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    荒鳴(未満スタート)の花吐き病ネタです。
    小説もどき
    忙しなく視点かわります。
    初めての長文(ただ長くなっちゃっただけ😞)
    関西弁わかりません。
    日本語もわからなくなりました()
    ごめんなさい。

    微妙に仄暗い?

    花吐き病/荒鳴ーーーーーーーーーーー


    体調管理は万全、
    毎日うんこもしっかり出とるし、
    変な物も食べとらん。
    今日のレースだって、イイ勝負したし、勝った。
    ワイのデーハーな走りもいい調子…

    「のはずなんやけど…」

    シャワーの水流で排水溝へと流される、たった今自分の口から吐き出されたであろう空色の花弁。
    ソレを呆然と見つめながら、最近の自分の様子を妙に冷静に振り返りながら、小さく呟く。


    「……花?」


    ワイ、花なんか食うたか…?
    なんや?コレ、今吐いたよな?ワイが……花を?

    排水溝に流れる花弁から視線を外すと、鏡に映ったじぶんの姿が視界に入る。
    嘔吐感から涙目になり、目元はいつもより濃く赤く縁取られている。
    再び排水溝の花弁へと目を向ける。


    花吐くとかそんなん有り得へんわ!と笑い飛ばしてしまいたいが、実際に、ソコにある花に現実を突きつけられてしまい、そうもいかない。

    1度強く目を閉じる。
    そして、そっと開く。


    「……花、やなぁ……」


    イレギュラー過ぎる事態に、
    脳はそれ以上を考える事を放棄したようだ。

    仕事を放棄した脳を置き去りに、身体はやるべき事を淡々とこなし風呂を済ませ、排水溝に張り付いた花弁を丁重にティッシュとビニールに包んで、ゴミ箱へ捨てる。

    風呂から出ても相変わらず脳は考えることを放棄し動かないままで、
    身体はただ淡々とやるべき事をこなしていき……
    そのまま静かに眠りについた。



    ーーーーーーーーーーーー



    「花、吐き病……そないな病気、どーしたらええねぇん……」

    簡単に弱音を吐くんは好きやない。
    が、しかしこのイレギュラーな状況を前に弱音以外の何が言えようか。


    初めて花を吐いてから幾日か経った週末、鳴子は街の図書館に来ていた。この花を吐く現象の原因を調べる為に。

    思ったより早く資料は見つかったが、
    どれも【架空のオハナシ】としての「想いが通じれば治る」「ロマンティックな病」「恋する気持ちが溢れる病」といった薄い内容ばかりだった。


    ため息ひとつ、ゴンッと机に突っ伏す。


    分かったことは、
    この病は伝染するらしいという事。
    人に見られたくないと隠して処理してきたがどうやら正解だったようだ。

    そしてもうひとつ分かったことは、
    これは「恋する病」なんて、そんな甘い響きのもんじゃない事。


    花吐くのはむっちゃキツい、息が苦しくて涙もボロボロ出る。
    いつ吐くか分からなくて気もなかなか休まらへん。
    家でも学校でも…

    だけど
    ロードで走ってる時だけは、忘れられる。

    いっちゃん派手で早い、赤いワイのロード。
    赤は良い、派手でカッコイイ。

    吐くなら吐くで、ド派手な赤い花やろ!と悪態をついた夜もあった。


    そう、決まって吐くのは、赤とは対称的な

    淡い空色の花……。



    フと思い浮かぶ、ロードバイクのフレーム。



    瞼に浮かぶ影が人の形になる前に、大きく首を横に振って影を消す。



    ため息ひとつ
    読み終えた本を棚に返して図書館を出る。


    ヘルメットを被り、目の前にある
    いっちゃん派手な、太陽のように真っ赤なフレームを強く握りしめた。



    ーーーーーーーーーーーーーー


    講義の最中、ぼんやりと思い浮かべるのは ド派手な赤。



    金城から、「地元でレースがあるんだが、来るか?」と誘われ出向いた小さなレース。
    大学の部と時間は違えど同じ会場で高校の部も行われていて、せっかくだからと、会場では総北のチャリ部にまざり賑やかに過ごした。


