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    zeroyasya

    ダテサナ 小説置き場

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    zeroyasya

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    政宗公お誕生日おめでとうございます小話
    ※過去に書いた作品
    ※幸村女体化、捏造子あり
    ※戦国時代設定

    泣き虫な竜蝉の鳴き声が騒がしくなるこの時期、長く続いた梅雨が開け空から燦々と太陽が照りつける日々が始まる。昨年から河川工事を行ったおかげで今年は、川の氾濫による被害も無く、田畑には夏野菜が実り青い稲が太陽に向けて背を伸ばしていた。心配事が無いといえば、嘘になるが季節をまた一つ無事に乗り越えたと奥州筆頭は手元に届く報告書に目を通しながら満足気に頷く。花押をしたため、筆を置くと書簡を受け取った小姓が一礼して執務室を去って行った。
    「Hmm……」
    煙管を手に一服していると、床を伝っていくつかの足音が向かって来た。やれやれ、と火種を落とした政宗は、煙管を灰皿に置き溜息を吐く。今から目の前に現れる奴らに飛びつかれでもしたら、畳に火種を落としてしまうかもしれない。小さな火種だが、火災に繋がる可能性は大いにある。建てたばかりの城を燃やすことだけは、避けたい。
    「Ya……大八と阿梅、何度廊下を走るなと言ったら分かるんだ」
    「「ととさま!」」
    「Oops!」
    予測通り飛びついて来たのは、目に入れても痛くない我が子達だった。幼子といえ、齢四つと三つになる子供を受け止めれば、それなりに体は傾き近くに置いていた灰皿をひっくり返しそうになった。
    楽しそうに父親の胸に飛び込んで来た次男と次女を諌めつつ、膝から落ちぬように我が子達を抱き直し、普段執務室にやって来ない二人に何故来たのかと尋ねた。すると二人は、目を丸くして小首を傾げた。「おいおい」と、ぬけた表情をする子供達に呆れた政宗だったが、思い出した大八と阿梅は、弾けるように口を開いた。
    「かあさまが、ととさまのことよんでる!」
    「つえてきてっていわれたの!」
    「幸に?」
    善は急げだと言わんばかりに立ち上がった幼子二人は、父親の袖を引っ張り立てと催促してくる。日の本広しと言えど、奥州筆頭の袖を催促しながらひっぱり従わせることなど出来る人間は極僅かである。その内の二人である大八と阿梅は、立ち上がった父親の左手と右手を各々繋いで走ってやって来た道を戻る。小さな歩幅に合わせて歩いて行くと、空腹を刺激する匂いが濃くなる。香ばしくそれでいて温かな匂いは、数年前からこの時期になると香るある日を告げる匂いだった。
    (もうそんな時期だったか)
    幼子と手を繋ぎながら、月日の経過に驚く。思い返せば、去年の今頃、左手を握る阿梅は先程のように悠長に喋れなかったし、大八は、妹につきっきりの母親にやきもちを焼いて癇癪ばかり起こして毎日泣いて妻と頭を悩ませていた。
    それが今では、母からの言伝を覚えて離れた場所に居る父親を呼びに道順を考え、やって来たのだから子供の成長の速さには、毎度目を剥いてしまう。
    「かかさまぁー!」
    「ととさまつえてきたよ!」
    「おお、大八と阿梅、ご苦労であった!」
    任務を果たした二人は、部屋の前で待っていた母親に駆け寄り褒めてくれと言わんばかりに抱きついた。幼子を抱き締めた妻の幸村は、柳眉の政宗に笑みを浮かべ「皆が待っておりまする」と閉ざされた障子を開いた。開かれた部屋に政宗が一歩踏み出すと、そこには本日の主役の登場を待ちかねていた大勢の者達が控えていた。政宗の登場に家臣や小姓、女中に侍女、様々な役職の人間が口々に祝福の言葉を述べる。賑やかな言葉に負けないほど、色とりどりの装飾が施された室内の上座に座った政宗は、いつも以上に表情を崩し今日が一体何の日だったか思い出した。
