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    ほっぺもち

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    ほっぺもち

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    つづき:医師フェスタで怪しい匂いを感じる椒丘。警戒しながらも触手の忌み物討伐に向かうも、やっぱり椒丘は攫われてしまう! でも飛霄将軍がいるから大した被害もなく倒せそうで詰まったんだよね

    触手ネタ(触手なし) 狐族の医師が、確かな手取りで電子カルテを整理していく。それを静かに眺めた後、曜青の将軍はわざと足音を立てて彼の机に近付いた。しかし「ああ将軍。居たんですね」と言う医師に将軍は顔を顰める。扉を開けるところから音を立てるべきだった。将軍はもうどうしようも無い後悔を飲み込み、なるべく明るい声を意識して医師に要件を伝え始める。

    「……触手の忌み物?」
    「ええ。なんでも狐族にだけ反応するけど、それ以外の時は巣穴に隠れて絶対に出てこないんですって。羅浮には狐族の軍隊が無いから、誘い出せなくて困ってるそうよ」
    「はあ……。それは羅浮から正式に依頼されたのですよね? なら僕に聞かずとも部隊を率いて討伐しに行けば良いではありませんか」
    「それがね、羅浮って今『医師フェスタ』なるものをやってるらしくて。貴方の目を治す方法が見つかるかもしれないし」

     将軍の声に混じった後悔に、医師は気付いていた。それでも互いになんでもないように振舞っている。覚えず発生してしまった配慮を掻き消すために、将軍は仰々しく、もったいぶってこう言った。

    「私とモゼ、そして貴方の三人で行きましょう!」

    ーーーーー

    「わざわざ曜青の将軍に御足労頂き感謝する。例の忌み物の詳細については後ほど天舶司の者を説明に向かわせる故、それまでは宿で旅の疲れを癒して欲しい」
    「過分なお心遣いに感謝するわ。私達、丹鼎司にも用があるからなるべく早く来て貰えると助かるわ」
    「了解した。天舶司にはそう伝えておこう」

     曜青の将軍とその側近が来たのだから当然ではあるが、飛霄たちは羅浮の将軍に丁重に迎えられ、長ったらしい敬語のやり取りのあと、豪華な宿に連れ込まれることとなった。なんと寝室が三つもあるスイートルームである。前回来た時は普通に三部屋別で通された。前回は演武典礼で自分達の他にも沢山客人がいたし、自分達に関しては客人というより羅浮を裁く敵の立場であったためだろう。

    「こんな部屋、よく存在しましたね……」
    「仙舟の偉い人は大抵従者が二人いるから、そのために作ったのかも。時々うちで迎えた客人に『羅浮はもっと手厚かった』って言われるのはこういう所なのね」
    「……落ち着かない」
    「モゼはもっと暗くて狭いところが好み?」

     気を落としている部下に、飛霄は笑って声をかける。塵一つ落ちていない部屋はモゼの好みだろうが、それ以外の、全体的に明るくて広々としている所は普段の仕事からして慣れないらしい。

    「これじゃ寝室も絶対広いわね。……ねぇ、三人で一緒に寝ちゃわない?」
    「将軍、自分の性別を思い出してください。出先ですよ」
    「だからこそ、じゃない! こういうの学生達のやってる修学旅行みたいでワクワクするわ」
    「修学旅行だって部屋は男女別です」

     椒丘はコンコンとこちらを諭してくる。融通の効かない部下に飛霄はため息をついた。モゼは完全に成り行きを見守るモードに入っているので援軍は望めない。
     正直、豊穣を狩り尽くすと決めた日から自分のための楽しみなど後回しにしているので、修学旅行のワクワクではゴネ続けられる熱量が無い。結局飛霄は自分の心配事を持ち出すことにした。

    「それじゃあ二人とも、このまま一人で眠れるの? 忌み物を倒しに行くのは明日よ。ちゃんと寝て英気を養わなきゃ」
    「僕は後方支援ですし、一日の徹夜くらいなら普段から……」
    「モゼは? 普段から結構夜型だし、枕が同じでも寝られるタイプじゃないんじゃない?」

     いつの間にか腕にいつもの枕を抱えていたモゼを見て飛霄が言う。椒丘も同意だったようで「それはそうですが……」などと言い、モゼは不本意そうな顔をした。

    「椒丘先生」
    「……はぁ。医士として、患者の安眠も受け持たなければ」
    「やった! じゃあ椒丘が真ん中ね!」
    「えっ、モゼの落ち着かなさを解消する為では!?」
    「貴方が端っこだと落ちそうなんだもの! モゼもそれで良い?」
    「はい」