    相変わらず小野田チャンは不思議チャンだし、エリートにウルセェオレンジになんかビクビクしてるやつに…と、おもしれぇヤツらもいたが、
    レース以降思い出すのは、他の奴らとは違う匂いをさせていた小さい赤頭の事ばかりだ。





    接点は無いに等しい。

    金城とつるむようになってからは、金城経由で話を聞いたり、直接話す機会も多少なりとあるが、それほど親しいとは言えない。
    だから思い浮かぶのは、自分より一回り低い位置にある赤い派手な頭。それと、微かな花の匂い。


    「なぁ、荒北」

    隣に座って講義を受けていた坊主の無駄にいい声に現実に引き戻される

    「…ァ?」

    「お前、『花を吐く病気』って、知ってるか?」

    「ァア?花……を、吐く?ゲロってコトォ?」

    「そう、らしい…想いが花になり、叶わなければ衰弱…」

    「シンゴちゃんもそーゆー少女漫画みたいなお話、読むのォ?」

    おかしな話に鼻で笑って返すと、金城はわずかに複雑そうな表情を浮かべたが、直ぐに肩を竦めながら

    「いやさっきの講義中、前にいた女性たちが話しているのが聞こえてしまってな、盗み聞きはいけないな。悪い、忘れてくれ」

    そう言って講義をしている講師に向き直った。

    冗談を言ったり悪知恵が働いたり、存外ノリの良い人間だと知ったのは大学に入ってからだが、それでも、人の病気をネタにする人間では無いと思う。
    匂いも、嘘や冗談を言う時のソレとは違う気がする。


    「…人間て、未知だネェ」

    「…そうだな」


    会話はそこで終わり、自らも講師の話へと耳を傾ける。

    耳心地の良い講師の声が子守唄へと変わるのはそう遅くなかった。

    瞼が閉じ意識を手放す瞬間に頭に浮かんだのは、
    やはり、数日前に会った、ミスマッチな花の香りがした、赤頭だった。



    ーーーーーーーーーーーーーー


    初めて花を吐いてから、数週間が経った。

    もう流石に認めざるを得ない。
    花を吐く意味。
    ……空色の花を吐く、意味。



    クラスの連中や部活の人らに、花を吐いた事はバレていない。
    はずで、普段通りに振る舞えていると思っていたが、思ったよりも周りは、じぶんの様子をよく見ていてくれていたらしい。

    徐々にやつれ疲れていく様子に、同級生から先輩、先輩から卒業した先輩にまで、SOSが発信されたらしい。

    オーバーワークなのは自分でもわかっていたし、小野田クンやスカシに指摘されてもいた。が、
    ロードに乗っている時だけは、忘れられるから。

    可能な限り、回した。
    回して、回して、速さだけを求めて。



    結果、ぶっ倒れて、皆に迷惑かけて、今に至る。




    今、鳴子は静岡にいる。

    本当ならば茨城に送られる予定だったが、送り先が寮であった為手続きやらが間に合わず、静岡行きとなった。らしい。



    「金城さん、ホンマ、迷惑かけてスンマセン…」

    「いやなに、数日の合宿だとでも思ってくれ。たまには違う環境で過ごすのも、良いんじゃないか?」

    静岡にも良いコースと美味いラーメンがあるぞ?とニヤッと笑う先輩にホッと心が落ち着くのがわかる。

    そういえば、花を吐き始めてから、まともに人と食事を取っていない。でも、この人ならと思えてしまうのは頼りになる元主将という安心感からなのだろうか。

    「すないが、オレはこれから少し大学に行かなくてはならなくてな……適当に過ごしておいてくれ。夕飯前までには帰宅予定だから、なにか食いに行こう」

    「ふふ!なんや新婚さんみたいな会話ですね!分かりました主将さ…いや、もう主将やないか……わかりました、アナタ❤」

    「あぁ、行ってくるよ、息子よ」

    「そこはハニーやないんですかーい!カッカッカッ」


    そんな冗談も言えるんかと驚き関心しつつ、きっとこちらの緊張をほぐす為にノッてくれたのであろう優しさに心の中で感謝する。

    家主を見送って静かになった、知らない部屋。
    特にやることもなく、必要な箇所の間取りを把握させてもらったあと、持ってきてもらった自分の自転車を組み立てようと玄関付近に置かれた輪行カバンに手をかける