    今日は、奥州を統べる隻眼の竜が産声を上げた日だった。
    「ここ何日か、落ち着きが無いとは思っていたがこの準備のためだったのか」
    「毎年バレぬように動いて居るのですが、隠し事は苦手で……。ですが、政宗殿ご自身が誕生日に無頓着なおかげで毎年なんとか、さぷらいず誕生日会が出来ておりまする」
    「……それは、褒めてんのか?」
    「はて」
    微笑む妻に政宗は、一杯食わされたと思いつつ言葉の綾にしては、棘があったようなと首を傾げる。結婚するまで家族や身内での行事ごとに疎く、家臣の誕生日は褒美を取らせ言葉を贈るのみだった。ましてや、自分の誕生日など疎遠になった母親や亡くなった父親と弟を思い出す虚しい日だった。その為、祝い事というより、自らを諫める日として捉えていた。しかし、結婚を機にその考えは改まり我が子が生まれると、祝われることは、心地よいものだと感じるようになった。もちろん、妻や子供達、家臣を含む身内の誕生日に対しても祝う側である考え方も変わった。
    「筆頭!これ、みんなで意見出しあって用意した誕生日ぷれぜんとスッ!」
    「お気に召すか分かりやせんが、受け取って下さい!」
    「Ha おめぇらからのpresentってだけで最高の贈り物だぜ」
     軍を率いる家臣団代表として、良直が漆喰の木箱を政宗に手渡す。その場で開けば、関ヶ原の合戦の際に受け取った頸当てと似た意匠の鍔が入っていた。
    「Coolなdesignじゃねぇか!しかも、ちゃあんと六つ用意しやがって!ありがたく使わせてもらうぜ。Thank you」
    「筆頭おおお!」
    「次は、我らの贈り物を!」
    「いえいえ、私たちの!」
     鍔を手に取り笑みを浮かべた政宗に、家臣団は喜びの絶叫を上げる。その絶叫に傍から小姓や女中達が、贈り物を持ってそぞろ立ち、ひしめき合う。皆、選んだ贈り物をいち早く主君にと気持ちが先行してしまい、上座は人でごった返す。本来ならば贈り物は、昼食を味わった後に受け取る筈が、今年は熱意のあまり順序を見誤ったようで、昼食どころではなくなってしまった。収拾のつかぬ熱気と人の波に伊達夫妻が右往左往していると、大きな足音が広間に近付いて来た。
    「テメェら!此処が御前だと分かってンのか!」
    「片倉様!」
    勢いよく開いた障子の先に居たのは、竜の右目、片倉小十郎その人だった。開口一番に飛んだ怒号といつにも増した小十郎の眉間の皺に群れを成す人混みは、蜘蛛の子を散らすように去って行く。その中から、小十郎は目敏く騒ぎの元凶を摘まみ上げた。
    「良直!状況を見誤るなと何度教えたら覚えるんだ!」
    「ひぇぇ!すいやせん!」
    「悲鳴なら後で幾らでも聞いてやる!」
     そう言って、良直の首根っこを掴み座敷に居た家臣一同を連れて来た真田十勇士と共に捕縛した小十郎は、乱れた前髪を整え本日めでたき日を迎えた主に向き直る。
    「このようなめでたき日に、そそを致しまして大変申し訳ございません。お咎めは、後ほどこの小十郎が受けますので何卒今は、ご容赦を」
    「騒がしいのは、ウチの軍の特色だからオレは別に気にしてねぇけどよ……なんだ、その……そいつらも悪気があったわけじゃねぇだろうから、ほどほどにしてやれよ」
    「御意」
     頷いた竜の右目は、伊達家臣団を連れ広間を後にする。やれやれと、頬を掻きながら横目を見れば子供達が連れて行かれる男達の無事を祈るように合掌していた。その様子が、やけに滑稽に見え、政宗は噴き出したが妻に諫められ喉を鳴らした。
    「今年もド派手なpartyになったな」


