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    nuzk_zk

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    nuzk_zk

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    nrとmt。
    nrhdくんが半分くらいソワソワしている。
    1-5後です。

    #逆転裁判
    aceAttorney

    はじめての宅呑みアパートの階段を登り切る。いつもより弾んだ息をどうにか落ち着ける。
    気付けば肩で息をしていた。2度深呼吸する。すー、はー。すー、はー。
    余裕ぶって振り返ると遠くの空が暮れている。じきに真っ暗になってしまうんだろう。
    ジャケットのポケットに入れっぱなしだった家のカギを探り当てる。最近コイツを使うのにはコツがいるようになってしまった。
    少し、押すようにして、回す。
    カチャリ。
    ほら、開いた。

    今日、この部屋に古くからの友人……、御剣怜侍が来る。

    -----

    そう決まったのは今日の昼の事だ。裁判所での用事を済ませて伸びをしていたら、目の前を派手な赤いスーツが横切った。

    「御剣」
    「ム?」

    振り返ったのはやっぱり御剣で、鋭い目を丸くさせていた。こんなに近くを通って気付かないなんてコトあるのか?
    自分で言うのもなんだけど、かなり青いぞ。ぼく。

    「居たのか……。すまない」
    「随分とオツカレだな」
    「まあ。キミもな」
    「ぼく?」

    御剣は再開したての頃から考えると、明らかに痩せて見える。気丈に振る舞っちゃいるけど、最近は顔が痩けてスゴみが出ている。

    「ちょっと痩せたんじゃないか」
    「お前に言われるのはおかしい気がするけど」
    「はは」

    呆れて言い返すと乾いた笑みが返ってきた。自覚があるらしい。周りにも散々言われているんだろうか。

    「まあ確かに、食べるのサボってた」

    コイツほどではないけど、ぼくも多少自覚がある。少しばかり萎んだ。理由の一つはそう、みそラーメンを食べる回数が減ったからだ。
    目の前の彼が片眉を上げて少し困ったような顔をしてから、腕を組んで見下ろすように顎を上げる。

    「しっかり食べたまえ」

    偉そうに言われて少し笑ってしまった。お前が言うなって。
    御剣はニヤつくぼくをイヤそうに眺めてから、腕時計をチラリと確認する。

    「あ、これから昼?」
    「ム。いや。いや……そうだな。そうしなければならないだろうが……」
    「食べてはいないのか?」
    「ああ。だか少し後になるだろう」

    手元の時計を確認すると、短い針も長い針も上を向いている。……ヤツの昼飯はいつになることやら。

    「なあ、今日夕飯いっしょにどう?」
    「夜、か」
    「うん」

    提案が口をついて出た。昼飯に一緒に行けば解決かな、なんて思っていたけれど、それが叶わないと思ったら代案を閃いてしまった。

    「いいぞ」

    なんだって。快い返事が返ってきた。特に予定を確認する素振りすら無かった。

    「そ、そうか」
    「なんだ冗談だったのか?」
    「いやそうじゃないよ」
    「では後ほど」

    無表情で頷いた後、タイムリミットだったようで、御剣が足速に去っていった。
    本当に約束をしたんだろうか?
    一瞬分からなくなるようなあっさり加減だった。

    --------

    玄関先に置いてあったゴミ袋をまとめてベランダへ出してしまう。見られるとキケンな気がするから、今だけ避難だ。
    朝のままになっていたスウェットやら整髪料やらゴミなどもろもろ、本来有るべき場所へ移動する。真っ直ぐ並べておけば、どことなく整って見えるもんだ。

    ぼくが昼を食べ終わってから2時間後、御剣からメールが来て、あの約束は幻では無かった事を思い知る。
    仕事が終わり次第行くと言われたけれど、昼の様子を見るに終わりの目処は立ってないんじゃ無いかと思う。
    それじゃ適当にぼくんち来てよ。と、言ってみたら、了解。とだけ返ってきた。

    定時に引き上げたぼくが、必死にコロコロを床に押し付けて回っているのは、そう言う約束をしたからだった。

    さっさと掃除機まで掛けてしまう。なかなかキレイになったんじゃないか?仁王立ちで部屋を見回す。"部屋の乱れはココロの乱れ"と言う位だ、これでぼくのココロも整ったハズだ。
    気分が良いから、もう少し頑張るコトにした。トイレも掃除しておこう。
    風呂…、風呂はどうしようか。泊まって行くのかな。アイツ明日も仕事なのかな…何も聞いてないや。うーん、とりあえず、まだ来る気配はない。やる気がある内にやっちまおう。

    年末でもこんなに掃除をしただろうか。いくらなんでも落ち着きがなさすぎる。ぼくはふうっと大きく息を吐き出した。ゆっくり目を瞑ってみると、鼓動がいつもより少し早いコトに気がつく。なんだか居た堪れなくなる。こんなに浮ついて、なんだかトモダチが居ないヤツみたいじゃないか……。

