希求灰色の雲が厚くなり、クルザスを覆う寒さが格段に厳しくなるこの頃。今年も、星芒祭の季節がやってきた。
期末試験を終えて星芒祭休暇に入った学園でも同様に、友人や恋人、婚約者、家族と思い思いの時間を過ごす者が多くなる。高貴なる四大名家の一角に連なるグリノー・ド・ゼーメルもまたご多分に洩れず、星芒祭を楽しまんとするその一人であった。
夕暮れ時の人気がまばらな庭園を抜け、薄暗い石畳の廊下も越えて、重厚な小講堂の扉を押し開ける。
目に飛び込むのは静謐な青の空間に佇む女神像と、夕焼けを受けて滲む、戦神を描いた極彩色のステンドグラス。グリノーはいつものように、最前から二番目の席へ視線を向けた。
「ハルア」
見間違うはずもない。色とりどりの明かりに透かされて、グリノーの婚約者――ハルア・ステラティアは淑やかに組んでいた両手を解いて振り向いた。
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