    ***

    近頃何やら、屋敷の中がやけに浮き足立っているなと感じていた。しかし、いつものことながら領内の管理や客人の接待などの仕事に追われ忘れてしまう。そして、気が付けば妻子が己の為に宴を用意し、毎年その日の午後からどんちゃん騒ぎが始まる。
    「歳を取るのも、悪くないな」
    「政宗殿?」
     手酌をしていた妻の間の抜けた声に政宗は、片眉を上げる。言葉のままだと、杯に注がれた酒を飲み干せば妻は首を傾げたまま、また夫の杯に酒を注ぐ。
    「見てる景色が昔と今じゃ少し違うことに気が付いた」
     戦乱の世を猛る竜が如く、雷鳴の如く駆けまわった日々とはかけ離れた穏やかな今。隣には、生涯の好敵手であり伴侶と定めた愛しい存在と残った左目に入れても痛くない程溺愛する可愛い子供達が居る。そして、もう反対側には、信頼する部下や慕ってくれる民が居る。目まぐるしく変わる戦況と国政、緊迫する隣国との関係に押しつぶされそうだった若かりし頃に、思い描いた理想に近い場所で、あの頃より幾分か歳を経た政宗は、過ごしている。
    「民の笑顔や国の安泰を望む願いは、昔と変わらず此処にある。だが、オレは欲張りでな」
     胸に手をやる政宗は、目を伏せながら思い出に浸りながら言葉を紡ぐ。
    「オレの願いを誰かが受け継いで、この土地に思いを根差しオレが朽ち果てた後も、その先の世をオレに見せて欲しいと思っちまった」
     それは、遠い未来の話。人として生まれ育ち老いて死んでしまった後の話に、幸村は目を見開くが心の底から土地と民を深く愛する思慮深い夫の思いに笑みを浮かべる。
    「それは、きっと我らの子供達が受け継ぎ更にその先の子らが叶えてくれまする」
    「Yaその時は、アンタも隣に居ろよ?一人は、寂しいからな」
    「勿論」
    妻と約束をした政宗は、舞台に目を向ける。そこには、おめかしをした我が子達が、この日の為に練習を重ねた歌を披露してくれていた。可愛らしい歌声と踊りに目元を緩ませていると長女の五郎八が不意に舞台から降りて、此方に向かって来た。「一体どうしたのか」と妻と耳打ちあっていると、恥ずかしそうに五郎八は、手に持った物を政宗に差し出した。紐で括られたそれを紐解けば、似顔絵が出て来た。
    「父様、お誕生日おめでとうございます!」
    「~~‼」
    不意打ちの贈り物と我が子達からの言葉に政宗の涙腺は、決壊秒読みに追い込まれる。大の大人が、奥州筆頭の名を持つ男が公衆の面前で泣くわけには、泣いて堪るものかと踏ん張っている横で呑気に笑う妻は、感動のあまり背中を震わせる夫の背中を撫でた。
    「政宗殿は年々泣き虫になりまするな」
    「誰のおかげでな……っ」
     着物の袖で夫の瞳から溢れた涙を拭った幸村に政宗は悪態をつくが、語尾が掠れ言葉に覇気は無かった。毎年、理由は様々だが感動で目元を濡らす夫に、決まって幸村は尋ねる。
    「今年も良い日を過ごすことは、できましたか?」
    「嗚呼、最高の一日だった」
    「それは良うございました」
    頑張って用意した甲斐があった。と満足げに笑った幸村は、どんちゃん騒ぎが繰り広げられる間際にそっと政宗だけに聞こえる声で、耳打つ。
    「愛しております、藤次郎様」
    そっと消え入るような声で、告げられた言葉に僅かに政宗の涙は引っ込み、代わりに頬が赤らむ。その表情に同じように頬を染めた幸村は、してやったりと笑ったのだった。


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