    それと、ほぼ同じタイミングで、玄関の鍵がカチャリと音を立てドアノブが回る


    「なんや、パパさんえらい早いお帰りですねぇ、忘れ物でもしはりました〜?」



    「ァ?」



    少し開いた玄関扉の向こうから聞こえたのは、
    聞き慣れたバリトンボイスではなく。



    「あ……あらきた……さん」


    そう、口に出した瞬間、激しい嘔吐感に襲われる。

    ダメだ!!そう思ってもこの嘔吐感は止められるものでは無く、驚いた顔をして玄関先に立っている人間を置き去りに、洗面台へと走る。



    「会いたかった」「会いたくなかった」
    「認めたくない」「認めてしまいたい」
    「見ないで」「見つけて」



    ぐちゃぐちゃな思考。
    息が出来ない程の嘔吐感。
    訳の分からない苦しさ。
    その全てに涙がボロボロと溢れ、

    淡い、空色の花を吐いた。

    ワイの好きな、色。
    好きな人の、色。




    「オイ!大丈夫か!?」




    ゆっくり振り返る赤い髪、
    涙で濡れ赤く縁取られた眼、
    その手に散る淡い空色………ジブンの自転車と同じ色をした、花。

    光を無くした大きな赤い瞳がこちらを見た。
    その瞬間、感じたことの無い仄暗い感覚に襲われた。



    【この赤を、手に入れたい】





    ジャーーーー!という水音に
    ハッと我に返った時には
    目の前には「いつもの鳴子」がいた。



    「アラキタさん!どないしたんですか!?いやー、主将さんと思っとったんでビックリしましたよ!」

    「ァー…」

    「お2人が合鍵つこて部屋入る仲なんて知らんかったですわ、先輩らもスミに置けないッスね!カッカッカッ!」


    そう早口に捲し立てながら、何事も無かったかのように雑に顔を洗い、慣れた様子で洗面台を掃除し、笑いかけてくる赤。
    空色の花弁はビニール袋に包まれたゴミとなっていた。


    「……バァカ、オメェが来てるからヒマなら遊んでもら…遊んでやれってたまたま会ったシンゴチャンが鍵渡してきたダケェー」

    「そーなんスね!なんや見た目によらず面倒見ええんですね、アラキタさん!」

    「……」

    「こ、この前のレースぶりッスよね!自転車持ってきてるンで時間合う時、一緒に走ったってくださいよ!」


    触れないでくれ、なんとか誤魔化せないかと、足早に自転車の元へと向かう。
    見なくてもわかるほど真っ直ぐ、黒い瞳がこちらを無言で見つめている。
    目が合えば心の内を全て見透かされてしまいそうで、振り返ることは出来ないまま自転車に手を伸ばす。


    「...ソレ...キンジョーは知ってんのォ?」

    「......」


    やっぱりこの人は、見逃してはくれへんか...
    ごまかすか、
    素直に認めるか、
    なんと答えるべきかと考えていると、背中から思わぬ言葉が降ってきた。

    「それってさぁ、伝染るんダロ?」

    「ぇっ!?」

    相手から発された言葉に、思わず振り返ってしまった。
    なぜ?その事を?この人が、この病気を、知っている?

    「ぇ、なんで...」

    「ちょっとネェ...で、キンジョーは知ってんの?」

    「言うとりません...言えへんでしょ、こんなん...」

    「ァー...

