【新快/小話】戦略的撤退一番太い部分を抜けると、縁のぴりぴりとした痛みは収まったが、代わりに内部の圧迫感がぐっと増した。
(腹破られそうで怖…)
これまで経験した事のない、内臓が押し上げられる感覚に、意図せず嘔吐きそうになり、慌てて口を塞いだ。
犬の様に短い呼吸を繰り返していると、指の腹や額に、じんわりと汗が滲んでいく。
ふと見上げれば、工藤も眉間に皺を寄せ、額には大粒の雫を幾つも作っている。
(苦悶する表情までイケメンとはこれ如何に…)
同じ顔だと突っ込まれそうだが、俺にここまでの色香はないと思う。
イケメンではあるけれど。
よくセックスをスポーツにカテゴライズする人が居るが、なるほど、確かに気力体力面では、愛の営みというよりハードめの有酸素運動に近いかもしれない。
「…落ち着いたか?」
「さっきよりは…あんまし急に動かれるとやばそう」
先程から腰を進める動きが止まったと思ったら、どうやら此方への配慮だったらしい。
観察眼の優れた工藤のことだ、俺が両手で口を抑えているのは、『声が出ちゃう!やだ、恥ずかしい!』だなんて初心な事でないくらいお見通しだろう。
「もう抜くか?」
「うー…」
折角ここまで進んだのに、と言ってやりたい所だが、正直あちこち限界で白旗状態だ。
俺の認識・準備不足があったことは否めない。
ぎちぎちに締め付けられている工藤自身も、心做しか少し嵩が減っている様な気がする。
このまま変に事を急いて怪我をしても何にもならないと判断し、降参を示すように顔の横で両手を広げた。
「んー…その案には賛成。ぶっちゃけしんどい。ただ、抜く前に何個か試していいか?前立腺の位置も再確認しときてえし、次回への傾向と対策を考えたい」
「…お、おう。次回…あるのか」
なんて事言うんだこの探偵は。
この黒羽様が甘んじて、清水の舞台から飛び降りる程の、決死の、並々ならぬ覚悟を持って受け手に回っていると言うのに、今回限りだと思われていただなんて!
俺の愛も軽んじられたものだ。
謎に対しては過ぎる程の探求心と諦めの悪さを持つ癖に、これだから朴念仁は嫌になる!
文句の1つでも言ってやろうかと思ったけど、次があると分かり、深く息を吐いた工藤の顔があまりに可愛かったので、ぺちりとデコピンをして終わらせてやった。