     今度は椒丘が不本意そうな顔をする。それでも、椒丘は心の中で安心していた。今夜はいつもの悪夢を見なさそうだと、漠然とした希望があったから。それはきっと飛霄の狙いの一つで、彼女のそんな優しさに自分達はいつも救われている。

     そうこうしていると、リビングルームから廊下に繋がる扉が叩かれた。

    「青丘軍の皆様。天舶司から此度の依頼について説明に参りました」

     と、丁寧に述べるその声は聞き覚えがある。飛霄は慌てて扉を開けて、使者を招き入れた。

    「……御空!? まさか舵取が来るなんて」
    「飛霄、演武典礼から一年ぶりね。今回は私が自分から行きたいって言ったの」

     そう言って御空が突然頭を下げるので、飛霄はとてもぞっとした。御空に実子は居ないが、その母性はほとんどの狐族を骨抜きにし、心酔させている。飛霄もその一人で、御空の前だとまるで子狐にでもなった気分になるのだ。……つまり、このような場面では、母親に頭を下げられているようで恐ろしい。

    「どうか、あの忌み物を狩って欲しい……。でも、どうか気を付けて」
    「頭を上げて、御空。一体どうしたの?」
    「そうね。説明するわ。あれは一か月前のことだったの」

     一か月前、交易から帰ってきた天舶司所属の狐族が、帰ってくるなり顔面蒼白の状態で天舶司に駆け込んできた。何があったか聞いてみると、仲間の狐族が怪物に「食べられた」のだと言う。落ち着かせてから数えると、五人編成で出発した彼らは二人にまで減っていた。しかし、積荷には傷一つついていなかった。「奴は、すごく器用に、船の上の私達を攫っていったんです」。
     その後、雲騎軍が調査に向かい、数回目でその怪物を発見するに至った。調査を繰り返すうちに、その怪物は狐族を狙っていること、驚異的な回復力から豊穣の忌み物であろうことが分かった。しかし羅浮の雲騎軍には狐族が少なく、これ以上調査をしようとすると、その狐族を囮のように扱わねばならない。それは人道的観点から厳しいので、熟練の武人も多い曜青に助けを求めた、という訳である。

    「襲われた狐族の子は、本当に真面目でよく働いて、私とも親しかった子達なの」

     御空は再び頭を下げた。御空にとって天舶司の職員は家族のようなものである。だから飛霄達に仇討ちを頼みたいのだ。空に出られない自分に変わって。
     飛霄も椒丘も、豊穣には必ず復讐する気でいる。ゆえに何をどう依頼されてもやることは変わらない。でも、同時に願っているのだ。「一人でも多くの人が家に帰れるように」「豊穣のせいで泣く人がいなくなるように」。飛霄は御空の手を取り、強く誓う。

    「絶対、百倍返しにするって約束するわ」
    「ありがとう……でも、気を付けて」

     ほっとしたように笑う御空の目尻には皺が出来ていた。狐族の年齢は見た目からは分からない。しかし御空のその声、仕草、表情には、長年の苦難が滲み出ていた。彼女もまた、飛霄たちと同じように30年前の豊穣戦争で何かを失っているのだ。

    「御空舵取……噂通り、なんとも不思議な感覚の御仁ですね。将軍が懐くのも頷けます」
    「椒丘は会ったこと無かった?」
    「戦場でまみえたことなら何度か。こうして半分プライベートの姿を見たのは初めてです」
    「お前は懐かなかったのか」

     御空が部屋を出て行くと、椒丘が感嘆とした声を上げる。しかしモゼがしばらくぶりに口を開いたことで椒丘の声は驚嘆に変わった。

    「僕と御空舵取は多分同年代ですよ。尊敬こそすれ、懐いたりしません!」
    「尊敬?」

     今度は飛霄が質問をする。椒丘は一瞬答えに詰まったが、少しして穏やかに話し始めた。その表情は先程の御空のように、目尻に皺が出来た、長年の苦難が滲み出た表情だった。

    「御空舵取はあの戦争で摩耗し、戦場から身を引きましたが……僕と違って、戦いからは逃げませんでしたので」
    「でも、貴方は今ここにいる」
    「そうですね。貴女に引っ張りだされましたから」
    「っあはは! そうだったわね!」

     やれやれと呆れる椒丘に飛霄が笑う。つられて椒丘も笑った。椒丘の目には見えないが、きっとモゼも笑っているだろう。手放しに笑えるような話ではなかったかもしれないが、なんとなく波長が合ってしまったのだ。
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