    オメェ次第だけどよ、ウチ、来るか?
    見ちまったし…ソレ、知ってるヤツの方が少しは気楽なンじゃねェ?」

    「ぇ...」

    「もし、来る気あんならさ、キンジョーには適当に言っといてやるヨ」

    この人は何を言っている?どこまで知っている?
    いや、でも、これは有難い話だ、
    もうバレてる手前下手に隠す必要も無い、

    それに......





    大きな赤い瞳が揺れるのが分かった、もう一押し。
    思わず、舌舐りをしそうになるのを手で隠す。

    「たまにゃ、そーほくから離れるのも良いんじゃナァイ?
    ...美味い店、連れてってやンよ」


    「...っふ、それは...魅力的なお誘いですわ」

    少し弱った赤頭が安堵したような笑顔で答えた。


    舌舐りを1つ。
    そうだ、油断しろ、落ちてこい

    太陽は、空で輝けばイイ。



    ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    【っつーワケで、ショーキチチャンは預かるなー】

    ...なにがどうしてこうなったのか。
    先刻届いたメールはこの一通、この一文のみ。
    この文章には、前も後も無い。
    一応、メールを閉じて開いてを2回繰り返したが、新しい情報は何も無かった。
    ふぅ、と息を吐き、返信のボタンを押す

    「可愛い後輩を、よろしく頼む」

    自分の居ない半日の間に、二人の間に何があったのかは分からない。しかし、粗野だと恐れられがちな奴も、実の所とても良く人を見ている。
    相手の言い分を無視して無理矢理に行動を起こすような奴では無いと、親しくなった今ならハッキリ言えるし、信用のおける奴だ。

    携帯が震え、新着メールの受信を告げる。

    メールを開こうと受信ボックスを見ると
    少し前に後輩から来たメールが目に入る。

    それは要約すると、
    『鳴子が目に見えてやつれていっているが原因が分からない。オーバーワークだと伝えても辞められない様子だ。アドバイスが欲しい』という内容だった。

    メールの送信者は軽々とアドバイスを求めてくるような奴では無いと、よく知っている。きっと沢山考え行動し、それでもどうにもならなくなって最後に俺に頼ってきたのだろう。

