権力者の夢主さんに振り回されながら大人な恋愛をする五条の話になればいいなという願望。『維持し、廻し、繁栄させよ――』
呪いのような言葉が、今も耳にこびり付いている。
全ては、呪術界の維持のために。
幼い頃からそう言い聞かされて育った彼女には、それは当たり前であったし、『選ばれて』からもそれは変わらなかった。
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★五条さんは二十歳くらい。当主を継ぎ始めたあたり。
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「――悟坊ちゃま!」
五条家の広い廊下を、老爺が駆ける。勢い良く開かれた襖の奥に居たのは、若き当主の姿だった。先日その重責を担った彼は、青い双眸を細めて小さく溜息を吐く。
「『坊ちゃま』はやめろって言っただろ、爺や。それで何? そんなに慌てちゃって」
「しょ、召集が来ております!」
「は? どこから?」
「そ、それが――」
青い顔の爺から差し出された手紙を悟は受け取ると、差出人を確認して目を見開いた。
そこに書かれていたのはこの呪術界を統べる、と称して不足ない家名だった。悟は爺やの方に視線を戻すと、しばし彼と顔を見合わせるのだった。
★夢主さんの家(超権力者)を訪れる五条さん。恵くんの処遇を巡って禪院家と諸々あったことについて、真意を問われる。話をしている内に夢主さんに気に入られる五条さん。
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★夢主さんに気に入られてから、護衛兼荷物持ちで買い物に付き合わされることもある五条さん。ある日、意見の相違から「力で僕に敵うと思うのか」的な発言を五条さんがしたり。
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ぐい、と悟は首元を掴まれ引き寄せられる。口付けが出来そうなほどの近さで、彼女の視線は真っ直ぐに悟の瞳を射抜いた。
「純粋な暴力では私は君に敵わない。でも、金も、人脈も、権力も、全部私の『力』なんだよ」
ふ、と彼女の口元が弧を描く。絶対的な確信とどこか諦めが混じった表情だった。
「殺したければ殺せばいい。命は惜しくないからね。でも、そうした後にどんな状況になるか想像が出来ない程、君は馬鹿じゃないだろう?」
ギリ、と悟の顔が歪む。彼女の言う通りだった。それこそ指先一つで彼は彼女を殺せる。しかし、その後呪術界はいくつもの派閥に分かれ、いがみ合い、呪い合い、あまつさえ互いの血を流すまでに至るだろう。
利己的で腐り切った呪術界に蔓延る烏合の衆達を束ね、曲がりなりにも組織として成立させる――そんな『力』が確かに彼女にはあった。
★夢主さん的にはマジで命に頓着してない。彼女にとって生きることとは「己の持つ力を駆使して呪術界を維持し、出来れば良い方向に持っていく」というゲームをしているのと同じ。
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★この日の買い物に付き合わされた五条さん。夢主さんの滞在先のホテルに荷物を置いたところでの会話。
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「じゃあ、抱いて」
「は?」
ゆったりとベッドに腰掛け脚を組んだ彼女の言葉に、悟は固まった。彼女の方はその反応に首を傾げる。
「うん? 伝わらなかったかな? セックスをする、という意味だったんだけど」
「そのくらい分かる」
「そう。私もそういう欲くらいあるから、少し発散させたくて」
「……なんで僕なんだよ」
「別に誰でも……ある程度信頼と信用が出来る相手なら誰でもいいんだけどね。今日はたまたま君がいるから」
「なんだそれ」
「君も初めてなわけじゃないだろうし、操を立てる恋人がいるわけでもないだろう?」
彼女の言葉に、悟は一瞬息を詰めると弱々しく事実を述べた。
「………………初めて、だよ」
それを聞いた彼女は、滅多に見せない驚いた表情でぱちくりと目を瞬かせた。僅かな静寂の後に生まれるのは彼女の笑い声。
「ふっ……ふふっ……あははっ! いや、すまない。馬鹿にしたわけじゃないんだ。ただ、意外だったなと」
「そういう機会がなかっただけだ」
悟の眉間に皺が生まれる。事実、任務だ家業だと忙しい日々を送る彼に、そのような相手も機会もないことは仕方のないことだった。彼の立場を考えると行きずりの相手と事に及ぶ、というのも難しい。
「そうか。しかし、それならやめておこうか。一般的に初めての相手、というのは特別なものなんだろう?」
どこか労るような声で彼女が告げる。しかし、悟は一歩踏み出した。おや、という顔を見せる彼女の目の前まで来ると、彼は身を屈めて彼女の顎を掴む。
「別にかまわない。『ある程度信頼と信用が出来る相手なら誰でもいい』んだろ? ……僕だって同じだ」
「そう? ……ふふ、じゃあ楽しませてもらおうかな」
唇が重なる。ゆっくりと彼女の腕が悟の首に回り、二人の体がベッドに沈んでいった。