あまなってるさん、お誕生日おめでとうございます以前、布団から出れずに遅刻しかけたからと言う理由で枕元に置かれたラジオに手を伸ばし、時間確認も含めて世の中の動向を聞く。
昨日各地で行われた成人式の話が聞こえてきた。
振袖姿のお嬢さん達の華やかな着物達は冬から春へと向かうこの時期に花を添えてくれているようでもあった。
「…ゔ〜」
ラジオが、昨日は曇天であったのが悔やまれると告げている。季節柄仕方がないだろう。
冬というのは晴れの日の方が少ない物だ。
「おはよう」
「おぁよう…何時のニュースだ?」
「6時」
「そうか」
「朝飯は駅そばで良いか?」
「良いけど、珍しいな」
汗を吸った毛布と綿布団の重みを感じながら石油ストーブの音を聞いて、出社時間の間際になるまで暖を取るのがいつもの流れであったから驚いたようだ。振り返って俺を見てくる目は穏やかな海とも晴れ渡った空とも言える不思議な青。
「偶には別の方法で暖を取るのも良いかと思ってな」
二人揃って早食いの癖は抜けない。けれど隣で共に早食いをしてくれる奴が居ると、嗚呼生きているのだと思えるのだ。
ラジオが天気予報を告げてくる。10年前まで軍事情報だった物が大衆化していく。
色々な物が変わっていく。
成人の日のように新しく出来た物もある。
「上野は混んでいるだろうから、新橋か有楽町ありで食べるとするか」
「そうだな」
食べに行くならそろそろ布団を出ようと促される。見上げてくる瞳の上の綺麗な額に思わず口付けてしまったが、冬場は甘えたになると分かっているので許してくれる。
細くたって何だって良い。長く隣にこの青空が、許してくれる存在が在る事を願いながら、手は繋がずに指先だけを絡め合って布団を後にした。