    バスタブを磨き上げたぼくは、脚を拭いて居間へ戻る。時計を見ると、1時間ちょっとしか経っていなかった。
    携帯は光っていない。だけど一応、念の為に開いてメールを確認する。何も届いていない。そりゃそうだ。
    見回して玄関に置きっぱなしだったスーパーの袋に気がつく。
    酒とナマモノだけ出して放置していたそれを、座卓の上に乗せる。
    少し眺めてから、中身を出す。いろんな形状のイカと、チーズと、サラミ的なもの。机に並べてみる。そう言えば主食になるものは出前を取ろうと思っていたけど、注文時間終わっちゃうかなあ……。

    客が居ないのに賑やかになってしまった机を前に、途方に暮れる。クッションを鷲掴んで、その上にドカリと座る。テレビをつける気にもならなくて、ごちゃごちゃの机の上に突っ伏した。
    いっそ寝てしまうか?と考えたもののそれも上手くいかず、お手上げとばかりに今度は後ろに寝そべった。降参だ。
    何故なんだろう。相手はあの御剣だぞ?
    妙にフワフワしてしまう理由なんか無い。
    そりゃプライベートで、加えてサシで話す機会はオトナになってから初めてだけど……。
    ああでもそうか、久しぶりに旧友と話すんだ。……楽しみでもおかしくない、のか?

    暫く時計の秒針の音を聞いた後、コップに冷えた麦茶を注いで飲みながら、台所の前で出前のチラシを眺めていた。
    ピザや寿司、鰻、ラーメン、焼肉……選択肢は意外とある。今頃、御剣は腹を空かせているんだろうか。そう言えばぼくも食べてないんだよな。まだかなあ。

    居間に置いておいた携帯が震える。
    メロディが鳴り出して、ハッと目が覚めたような気分になる。
    半分走るように近寄って電話に出る。

    「はい、ぼくです。
    ……うん。……うん別に。
    ………はは。じゃーお願い。
    ……分かったよ。……はーいまた。気を付けて」

    あっちが切ったのを確認して、ぼくも閉じる。もうすぐ着くらしい。どうやら歩いているようだった。
    外で待っていたら引かれるだろうか。
    いや、外で待ってないと部屋が分からないかもしれない。出てしまおう。なにせ、ヒマだから。

    扉を開けると生温い風が吹き込んで来た。例年に比べて今日は暖かく、春を思わせる陽気だった。数日前まで凍てつくように寒かったのにちょっとおかしいんじゃないか?
    でも、今日で良かった。

    柵にもたれかかって風を感じていると、曲がり角の街灯の下、ポツリと赤がチラついた。
    アレかな、と思ったら目があった、気がした。
    軽く手を上げると、控えめに応えた。
    やっぱり引いてるのかな。まあ良っか、なんでも。

    カンカンカン、と足音が大きくなる。頭の先からじわじわと御剣が登場する。それが少し面白くて笑いを堪えていたけど、目の前までやって来た御剣に開口一番、変な顔だ、と一蹴されたのだった。

    ぼくの部屋に入った御剣は珍しいものを見るように見回すと、感心したように言った。

    「ちゃんとハンガーもあるのか」
    「あるよ!」

    ぼくの家、なんだと思われていたんだろう。小言は飛んでこなかったけど、へぇ……とかほぉ……とか一々言っているので、それはそれで落ち着かなかった。

    「腹減ってる?」
    「減っている」

    クラバットも取ってベストとシャツだけの姿になった御剣に問い掛けると、大きく頷いてそう答えた。結局昼は食べられたんだろうか……。

    「出前取ろうと思うんだけど、もうピザか寿司しかない」
    「そんな時間か…遅くなってすまない」
    「いや良いんだけど別に。どっちにしようか」
    「ピザか寿司……」

    御剣に寿司のチラシを渡すと、真剣な眼差しで読み込み始めた。その後ぼくの持っているピザのチラシを覗き込んだ。ぼくも隣の手元の寿司と見比べる。正直どっちでも良いけど、ぼくたちにはあまり時間が無い。
    より建設的な意見を述べる方が良いだろう…と頭を捻らせる。
    すると御剣が何かぼそりと呟くように言った。

    「え?」

    よく聞き取れなくて顔を上げると、視線がかち合った。ニヤリとした笑顔は、ヤツが優勢に転じる時に見るものと同じだった。

    「どちらも頼めば良いだろう」

    まさに逆転の発想というヤツか。
    それとも腹が減りすぎているだけなのか。
    いずれにせよ、好きなものを頼めと言った御剣はそれはもうカッコ良かった。(きっちり割り勘だったけど。)