    原因を特定する事は出来ずとも、オーバーワークについては1度物理的に部活から遠ざけてやることは出来そうだと、返信した。


    その数日後、
    田所との話がまとまるより先に、鳴子が倒れ、今に至る。


    ーーーーーーーーーーーーー

    パタンと携帯を閉じる

    「つーわけで、チャリメンテ終わったら、ウチ、行くぞー」

    「えっ!?主将さん待たなくてええんですか?」

    「イーノイーノ、待ってたら暗くなっちまうしな」

    そう言いながら、慣れた様子で冷蔵庫からベプシを取り出し、家主の居ない部屋で寛いでいる。

    そんな様子に、チクリと胸の奥が痛む。

    そら、同じ大学で同い年で同じチャリ部で、過ごしている時間が違う。分かっていた事やのにな、と小さな痛みに苦笑する。


    この人がアシストして...インターハイで見た、あの走りに引いてもろて金城さんは走っとるんやな。


    「ウッ...」

    「大丈夫ゥ?吐きそう?」

    「...いや、大丈夫ですわ...よっしゃ!メンテ終わったんでいつでも出れますよ!!」

    吐き出された小さな花弁は、汚れた布と一緒にビニールに包んだ。


    まだ外も明るい時間に金城の部屋を出た2人は、少し遠回りをしてサイクリングを楽しみながら、荒北の部屋を目指した。

    鳴子にとっては知らない道、知らない街、知らない匂い、知らない走り、知っている...空色の自転車。すべてが新鮮に感じられた。

    荒北の部屋は、思っていたより綺麗で、
    それをつい口に出してしまい小突かれた。

    自転車を片付け、帰宅途中に買った弁当を食べる。

    あまりにも自然な態度に、花を見られたのは気のせいだったのかと錯覚してしまう。

    「明日、オレ休みだから1日付き合ってやンヨ、チャリ」

    「マジですか!?よっしゃぁ!」

    「その様子じゃ、最近は思いっきり走れてネェみたいだしィ?ナニがあっても平気だから、思っきり走ろーゼ」

    な?といい、大きな手で頭をグシャグシャにされる。

    「おーきに、アラキタさん」
    「オー、じゃ、風呂入ってる寝るか」
    「はいな!」




    ーーーーーーーーーーーーーー



    走った。走った。何も考えず、ただ、前を見て。
    空色と、赤色。連なって走る。空色を赤色が追い、時に赤が空色を引き、ただ真っ直ぐに走った。

    花を吐くことなんて、忘れるほどに。

    その日の夜は、アラキタさん行きつけの定食屋に連れて行ってもらってから帰宅した。

    シャワーを借りてから、寛ぐ。
    久しぶりに頭も体も軽く感じる。

    やっぱり、ワイにはロードが1番だ。
    こんなにも満たされた気持ちと疲れは久しぶりだ。
    なにも考えずただまっすぐ走れたのは、紛れもなく、アラキタさんのおかげだ。


    アラキタさんはあの後も普通に接してくれてるし、
    このまま、花も吐くことなく、今まで通り過ごせるのでは?と考えたその時、

    「んで、ソレ、いつからァ?」

    カラスの行水の如き速さでシャワーを終え、濡れた髪をガシガシとタオルで拭きながらドカッと隣に座り、確信をつく質問を剛速球のストレートよろしくぶん投げてきた。


    あぁ、やっぱり、このままでは...居れへんよなぁ
    と少し残念に思いつつ、素直に質問に答える。


    「ぁー...何週間か前...そうだ、千葉の同じ会場でレースあったやないですか?アレの数日後...ッスかね」

    「.....ヘェ...……そーなんだァ」

    「そッス、ね...?」

    間が気になったのか、コテンと首を傾げた 少し濡れたままの赤い髪が揺れる。


    千葉でのレースの時、その時はまだ花を吐いて居なかったと言うが、確かにその時、鳴子から花の匂いがした。

    その匂いが記憶から離れず、キンジョーに「花を吐く病気」について聞かれた講義の後、普段だったらスルーするであろう類の話題なのに、わざわざネットで検索した。

    そこで【花吐き病】という非現実的で御伽噺のような、実在する病を見つけた。

    調べるほどに、鼻で笑いたくなるような浮ついた言葉の羅列がスマホの画面に流れていく。
    【嘘クセェ】
    それなのに、調べる手を止められなかったのは、微かに花の匂いを漂わせた赤い髪が頭の片隅にチラついていたからだ。


