黙ってちゃわからない」
少し下から吉祥を見る十二少は、胡乱げに眉根を寄せるけれど、どうして気付かないんだ、と彼は思った。
「阿大、俺たち、城塞なんて歩いてたっけ」
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