    ぼくが自宅に御剣を呼んだのは、遅くなりそうだからと言う理由だけではなかった。
    実の所、外では話せないような話も気兼ねなくしたい、と言う企みもあった。
    だけどこの日は、しなかった。どこでも話せるような、他の誰かが聞いてもつまらないような昔話をした。
    ぼくが買っておいたビールを御剣が空けて、ぼくは御剣おすすめのワインを飲んだ。
    安いサラミも、いつもより美味く感じた。良い酒は違うんだな、と言って笑ったら、御剣もチーズを摘みながら、缶ビールもなかなか、と言って目を細めていた。

    ツマミを退けて、立て続けに届いたピザと寿司を机に並べる。乗らなかった物は床に置いてしまう。御剣は全く仕方が無いなと、呆れていたけど、機嫌が良さそうだった。
    シーフードとチーズがたっぷりのったピザは、およそ今の時間に食べて良い物では無いように思えるけど、そう思えば思うほど美味しかった。
    御剣も手で掴んで食べている。案外豪快だ。なのにぼくより上品に見えるのは何故なんだろう。

    「格が違うのだよ」
    「寿司とピザを交互に食べといて何言ってるんだよ」
    「寿司は箸を使っている」
    「ぼくも使ってるだろ」
    「ふん。利口ぶって…」

    御剣はあまり酔いがそこまで顔に出ないタイプなんだろうか。けれど髪から除く耳がほんのり赤みがかっているように見える。
    確かめたくなって、空いている方の手を伸ばす。顔の横の髪を耳にかけてしまう。ぼくとは随分違う髪質だ。サラサラとして、するりと滑った。

    「なんだ」
    「耳が赤い」
    「勝手に触るな」
    「だって、見たかったから」
    「君も顔が赤い」
    「飲んでるから」

    御剣は少し不服そうにこちらを睨んでから、缶ビールをひと舐めした。
    そして逆の手のひらをぼくの頬によこした。
    ひんやりと冷たくて、気持ちが良かった。

    「アツい。酔ってるな」
    「お前も触ってるじゃないか」
    「私は別に触りたいわけでは無い」
    「じゃあやるなよ」

    そうだな、と言って手が引いていく。それを掴み取りたくなったのを、まだ僅かに生き残っていた冷静なぼくが嗜めた。

    「キミはスゴい」

    大トロを摘みながら、御剣がしみじみと言った。なんとなく、言っている事と態度が一致していない気もするが。

    「なんだよ急に」
    「キミは間に合った」

    霜の乗った赤が、御剣の口へ消えていく。一瞬見えた舌が似た色をしていた気がして、錯覚を起こしそうだ。

    「何?弁護のこと?」
    「うム。そうだな。……キミは自分の信念を、それが可能なタイミングで貫いた」
    「そう、なのかな」

    酔ったアタマでは御剣の真意を汲み取れなくて、曖昧な返事になる。
    ふふ、と自傷気味に笑う彼を見て、そうだぼくは話がしたかったんだ、と思い出す。
    何を言ったら御剣は、ぼくが、どんな質問をすれば……。

    「私は間に合うかな」

    弱音のような質問が転がる。その目は、ぼくにはどこか諦めたように映った。

    「できるよ。御剣なら」

    全部は分からないけど、ぼくはそう言った。
    だって御剣だもん。あの日、孤独だったぼくを救ってくれたのはお前なんだ。大丈夫さ。

    「ぼくは信じてるよ」

    できるだけ真剣に、だけど深刻になりすぎない様に言ったつもりだった。

    「そうか」

    いつも、いつだって目の前にいる彼は、目尻に皺を寄せて笑った。
    そしてどこか吹っ切れたように、窓の外に目をやった。

    --------

    その後、腹がいっぱいになって眠くなったぼくたちは順番にシャワー浴びて、自分とお客様用の布団を敷いて雑に寝転がった。
    御剣にはぼくの替えの深いグレーのスウェットを貸した。風呂場から出てきた時に、あまりの落ちぶれ方に哀れみを抱いてしまったが、本人は気にしていない様だった。

    「明日仕事?」
    「……まあ、そんなところだ」
    「へえ、忙しいんだな。相変わらず」

    眠いし、明日もあるんだ。寝た方が良いけど、もったい無い気もする。
    またこんな夜が来れば良いのに。そうだ、今日みたいな日が何度もあったっていいじゃないか。

    「なあ御剣」
    「なんだ」

    続けようとした言葉を頭の中で反芻する。
    ううん。言うべきかな。でも。今じゃ無いかもな。今日は良い夜だった、それで良いじゃ無いか。
    シャワーで少し、酔いが抜けてしまったから。

    「……おやすみ」
    「ああ……、おやすみ」

    -------

    それから数週間後、ヤツの執務室に残された手紙について知らされるコトになる。

    アイツは、カンペキが好きだから。
    ぼくの部屋には、忘れ物なんて1つも無かった。
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