    完全に信じていた訳では無いが、実際に見てしまった。
    嗚咽と赤く濡れた瞳と、その手に散る対称的な空色の花を。

    あの時感じた仄暗い感情の名前は分からない。
    分からないが、本能的に感じてしまった。

    確信を得てしまった。


    「ショーキチチャン、好きなコいるんだねェ」

    「ッッ!」

    「あんな、苦しソーに花吐いちまうくらい、好きなコ」

    「......」


    まさかバレたのか。
    花の色を見られ...いや、でもそれがジブンとはならんやろ...。
    せっかく親切にしてくれてるンに、ぶち壊したらアカン。


    「ワイの恋人は、この真っ赤な自転車ですぅ!だから、ロードに乗ってる時は平気なンですわ...だから、大丈夫、なんです、今日だって一度も」

    「でも、オーバーワークで倒れたって聞いたケドォ?」

    「...花のこと、部のヤツらに知られたら、心配かけてまうって思ったら、つい...いやー、ワイとした事がチョォットやりすぎましたわー!」


    アハハと笑いながらチラと横を見ると、
    そこには見たことの無い、
    優しげな表情を浮かべた空色の男がいた。


    ドッと心臓が高鳴るのがわかる。

    同時にいつもの、嘔吐感が込み上げる。

    これはアカン。ダメだ。目の前が赤く歪む。


    「頑張るネェ...でも、アレだな、もう大丈夫だな」

    「へ?なん、」

    「ほら、もうオレなら、ゲロでも弱音でも、どんなンでも受け入れられるだろ?
    今日だって、いい走りしてたじゃネーノ、

    だから、大丈夫だろ」

    グッと込み上げる強い嘔吐感。

    限界だ。と立ち上がろうとすると同時に力強く腕を引かれ、バランスを崩す。
    口を覆っていた手も、外れてしまった。

    そうして、また、

    花を吐いた。

    いつもの、空色の花。

    空色の彼の目の前で。





    「ネェ、この花...触ったら伝染るンだっけェ?」

    「ちょ!そやで!?ダメや!触ったらアカン!」

    吐いた苦しさか、吐いてしまった羞恥か、伝染したらダメだという焦りか、 自覚した想いにか、
    赤い大きな瞳からはひっきりなしに大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちている。

    その瞳はジブンを見つめている。

    強い意志が籠った赤が縋るように、揺れている。

    濡れた赤い瞳か映しているのは、目の前の黒と空色だけ。
    仄暗い感情かじわじわと満たされていくのがわかる。

    コイツにとって、1番耐えられない事はロードに乗れなくなることだ。

    だから、ホラ、落ちてこい。

    「オメェは大丈夫、オレがいれば走れるって分かっただろ?」

    「アラキタさんが居れ、ば...?」


    一際大きく、赤い瞳が揺れた。
    それを見逃さなかった。
    再度腕を引き、力無くバランスを崩した体を抱きとめる。



    ーーーーーーーーーーーーーーー


    確信なんて無かった。
    接点の少ない、他校の、自転車部の選手の1人。
    好意を抱かれるような出来事も、好意を抱いている素振りも無かった。




    ただ、あの花の匂いが頭から離れなくて、

    自分の1番大切なモノと同じ色をした花を吐く姿を見たあの時、

    欲しいと、思ってしまった。










    「なンで、オレなのォ?」

    「……そんなん、ワイが1番知りたいッスわ……」

    「ンだソレ」

    腕の中で、いつもよりもさらに小さく縮こまった赤が、小さな声で答える。

    「……気ぃ付いた時には、もう、あの色の、花……」

    そこで言葉につまり、ボロボロと大きな涙が落ちる。

    「すんません、気ぃ悪いスよね、ホント、すんません…」

    そう謝りながら、慌てて腕の中から抜け出そうと身じろぐ身体を、逃がさないようにキツく抱く。


    この感情は何なんだろう。

    人好きする性格、周りを明るくする気建ての良さ、
    誰にでも振りまかれるまぶしい太陽のような笑顔。

    それがオレの言動ひとつひとつに揺れる優越感。
    それが曇った時、弱った姿を見せられる存在だという優越感。
    その憂いを晴らせるのは自分だという優越感。

    ただ、今感じているこの感情は……


    「…ウッ、ゲホッゲホッッ」

    「……ッッ!せや…アラキタさん、さっき花に!!!」

    反射的にバッと顔をあげると、飛び込んできたのは
    嘔吐感で少しだけ涙目になりながらもニヤリと笑う意地悪そうな顔と、


    「…赤い、花……?」

    「ゲホッ……ァーこりゃ、思ってたよりシンドいな、良く1人で耐えてたネ エライエライ」

    苦しげに笑いながらケホッと咳払いをするその人の手には
    真っ赤な花弁の、太陽のような花が。



    「ナァ、鳴子」

    「は、はいな」





    「ゼンカイで、走れヨ」





    2人、視線は外さぬまま。



    うわ言のように呟いた。



    「……アラキタさんが、おれば、大丈夫……。」


    空色の花と赤い花を互いの掌に握りしめ、
    静かに微笑む。


    「ハイ、良く出来まシタァ」



















    果たして、先に病に落ちていたのは、どちらなのか。

    それは、
    ゴミ箱で咲く2輪の赤黒い薔薇ですら、興味のないオハナシ。
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