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    hinode45

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    31巻の黒幕暗躍を受けて妄想箇条書き。

     妙な噂を耳にした。そんなことをするのはあの方しかいないだろうな、と鯉登は最近耳にした「噂」について月島に聞かせた。
     月島は夕飯をちゃぶ台に並べながら「あの人ならやりかねませんね」と言った。その声があまりに淡々としていたため、鯉登は一瞬月島の顔を凝視した。月島の様子は普段と変わらない。だから、何事もなかったかのように話題を変え、兵営に野良猫の親子が住み着いたことを話した。しかし自室に戻った後、やはり月島のことが気になった。
     その日の夜、鯉登は久しぶりに月島の寝所を訪れた。若い頃は同じ部屋に布団を敷いていたが、鯉登が忙しくなるにつれ別々に眠るようになった。不満を口にすれば、
    「ほぼ毎日人の布団に潜り込んでいるのですから、今までと変わらないでしょう…」
     と月島は苦笑し、追い出すわけでもなく鯉登の自由にさせてくれた。ここ数年は毎日とはいかず、月に二度か三度、一緒に寝られればいい方だった。
     白髪の増えた月島の坊主頭を抱きかかえ、いいのか?と聞いた。
    「何がですか?」
     と月島は飄々とした声で聞き返す。
    「くだんの人物のことだ」
     あれが鶴見だという確証はない。だが、初めてその人物の情報を受け取ったとき、鯉登は間違いないと確信した。月島に伝えるか迷ったが、今の月島ならば大丈夫だと思い直した。
     月島からは言い出しにくいだろうから、こうして腹を割って話に来た。ぎゅうぎゅう月島を抱きしめていると、月島の腕が腰に回された。
    「なんですか、今日はずいぶん甘えてきますね」
     胸元で月島の声が響く。否定したかったが、これが最後になると思うとやはり甘えたかったのだと思った。
     月島は、もう大丈夫だ。
    「いつでも出て行っていいんだぞ」
     ボソリとつぶやいた。月島が顔を上げる。近年稀に見る不機嫌な顔をしていた。
    「私はクビになったのでしょうか?」
     表向きは、軍を辞めてから鯉登個人に雇われた、ということになっている。この言い方では暇を出されたのだと勘違いされても仕方がない。
    「そうではない。あの時のお前はボロボロで、とても見過ごせる状態ではなかったから引き止めてしまったが、今は違う。もうお前は大丈夫だ。安心して、までとは言えないが、月島の意思を尊重して送り出せる。だから――キエエエエエエ!?」
     腰が砕けるかと思うほど強く抱きしめられた。
    「閣下、俺にはもう過去は必要ありません。あなたの右腕として生涯を全うするつもりですから余計な気遣いは無用です。助けて欲しいと言ってくださったあなたを、俺はこの先一生見捨てるつもりはありません。それだけは覚えておいてください」
     月島の声は低くて静かだった。鯉登は馬鹿なことを言ったと後悔したが、月島の本音が聞けたので結果的には良かったのだと思うことにした。
    「わかった、私が浅はかだった。すまん、許せ」
     以前に比べ、わかりやすく拗ねるようになったのはいいが、いささか乱暴である。
    「ところで、出ていけとおっしゃった件ですが、俺が邪魔になったのでしょうか?」
    「馬鹿を言うな。お前がいなくなったら困るだろう。月島が邪魔になることなどありえない。私が悪かった。もう二度と言わん。だから意地悪しないでくれ…」
     月島が今より五歳若ければ、夜が明けるまでこんこんと言い聞かせられていた。鯉登はそのころの月島よりも若いとはいえ、一晩中付き合うのはしんどくなっていた。
     鯉登が反省していると、月島は腕の力を緩め、鯉登の左頬をなでた。
    「あなたは真っ直ぐ私を求めてくれた。それがどういう意味か忘れないでください」
     鯉登は、うふふ、と笑った。そうだった。それだけで良かったのだ。そばにいる理由なんて、その一言で充分だった。
    「私には月島の助けが必要だ。これから先も、きっと生まれ変わっても」
     真剣な顔で言えば、月島は、ははっ、と笑って優しく抱きしめてくれた。
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